幕引きー同窓会(2015.7.28日作)
今年 平成二十七年(2015)
わたしは七十七歳
取り立てての病状もない
比較的 元気だ まだまだ
生きる意欲 生への執着心は
失っていない 胸に抱く希望も
失くしてはいない
何も 変わっていない
あの頃 遠い昔に生きた日常 日々が
今を生きるわたしの意識の中で
そのまま生きている 何も
変わってはいない 真実
絶対的真実 変わらぬ意識
絶対的真実 変わるもの 肉体 その
明らかな衰え 眼に見えての衰退
豊かな頭髪 髪の減少
堅固 柔軟な筋肉 その喪失
色つや 張りを失くした皮膚の
眼に見える現実
おととし 去年 半年前に可能だった
あの動き この動作 困難 不可能
時々刻々 移りゆく時が 削り取り
侵蝕して来る
存在 個が 重さと厚さを失くし
次第に稀薄化する 時が
七十七歳の命を生き急がせる
昭和二十九年 千九百五十四年
千葉県匝瑳郡白浜村中学校卒業生
卒業以来続いて来た
二年に一度の同窓会 その同窓会も
一年に一度となって 今
幕引き 終焉が話題となり
間近となる
抗い得ぬ現実 老い 人の世の運命(さだめ)
憂愁が胸を塞ぐ
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いつか来た道 また行く道(12)
「いや、少し前まで上にいたんだけど、あんたが事務所を出るのが見えたんで、急いで先回りして来たんだ」
わたしは運転席に腰を下ろすと中沢の眼の前でドアを閉めた。
すぐにキイを差してエンジンを掛けた。
中沢は慌てた様子でドアのガラスを叩くと、
「向こうを開けてよ」
と言った。
口の動きと身振りで分かった。
わたしは構わず車を出した。
中沢は咄嗟に車の前へ廻ると立ちはだかった。
わたしは怒りに充ちた視線を彼に向けた。
彼はそれでもひるまなかった。
「ドアを開けなよ」
と、また言った。
わたしはドアを開けた。
彼はすぐに乗り込んで来た。
「俺を轢き殺そうっていうの ?」
彼は冗談交じりに言った。
「そうよ」
わたしは彼の顔も見ずに言った。
「おっかないね。よっぽど気を付けないと危ないね」
彼はわたしに語り掛けるように言った。
「気を付けた方がいいわよ」
わたしは車を動かしながら前方を見詰めたまま言った。
中沢はそれでも上機嫌だった。わたしの言葉など気にする様子もなかった。
わたしは無言のままハンドルを握っていた。
いつかの夜、鏡の中を見つめるわたしの意識の中を走り抜けた殺意への記憶が蘇った。
わたしはそれでも冷静に車のハンドルを操作していた。
地上へ出ると夜の街はすっかりネオンサインの光りと深い闇に包まれていた。
「何処へ行くつもりなの ?」
わたしは言った。
「あんたの行く所さ。金が無くなっちゃったんだ」
彼は言った。
「それがどうしてわたしと関係があるの ?」
「写真を買って貰おうと思ってさ」
「今、持ってるの ?」
「持ってるよ」
「まだ、いっぱいあるの ?」
「焼き増しすれば幾らでもあるよ」
「卑怯ね、あなたは」
わたしは冷たく言った。
「卑怯なわけじゃないけど、これも世間を生きる為の知恵なんだ。出来ればあんたに迷惑を掛けたくなかったんだけど、仕方がなかったんだ」
「他に好いカモは見付からなかったの ?」
「まあ、そんなとこだけどね」
「菅原さんはどうしてるの ? 菅原さんに頼めばいいじゃない」
「知らないよ、あの人の事なんか」
怒ったように彼は言った。
「あなたとは関係ないの ?」
「関係ないよ、あんなおばあちゃん」
「どうしてクスリ(麻薬)をやめないの。やめなさいよ、そうすればお金をあげるから」
「やめられれば、とっくにやめてるさ」
嘲るように彼は言った。
その嘲りが彼自身に向けたものなのか、わたしの無知に向けられたものなのかは分からなかった。
「仲間は居るの ?」
「なんの仲間 ?」
訝し気に彼は言った。
「クスリをやる仲間よ」
「そんなもの、居る訳ないだろう」
「でも、クスリを買う相手は居るでしょう」
「それは居るよ」
「暴力団なの ?」
「暴力団なんかじゃないよ」
吐き捨てるように彼は言った。
「クスリを買う相手は何人居るの ?」
「一人さ」
「じゃあ、お金の都合が付かないから、少し待ってくれって頼めばいいじゃない」
「そうはゆかないさ。向こうだって遊びで商売してる訳じゃないんだから」
「ずいぶん、物分かりがいいのね」
「物分かりがいい訳じゃないけど、しょうがないよ。これまでにも借金があるんだから」
「わたしが上げたお金は、全部、使っちゃったの ?」
「使っちゃったから、くれって言ってるんだ」
「そんなにしてまで、どうしてクスリなんかやめようとしないの ?」
「あんたには関係ないだろう」
「関係ないわよ。だからもう、わたしには纏わり付かないでよ」
「纏わり付いている訳じゃないよ。俺はあんたと商売してるんだ」
中沢はふてぶてしく言った。
「そう、好い商売相手を見付けたわね」
不機嫌そうに彼は黙っていた。
「警察に訴えるわよ」
「訴えればいいだろう。だけど、前にも言ったように、訴えればあんただって麻薬常習者と寝た女って週刊誌に書き立てられて、世間からああだこうだって言われて信用はがた落ちだよ。俺なんかはどうでもいいけど、あんたの方は大事になるよ」
「あなたのお仲間がどうにかするって言う訳け ?」
「そんな事、関係ないよ」
「じゃあ、あなたが捕まれば、写真も無駄になっちゃうじゃない」
「だけど、喋ることは幾らでも出来るよ。警察である事ない事、あんたの悪口を喋れば警察だって、あんたに手を廻さない訳にはゆかなくなるよ。そうすればこれまでの事がみんなバレてしまって、あんたは週刊誌の好い餌食だよ」
以前にも彼が口にした言葉だった。
わたしは彼のその言葉を再び耳にして、思わず彼への激しい憎悪を搔き立てられ、危うく赤信号の手前で停車している車にぶつかりそうになって、慌てて急ブレーキを掛けた。
「おうッ、危ないなあ」
シートベルトをしていない中沢は大きく体を揺すられて座席の前に顔をぶつけそうになった。
わたしは赤信号の前方を見詰めたまま、
「で、今度は幾ら出せって言うの ?」
と、静かに聞いた。
「三百万」
彼は言った。
「ふざけないでよ。そんなお金、二度も三度も、誰が出すと思ってるの」
わたしは野放図な彼の要求に思わず熱くなって言い放った。
「しょうがないよ。借りてる分も払わなければなんないんだから」
「それがわたしに、なんの関係があるのよ。冗談じゃないわよ。あなただって働いているんだから、お客さんから搾り取ればいいじゃない」
「あんな店、辞めちゃったよ」
「辞めたの ? じゃあ、今は何もしてないの ?」
「してないさ」
「それじゃあ、カモだって捕まるはずがないわ」
「だから、写真を買ってくれって言ってるんだ」
「わたしが上げたお金で遊んでいたのね」
中沢は何も言わなかった。
「あなた、自分の顔を鏡で見た事がある ? その土気色の皮膚や引っ込んだ眼、まるで骸骨だわ」
「俺がどうしょうと俺の勝手だろう」
彼は怒りを滲ませた口調で言った。
「そうよ、あなたがどうしょうとあなたの勝手よ。だから、さっきも言ったように、わたしにしつこく纏わり付かないでよ。わたしにはわたしの生活があるんだから」
「あんたが金さえ出せば、それでいいんだよ。俺は何にも、あんたの生活を邪魔しようなんて思ってないよ」
中沢は凄味を利かせた口調で言った。
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takeziisan様
有難う御座います
方言 おっかない
もはや 一地方都市の方言とは言えないようです
わたくしの方でも使いますし 東京などでも一般的に使われていますね
関西地方や九州などではどうなのでしょう
雨に歩けば ジョニー レイ
彼が長い下積みを経て ようやくブレイクした歌ですね
冒頭の歌声 頭に浮かびます
雨に唄えば これもまたいいですね あのタップダンス
思わず心が浮き立ちます 今の時代 かってのハリウッドを盛り立てた
各分野の名手達に比肩するような人達はいるのでしょうか
寡聞にしてあまり耳に眼にしないのですが
パペーテの夜明け この音楽は耳にしたような記憶がありますが
曲自体は知りませんでした
採り立てのキュウリで一杯 至福の時ですね 贅沢な時間
このような時間が何時までも続いて欲しいものです
足が攣る 老化の現象でしょうか
わたくしも最近 ひょっとした調子に足が攣ります
あの痛さときたら・・・願い下げです
どうぞ 細く長く無理をせず
この楽しいブログが何時までも続く事を願っております
有難う御座いました
桂蓮様
新作 拝見しました
健康な体に健康な感情
肉体が不調だと確かに心に影響します
肉体は心だと言えるかも知れませんね
マイナスを呑み込んで流す 克服しようとするのではなく
そのまま受け入れる ここでも禅の世界が役立ちます
禅は否定しない あるがままに受け入れている これが現実なら
その現実を受け入れて今 最善の道を選ぶ 人には
それしか出来る事はありません 現実に不満を並べ
ああだこうだと言っても 現実は変わるものではありません
今を生きる 今の自分を精一杯生きる
人に出来る事はそれだけです どうぞ より良い明日に向けて
日々 充実した時をお過ごし下さい
苦痛の多い中 記事を書き 拙文にお眼をお通し戴く事に
感謝 御礼申し上げます
有難う御座いました