
しかし、この運転手さん真面目だ。慎重だ。
この先の信号が青、横の歩行者用の信号が点滅し始めている。
このままのスピードを保てば何とか黄色に変わる手前で通過できる。
まさか、この信号で止まらないでよ、通過してよ。

朝の乗客はみんなそんな思いを抱いて乗っている。少しでも早く行きたい。それでなくてもバスは時間が不規則なんだから。

そんな我々の思いとは裏腹に、運転手さん、早くもブレーキを踏んで止まる準備をし始めた。うそー、ウソー、マジ? 嘘でしょう!!! と、口に出したいくらいだった。


思わず私は右足でアクセルを強く踏んだ。そして運転手の横顔をチラっと見た。

青に変った。相変わらず速度は控えめで遅い。すると、十メートルくらい先を鳩がツツツツツっとゆっくり歩いてきた。乗客はバスの急ブレーキで前のめりになる。止まった。

鳩は何事もなかったように渡りきった。
ふーー、よかった。危機一髪、よかったね、ハトさん。
