赤ちゃんがオシャブリを咥えベビーカーの中に座っていた。2~3歳くらいのかわいい女の子。少しするとグズりだし泣きだした。
スワッ! 予想されていたこととはいえ、恐れていた事態だ。
親は懸命になってあやす。だが赤ちゃんは泣くのが商売。仕方ないと言えば仕方ない。
ラッシュの時間は少し過ぎていたとはいえ、混み具合は尋常ではない。
こういう混んだ電車に乗せなくてはならない事情があるのだろう。でも、ちょっと子供がかわいそう。
しかし、泣きだす子供をあやす親も可哀想。周りも、聞こえぬ表情でいるが心は穏やかじゃないはず。
しばらくしてあやした効果で泣き止んだ。ああ、よかった。
赤ちゃんがこっちを向いている。目があった。僕は頬を緩め笑った。すると赤ちゃんは不思議なものでも見るように、じっとこちらを見つめている。その真顔はもしかして泣きだすときの序章? 僕はもっと表情を崩した。
まだキョトンとしている。まだ足りないのか? 目いっぱいの笑顔を作った。
……。僕らの間に束の間の静寂が生まれた。
そのすぐあと火がついたように赤ちゃんが泣き出した。
マズイ! 僕は何食わぬ顔で車窓に目を移した。