半世紀も前のこと。
新宿駅東口を出ると新宿通りと甲州街道の間に新宿中央通りという通りが一本走っている。車の往来はほとんどない。僕は明治通りに向かって歩いた。すると風月堂という一風変わった趣のある喫茶店が右側に現れる。当時アングラという文化が流行っていて、風月堂はその発祥の地とも言われそれを崇拝する人たちのメッカでもあった。フーテンが大手を振って闊歩するような時代。そこにヒッピーと呼ばれる人たち、文化人、芸能人、作家、芸術家などが集まった。その代表的な人の中に寺山修司、三国連太郎、岡本太郎など錚々たる人たちがいた。寺山修司は天井桟敷劇団の主宰者で、唐十郎らとアングラ界を引っ張ってきた人物。この店を仕事場代わりにして、そこで作品を作ったり打ち合わせをしたりしていたという。
そんな時代に僕はいた。
この当時、ビートルズのサージャントペッパーズロンリーハーツクラブバンドが流行っていた。ジョンレノンにあこがれていた僕は、少しでもジョンに近づけないかとサイケデリックなズボンを身に着け新宿の街を歩いていた。しかし風月堂には一度も入ったことがない。いつも遠巻きにするだけでどうしても足を踏み入れる気がしなかった。要は、僕の大好きな音楽とあの芸術家さんたちととは世界が違っていたからだ。
すでに夜のとばりは下りていた。風月堂を通り過ぎ次の角を右に折れて二十メートルくらい行ったところに「プレイメイト」という店がある。
幅が狭すぎてうっかり踏み外しそうになる階段を一歩一歩確かめながら降りていく。ドアを開けた。突然フィフスディメンションの「アクエリアス」が僕の耳に届いた。同時にほとばしる熱気も伝わってくる。ここは朝までやっている深夜スナック。そこは僕の行きつけの店だった。
「よー。グー」カウンターにいた一人が声を掛けてきた。
「おーサリー、もうご機嫌じゃん」
ニタっと笑ったサリーは、琥珀色のグラスを顔の前にかざした。
To be continue