阪急ブレーブスほかで名遊撃手として活躍した阪本敏三が亡くなった。彼の名前が出てくる映画がある。
『闇を裂く一発』(68)(2013.7.3.)
メキシコ五輪の射撃候補生の本多(峰岸隆之介)、同じく近代五種の中尾(平泉征)、フリーピストルの木村(青山良彦)は、ある日、本庁に呼び出される。
3人は捜査会議の席で、東京の下町で起ったライフル魔事件を知らされ、子どもを人質に取って逃走中の犯人(佐藤允)を、最悪の場合は一発で射殺するよう命じられる。本多は江森(露口茂)、中尾は犬丸(加藤武)、木村は酒井(高原駿雄)というベテラン刑事とコンビを組んで犯人の後を追う。
監督・村野鉄太郎 、脚本・菊島隆三、撮影・上原明、音楽・山下毅雄によるこの映画は、3組の若手とベテランの刑事によるバディムービーとして見ても面白い。脚本の菊島は、黒澤明の『野良犬』(49)で村上(三船敏郎)と佐藤(志村喬)という新旧バディ刑事の活躍を描き、『天国と地獄』(63)では子どもの誘拐を描いているから、本作のアイデアは、その延長線上にあるのかもしれない。
『駅 STATION』(81)で高倉健が演じた三上刑事も、確かメキシコ五輪の射撃候補生だったが、赤木圭一郎風の峰岸が演じる本多は、目を保護するためにサングラスを掛けている。それを見た露口演じる江森が「俺はサングラスを掛けている奴がどうも苦手でね」と言うのだが、後に「太陽にほえろ」で露口が演じた山さんは、よくサングラスを掛けていたから、何か皮肉っぽくて面白いシーンとして印象に残った。
クライマックスの本多と犯人との攻防は、東京スタジアム(球場)のスコアボード裏で繰り広げられる。この時行われている試合が、東京オリオンズ対阪急ブレーブス戦。この年は阪急が優勝し、東京は3位だった。シーズン終了後、ロッテがスポンサーとなり、東京からロッテ・オリオンズとなり、後に東京スタジアムも取り壊されたのだから、今となっては貴重な映像だ。
スコアボードに記された両チームの選手名は
阪急ブレーブス
1.ライト・大熊忠義
2.ショート・阪本敏三
3.センター・長池徳二
4.ファースト・ダリル・スペンサー
5.レフト・矢野清(石井晶・ウィンディ)
6.サード・森本潔
7.キャッチャー・岡村浩二
8.セカンド・山口富士雄
9.ピッチャー・梶本隆夫(宮本幸信)
東京オリオンズ
1.センター・石黒和弘
2.サード・池辺巌
3.ライト・アルトゥーロ・ロペス
4.レフト・ジョージ・アルトマン
5.ファースト・榎本喜八
6.セカンド・前田益穂
7.ショート・山崎裕之
8.キャッチャー・醍醐猛夫
9.ピッチャー・坂井勝二
東京スタジアムは、大映社長でオリオンズのオーナーだった永田雅一が、サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地キャンドルスティック・パークを模して南千住に作らせたもので、照明の明るさから、光の球場とも呼ばれた。一度だけ観戦に訪れたことがあるが、その時の試合も、ロッテ対阪急戦だった。
ところで、菊島といえば、この映画のほかにも、後楽園球場での巨人対南海戦が映る前述の『野良犬』、伝説の大投手・沢村栄治の生涯を描いた鈴木英夫監督の『不滅の熱球』(55)、志村喬がプロ野球の監督を演じた丸山誠治監督の『男ありて』(55)の脚本を書き、本多猪四郎監督の『鉄腕投手 稲尾物語』(59)の原作、構成も担当している。多分無類の野球好き。日本の野球映画を語る時には欠かせない存在だ。