30数年ぶりに映画でチリの歴史を教えられた
1973年、南米のチリで左派のアジェンデ大統領が殺害され、ピノチェト将軍が権力の座に就くという軍事クーデターが発生した。この時の様子を外国人記者の目を通してドキュメンタリータッチで描いた『サンチャゴに雨が降る』(76)を高校生の時に見て衝撃を受けた覚えがある。裏で糸を引いていたのはアメリカだった。
それから15年後の1988年、ピノチェト大統領による長期間の軍事独裁に国際的な批判が高まる中、政権の信任を問う国民投票が行われることになった…。本作は、大統領支持派の「YES」と反対派の「NO」によるテレビCMでの選挙キャンペーン合戦の様子を、実話を基に描く社会派エンターテインメント。両陣営のやり取りを対照的に見せながら、広告キャンペーンやプロパガンダの功罪を浮き彫りにしていく。パブロ・ラライン監督は、当時のニュースフィルムとの融合を違和感なく見せるために旧式のカメラを使用して撮影したというが、これが大いに効果を発揮している。
主人公はNO陣営に雇われた若き広告マンのレオ(ガエル・ガルシア・ベルナル)。彼はポップで明るく前向きなCMを効果的に使って陣営の勝利に大きく貢献するのだが、その彼をヒーローとしては描かず、むしろ商業的な成功を求めるいけ好かない奴として描いている点がユニークだ。新自由主義の名の下に資本主義を推進したピノチェトが、マーケティングや広告の力によって権力の座を追われることになったことも皮肉だが、政権交代後は貧富の差が拡大し、チリは必ずしも“いい国”にはなっていないという苦い結果が、レオのキャラクターにも微妙に反映されているのかもしれない。
地域紛争に伴う実話の映画化、奇想天外な“作戦”、ブラックユーモア、苦い勝利など、『アルゴ』(12)と通じるものがある。そんな本作の面白さは各国の映画祭で観客賞を受賞したことでも明らか。観客の反応は批評家のうがった見方よりも信頼できる。30数年ぶりにまた映画でチリの歴史を教えられた。