「映画で見る野球 その3」ミュージカル&コメディー編
まず、『私を野球に連れてって=テイク・ミー・アウト・トゥ・ザ・ボールゲーム』(49)は、ウルブズという架空の球団を舞台にした、ジーン・ケリー、フランク・シナトラ、エスター・ウィリアムズ共演の本格ミュージカル。監督は振付師としても有名なバズビー・バークレー。曲自体は、いまやメジャーリーグのテーマソング的な存在になっており、試合の7回に“セブンス・イニング・ストレッチ”としても歌われる。女性のウィリアムズが球団のオーナーになるという設定は、後の『メジャーリーグ』シリーズに引き継がれた。踊りと歌の名手のケリーとシナトラだが、野球はあまりうまくないのがかえってほほ笑ましく映る。
『くたばれ!ヤンキース』(58)は、今は消滅したワシントン・セネタースの老ファンが、強過ぎるニューヨーク・ヤンキースを倒すために悪魔に魂を売って若返り、セネタースに入団して大活躍する、という究極のファン心理をくすぐる傑作ミュージカルだが、根底に描かれているのは老夫婦の絆。主人公を誘惑するグエン・バードン、悪魔役のレイ・ウォルストンが傑作だ。監督は『雨に唄えば』(52)などのスタンリー・ドーネン。ミッキー・マントルら、当時のヤンキースの選手たちも登場する。
大学の先生(レイ・ミランド)が偶然発明した薬(木材を避ける液体)のおかげでメジャーリーグの“にわかピッチャー”になるコメディーが『春の珍事』(49)。こちらはキャッチャー役のポール・ダグラスがいい味を出し、恋人役のジーン・ピータースがかわいい。監督はベテランのロイド・ベーコン。『三十四丁目の奇蹟』(47)や『グレン・ミラー物語』(54)でも有名なバレンタイン・デイビスの脚本がうまい。ところで、老人が謎の薬で若返るという楳図かずおの傑作漫画『アゲイン』は多分『春の珍事』と『くたばれ!ヤンキース』に影響されているはず。