築地浜離宮のほど近くにある、中銀カプセルタワービルが解体の危機にあるという。このSF映画に出てくるような不思議な形をしたビルは、建築家・黒川紀章が設計し、1972年に竣工した世界で初めて実用化されたカプセル型の集合住宅だ。
このビルは、個人的に思い出深い場所である。なぜなら、1980年代初頭、初めて勤めた職場が、築地の朝日新聞社の隣の浜離宮ビル内にあったので、毎日このビルの前を通って出社していたからだ。遅刻しそうな時に乗った新橋発築地市場行のバスには、ビルの前で止まる「中銀マンションカプセルタワー前」という停留所があった。
そして、ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノが監督したオムニバス映画『TOKYO!』(08)のゴンドリー編の「インテリア・デザイン」や『ウルヴァリン:SAMURAI』(13)にも、このビルは登場した。
『TOKYO!』(08)(2008.6.19.)
ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノというくせ者監督による、東京を舞台にしたオムニバス映画。
東京で部屋探しをする若いカップル(藤谷文子、加瀬亮)を描いたゴンドリーの「インテリア・デザイン」は、加瀬扮する自主映画の監督のキャラクターが面白い。部屋探しの中で懐かしの中銀カプセルタワービルが登場し、その部屋の内部を初めて見た。
東京の地下の下水道に住む謎の怪人(ドゥニ・ラバン)が、何と五反田のマンホールから出現するカラックスの「メルド=糞」には、ゴジラのイメージが出てくる。音楽まで使ったのはちょっとずるい気もしたが。
香川照之演じる引きこもりの主人公の整頓された部屋が印象的なジュノの「シェイキング=揺れる東京」。韓国の監督は日本の地震に対して特別な思いがあるようだ。
3編ともシュールで不条理、ブラックユーモアにあふれ、よく言えばSF短編集のような味わいもあるが、思わせぶりで独りよがりな部分が多いのも否めない。ただこうした映画に「何故?」と問うてもムダだ。これらはストーリーを追うものではなく、あくまで彼らが抱くイメージの映像化なのだから。
現実に、無差別殺人や大きな地震があったばかりなので、笑うに笑えないところもあり、見ていて決して愉快なものではなく、後味も良くない映画なのだが、「メルド」の謎の怪人が一種のカリスマになっていく怖さなど、3編とも妙に心に引っかかるものがあった。
東京は変化し続ける街。何十年か経ったらこの映画で映された風景も『三丁目の夕日』のように懐かしいものになるのだろうか。
【今の一言】中銀カプセルタワービルも、遂に”懐かしいもの”になってしまうのか…。