『2度目のはなればなれ』(2024.10.8.オンライン試写)
2014年6月。イギリス、ブライトンの老人ホームで暮らすバーニー(マイケル・ケイン)とレネ(グレンダ・ジャクソン)の夫婦は、互いに寄り添いながら残り少ない日々を過ごしていた。
そんな中、89歳で退役軍人のバー二―は、妻に後押しされ、ノルマンディー上陸作戦の70年記念式典に参加するため、ホームを抜け出して一人でフランスへ向かう。
バーナードとレネが離ればなれになるのは、戦争以来、今回が人生で2度目のことだった。決して離れないと誓っていたバー二―がレネを置いて旅に出たのには、ある理由があった。
だが、バーニーが行方不明だという警察のSNS投稿をきっかけに、バーニーの旅が大きなニュースとして報じられることになる。
脚本のウィリアム・アイボリーとオリバー・パーカー監督が、実話を基に描いたヒューマンドラマ。原題は「THE GREAT ESCAPER=大脱走者」。
『ハンナとその姉妹』(86)と『サイダーハウス・ルール』(99)でアカデミー助演男優賞を受賞したケインと、『恋する女たち』(69)と『ウィークエンド・ラブ』(73)でアカデミー主演女優賞を受賞したジャクソンの、『愛と哀しみのエリザベス』(75)以来、約50年ぶりの共演が大きな見どころ。図らずも、ケインの引退作、ジャクソンの遺作となった。
このケインとジャクソンを見ていると、『愛、アムール』(12)で老夫婦を演じたジャン・ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リバと同様に、もはやどこまでが地でどこからが演技なのかの区別がつかない。これは老名優にして初めて達することができる境地だ。
そして、ノルマンディー上陸作戦を描いた映画といえば、『史上最大の作戦』(62)や『プライベート・ライアン』(98)が有名だが、この映画は、バー二―とレネの若き日とバーニーの戦場体験をフラッシュバックの形で見せる。
そんなこの映画の核となるのは、もちろんバーニーとレネの夫婦愛だが、もう一つの大きなテーマは、戦場体験によるバーニーのPTSD(心的外傷後ストレス障害)と「贖罪と許し」について。
バーニーの道中に、同じく退役軍人で心に傷を持つアーサー(ジョン・スタンディング)や、現地で知り合ったドイツの退役軍人たち、アフガンで傷を負った若い帰還兵らを登場させることによって、敵も味方も時代差もない戦争が生む共通の罪を明らかにしていく手法が秀逸だ。
かつてロバート・デ・ニーロは「映画はずっと残るから舞台よりも好きだ」と語ったが、この映画を見ると、ケインもジャクソンも、映画の中で生き続ける喜びが感じられる。
【この映画のこの1曲】「ユー・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カムホーム・トゥ=帰ってくれたらうれしいわ」。ヘレン・メリルではなくナンシー・ウィルソン盤だったが。