田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『おしゃべりな写真館』

2024-10-14 16:14:33 | 新作映画を見てみた

『おしゃべりな写真館』(2024.10.13.オンライン試写)

 北海道・十勝平野の北部にある鹿追町。100年近い歴史を持つ写真館の3代目・三國勘太郎(橋爪功)が亡くなり、2年前に他界した娘の敬子(賀来千香子)の夫であるカメラマンの松原雄二(中原丈雄)が町にやって来る。

 緑内障を患い、失意の中にいた雄二のもとに、写真館を譲るという勘太郎の遺書が届けられたのだ。雄二は写真館を処分するつもりだったが、大自然や鹿追町の人々と触れ合ううちに離れづらくなっていく。

 ある日、雄二は雪の中で動けなくなっていた少女・吉本麻衣(山木雪羽那)を助ける。彼女は京都から山村留学でこの町にやって来た中学生で、勘太郎が里親になっていた。雄二は心に傷を抱える彼女の里親を引き継ぐことにする。そんな中、幽霊となった勘太郎と敬子が麻衣の前に姿を現す。

 北海道の古い写真館を舞台に、生きがいを失ったカメラマンと行き場をなくした少女、この世に未練を残した妻と父が織りなす再生の物語を描いたファンタジー映画。

 人物描写や設定に不器用なところがあり、鼻白むような場面もあるのだが、藤嘉行監督が「今の世の中や映画は、暴力的だったり乱暴だったりするのが多いと感じる。そういうものじゃない映画を作りたいと思った」と語るように、見ていてほのぼのとした気分になる。主人公の名前が自分と同じことにも親しみが湧いた。

 キーポイントとなるのは、北海道の大自然、カメラ、モノクロ写真、人々の笑顔、アイルランド民謡「ダニー・ボーイ」。

 橋爪の幽霊役はテレビドラマ「6秒間の軌跡」に続くもの。こういう役がおはこになったのかと思って何だかおかしかった。昔、勝手に“和製リック・モラニス”と名付けた小宮孝泰が脇役として頑張っていた。

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『ぼくのお日さま』

2024-10-14 13:17:05 | 新作映画を見てみた

『ぼくのお日さま』(2024.10.13.オンライン試写)

 雪の降る北海道の田舎町。野球やアイスホッケーが苦手できつ音のある少年タクヤ(越山敬達)は、ドビュッシーの「月の光」に合わせてフィギュアスケートを練習する少女さくら(中西希亜良)に恋をする。

 ある日、さくらのコーチで元フィギュアスケート選手の荒川(池松壮亮)は、ホッケー靴のままフィギュアのステップをまねて何度も転ぶタクヤの姿を目にする。

 タクヤの恋を応援しようと決めた荒川は、彼にフィギュア用のスケート靴を貸して練習に付き合うことに。やがて荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習をすることになるが…。

 『僕はイエス様が嫌い』(19)でサンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史が、監督・脚本・撮影・編集を手掛けた商業映画デビュー作。

 カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に、日本人監督としては史上最年少で選出された。主題歌は音楽デュオ「ハンバート ハンバート」が2014年に発表した同名楽曲。

 タクヤはさくらに恋をし、さくらは年上のコーチに憧れ、同性愛者のコーチはタクヤの純粋さをうらやましがるという、純粋と皮肉と残酷があいまったような微妙な三角関係が描かれる。

 印象的な陽光と音楽をバックにした3人の練習風景を映す映像が見事。コーチ役の池松とフィギュア経験者の中西のなめらかな滑りに加えて、だんだんと上達していくタクヤの姿も美しい。

 そんなタクヤの姿はバレエダンサーを目指す少年を描いた『リトル・ダンサー』(00)をほうふつとさせるものがあった。


『リトル・ダンサー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/5b8b6adcb88e09b0fe58db99897d24f3

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