『家族』(70)(1974.12.31.NHK)
風見精一(井川比佐志)と妻の民子(倍賞千恵子)は、父の源蔵(笠智衆)と2人の子どもたちと共に、長崎県の伊王島から、開拓のために北海道標津郡中標津町へ移住することになった。
一家の旅の姿をオールロケーションでドキュメンタリー風に撮った山田洋次監督の異色ロードムービー。公害が問題化する北九州工業地帯、日本万国博覧会開催中の大阪、東京の上野公園、北海道の開拓村など、一家の道中に当時の日本の社会状況が浮かび上がる。
途中、夫妻は、広島県福山市で、源蔵を引き取るはずだった弟(前田吟)と別れ、東京で赤ん坊の長女を失い、たどり着いた中標津で源蔵を失う。だが、やがて中標津にも春が訪れ、一家にとって初めての牛が生まれ、民子の胎内にも、新しい命が宿っていた。悲劇が続くが、最後は笑顔と希望で終わるところが山田洋次らしい。
何とも切なくなる高度経済成長の裏側という点では、この映画の姉妹編とも呼ぶべき、瀬戸内海の小島で石の運搬をしている一家が高度経済成長の波に追われ、島を出て新天地で暮らすことを決断するまでを描いた『故郷」(72)(1973.12.29.NHK)の方が強く描かれている。
主人公夫婦の石崎精一(井川比佐志))と民子(倍賞千恵子)のこんな会話が象徴的だ。
民子「何で朝から晩まで働いて、何も悪いこともせんのに、何でこんないい所を出ていかなきゃならんのだろうね」
精一「食っていくためさ」「みんな、時代の流れとか、大きいものとか言っているが、大きいものって何だ。何でわしが好きな海でこの仕事をするのをやめなきゃならないんじゃ」
倍賞は、この『家族』に続いて『故郷』と『遙かなる山の呼び声』(80)でも、それぞれ別人の“民子”を演じたことから、これらを総称して、山田洋次の「民子三部作」と呼ばれる。