「今回は杉咲花がかわい過ぎた」
「毎回いづみさんが誰だか分からなくなる演出がすごい」
「中日愛を語るシーンだけでいいドラマに見えてきた」
「バントじゃなくてたまにはホームラン狙いにいきましょうよ」
『六人の嘘つきな大学生』(2024.11.6.東宝試写室)
大手エンターテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用の最終選考に残った6人の就活生への課題は「6人でチームを作り、1か月後のグループディスカッションに臨むこと」だった。
全員での内定獲得を夢見て万全の準備で選考日を迎えた6人だったが、急に「残るのは1人だけ。その1人は皆さんで決めてください」という課題の変更が通達される。会議室という密室で、共に戦う仲間から一つの席を奪い合うライバルとなった彼らに追い打ちをかけるかのように、それぞれに当てた6通の怪しい封筒が発見される。
そして次々に暴かれていく、6人のうそと過去の罪。互いが疑心暗鬼になる異様な雰囲気の中、犯人と1人の合格者を出す形で最終選考は幕を閉じる。
悪夢の最終選考から8年がたったある日、スピラリンクスに1通の手紙が届いたことで犯人の死が発覚する。犯人が残したその手紙には、「犯人、〇〇さんへ。」という告発めいた書き出しに続き、あの日の全てをくつがえす衝撃的な内容が記されていた。残された5人は、真犯人の存在をあぶり出すため、再びあの会議室に集結する。うそに次ぐうその果てに明らかになる、あの日の真実とは…。
伏線回収で人気を博している浅倉秋成の小説を基に、就職活動の場を舞台に6人の大学生たちの裏の顔が暴かれていく“密室サスペンス”的な要素と、暴かれたうそと罪の真相を検証しながら、それぞれが自らの人生と向き合っていく“青春ミステリー”の要素を掛け合わせて映画化。6人を演じるのは、浜辺美波、赤楚衛二、佐野勇斗、山下美月、倉悠貴、西垣匠という若手俳優陣。監督は佐藤祐市、脚本は矢島弘一。
前半のグループディスカッションに備える6人の和気あいあいとした様子が一気に変調する後半とのギャップが目を引く。ディスカッションドラマとしては、密室で有罪か無罪かを裁く陪審員たちの動静を描いたシドニー・ルメット監督の『十二人の怒れる男』(57)やその影響を受けた三谷幸喜脚本の『十二人の優しい日本人』(91)をほうふつとさせるものがある。
この映画では「美しい月の裏側は見えない」ことに例えて、人の一面だけを見て判断する面接試験に対する疑問を投げかける。自分も面接される側はもちろん、する側も経験し、人が人を選ぶ理由の曖昧さや理不尽さも承知しているので、追い詰められた彼らの姿を見ていると切なくなるところがあった。
犯人の動機がいささか弱い感じがしたのが難点だが、全体的にはなかなかよくできた青春ミステリーという印象を受けた。
『海峡』(82)(1982.11.4.有楽座)
健さんのストイックに耐える姿はいささか食傷気味である。この映画で感動を覚えたのも青函トンネルの貫通シーンぐらいのもので、後はひたすら耐える健さんと、それを陰ながら慕い続ける吉永小百合の姿を延々と見せられるのだから、もう勘弁という感じになるのだ。
森谷司郎監督は、『八甲田山』(77)の成功以降、『漂流』(81)そしてこの映画と、自然に立ち向かう人間の姿をテーマにしているにも関わらず、スペクタクルの中で人間を描き切れずに空回りの大作を連発している感がある。そこにいつもながらの健さんの姿を置かれれば、見る側は「あーまたか…」という気分になる。単純に夢を成就させた男の姿として見ればいいのかもしれないが、主人公がかっこよ過ぎて違和感を覚える。
また、脇役の描き方の失敗も大きい。健さん、森繫久彌、三浦友和がメインにしても、青函トンネルなどという一大事業を描くには、それに携わる多くの人々のドラマが不可欠なはずだ。ところが、3人の主役の姿は浮かんでも、その他大勢の人々の姿はあまり浮かんでこない。通り一遍の描写で終わってしまっている。こうした大事業では、その他大勢の力の結集が感動を呼ぶはずなのだが…。題材としては『黒部の太陽』(68)にも匹敵するはずのものだっただけに残念な気がしてならない。木村大作のカメラワークは素晴らしかった。