『ドリーム・シナリオ』(2024.11.26.オンライン試写)
大学教授のポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)は、妻(ジュリアンヌ・ニコルソン)と2人の娘と一緒にごく平凡な生活を送っていた。だがある日突然、何百万人もの人々の夢の中にポールが一斉に現れたことから一躍有名人となる。
メディアからも注目を集め、夢だった本の出版まで持ちかけられて有頂天のポールだったが、ある日を境に夢の中のポールが人々にさまざまな悪事を働くようになり、現実世界の彼も大炎上してしまう。自分自身は何もしていないのに人気者から一転して嫌われ者になったポールは果たしてどうなるのか…。
このところ『ボーはおそれている』『関心領域』『シビル・ウォー アメリカ最後の日』といった問題作を連作しているA24の製作映画。『ミッドサマー』(19)のアリ・アスターが製作に名を連ね、『シック・オブ・マイセルフ』(22)のクリストファー・ボルグリが監督・脚本を担当した。
大勢の人々の夢の中に、なぜポールが現れたのかについての理由は説明されない。それ故、ポールが抱く困惑や恐怖が強調される。また、この上ない不条理な状況に陥っていくボールの姿を通して、インターネットミームの功罪や、群集心理の恐ろしさを感じさせるあたりがユニークだ。
ケイジは、人一倍の承認欲求はあるものの、主体性がなく風采も上がらないポールという”一人の人物"を演じているのだが、彼はいろいろな夢の場面に現れるので、こちらはケイジが一人で何役も演じているような錯覚に陥る。このあたりは映像のトリックをうまく利用している。
『ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄』(15)でケイジにインタビューした際に、B級アクションやホラー映画が好きなのかと尋ねると、「ホラー映画は本質的に創造力にあふれたジャンルだと思っているから僕にとっては特別なもの。個人的には超自然現象や幽霊が出てくるようなチャーミングなホラーが好き。SFにはとても興味がある、なぜならSFの形を借りて今という時代の社会や世界についていろいろなことを語ることができるからだ」という答えが返ってきた。
また、幅広い役柄を演じ分けるコツについては、「僕にとっては興味や多様性を持ち続けることが必要なので、広範囲にわたる役柄を演じている。一つの役柄を演じ続けたり、同じタイプの映画に出演し続けることがないようにしている」と語った。
プロデューサーも兼ねているこの映画は、彼のそうしたポリシーを如実に反映しているとも言えるだろう。