『雪の花 -ともに在りて-』(2024.10.16.松竹試写室)
江戸時代末期、有効な治療法がなく多くの人の命を奪ってきた痘瘡(天然痘)。福井藩の町医者・笠原良策(松坂桃李)は、痘瘡に有効な「種痘(予防接種)」という予防法が異国から伝わったことを知り、京都の蘭方医・日野鼎哉(役所広司)に教えを請い、私財を投げ打って必要な種痘の苗を福井に持ち込む。
だが、天然痘のうみをあえて体内に植え込むという種痘の普及には、さまざまな困難が立ちはだかる。それでも良策は、妻の千穂(芳根京子)に支えられながら疫病と闘い続ける。
『雨あがる』(00)『蜩ノ記』(14)『散り椿』(18・脚本)『峠 最後のサムライ』(22)などで、時代劇を通して人間の美しい在り方を描いてきた小泉堯史監督が、吉村昭の小説『雪の花』を映画化。
今回は、多くの人々を疫病から救った実在の町医者の姿を描いているため、どうしてもコロナを意識したものとしてとらえられがちだが、小泉監督が「コロナを意識していないわけではないが、どちらかと言えば笠原良策という人物に引かれて撮った。歴史と伝統を大切に、医者として病に対峙し、いかに生きるか。その生き方を問う作品」と語るように、無名だが類いまれな人物だった笠原良策を世に知らしめたいという思いが強かったのだろう。
そして、その結果として「時代劇、要するに歴史といっても人間の営みは現代と全く同じ。その時代に生きている人たちが今の自分たちにつながる」ところが大きいのだ。
面白いのは、鼎哉と良策の師弟関係や良策の行動などに、小泉監督の師匠・黒澤明監督の小石川養生所を舞台にした『赤ひげ』(65)をほうふつとさせるシーンがあるところ。また、原作は吉村昭なのに、妻の千穂の人物像などに山本周五郎的なものを感じさせるところが小泉監督の真骨頂だ。
良策と妻の千穂をはじめ、登場人物が皆いい人なのは出来過ぎの感もあるが、「爽やかな気持ちになって劇場を後にしてもらえたらうれしい」という小泉監督の言葉通りの映画にはなっていると思う。
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