『天晴れ一心太助』(45)
魚屋の一心太助は、易者から商売繁盛間違いなしと勧められて、陰気な「なめくじ長屋」に引っ越すが、癖の強い住人たちにあきれたばかりでなく、長屋の突き当たりの化物屋敷には銀杏の大木が生え、完全に日光をさえぎっている様子に驚く。しかも屋敷には怪しげな浪人たちがたむろしていて…。
佐伯清の監督デビュー作で、脚本は何と黒澤明。後にコンビを組む製作の本木荘二郎に頼まれて書いたというが、雑多な人物の一人一人を生き生きと巧みに描くところに、片鱗を見せる。
キャストは、魚屋・一心太助(榎本健一)その女房・おなか(轟夕起子)、あんま・与茂市(甲斐三雄)、力士・大江山三吉(岸井明)、その母(藤間房子)、大工・三五郎(坊屋三郎)、その女房・おきん(一ノ宮あつ子)、石屋・次郎作(横山運平)、床屋・金太(如月寛多)、そば屋・土左ェ門(渡辺篤)、浪人・背澤重兵衛(坪井哲)、その娘・小夜(羽島敏子)、易者・千里軒(高勢実乗)、大家・五兵衛(柳田貞一)、旗本・有馬陣十郎(菅井一郎)、大久保彦左衛門(徳川夢声)
一心太助といえば、中村錦之助が東映のシリーズで演じたイメージが強いが、そのルーツがここにあったという感じもする。落語の長屋物のような楽しさがあり、エノケンはじめ、皆伝法な江戸弁を語るところもいい。そして、色っぽさとかわいらしさとを併せ持った、しっかり者の女房役の轟夕起子がとてもいい。轟は黒沢の監督デビュー作『姿三四郎』(43)でヒロインの小夜を演じ、エノケンは『虎の尾を踏む男達』(45)で語り部的な強力を演じた。
『姿三四郎』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/159e9dbd42f1ad407d43cafaaa905dab
『虎の尾を踏む男達』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e4b1c4396764bee73463d0f48cf70ae0
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