硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  56

2013-09-02 17:19:38 | 日記
カーラジオから松任谷由美さんの「hello・my・friend」が流れていた。そういえば、この曲ってあの頃に流行っていたような気がするなぁとぼんやり聞いていたけれど、詩の内容が切なすぎる事に気づいて思わずため息をついた。すると天沢君が、

「実は、雫に渡したいものがあるんだ。」と、言った。

「えっ。なに。」

渡したいものってなんだろう。自分の気持ちが高揚してゆくのが分かった。

「なに? 何か頂けるの? 」

天沢君はニヤニヤして「壊れやすいものだから帰り際に渡すよ。」と言って教えてくれない。

「いじわる! もう知らない!」

ついさっきまで嫌みを言えていたのに、もう立場が入れ替わって少し悔しい。でも、私に渡したいものってなんだろうと考えると胸のドキドキがおさまらなかった。

教会から私の家まで車で15分もかからない。なにか話さなければと思えば思うほど言葉にならない。
しばらくすると小高い丘の中腹に建っている団地の窓明かりが見えてきた。天沢君は中学生の頃、2度ほどこの道を通っただけなのにちゃんと覚えていて、団地前の交差点を緩やかな坂に向かって曲がり、団地の前の公園に車を止めた。

「ここでよかったよね。」

「うん。覚えていてくれたんだね。ありがとう。」

「どういたしまして。」

そう言うと、天沢君は後ろの席に置いてある綺麗な花柄の包装紙でラッピングしてある少し長めの箱を手を伸ばした。

「今日はありがとう。そしてこれが雫に渡したいものです。」と、言って手渡された。

「あっ、ありがとう。これ、今から中を見ていい?」

「駄目だよ。家に着いてから開けてください。そうでないと溶けてなくなってしまうかもしれないから。」

「ええっ。溶けてなくなるものなの?」

「それは、明けてからのお楽しみ。」

楽しそうに意地悪を通し続ける天沢君。こういう所は中学生のままなんだけれどなぁと思ったけれど、反論する事を諦めて「わかりました。家に着いてから開けるね。」と、返事をすると、「うん。うん。」と嬉しそうに頷いていた。

そんな天沢君を見ていて、言っておかなければならないことの一つをようやく思い出した。