硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「犬を飼うという事」 1

2013-09-27 16:11:14 | 日記
小学生最後の年。僕は一つの問題に突き当たっていた。それは、とても難しい事だから、いつか分かる日が来るまで、そのままにしておこうと思ったほどだ。

その僕を悩ませた問題の始まりは、クラスで大人気の「犬が主役のテレビドラマ」の話題からだった。

休み時間に、僕たちは「あの犬、可愛いんだよね。」とか「本当に人の話がわかるのかな。」とか「あんな犬がいたらいいなぁ」とか、話していると、二郎君が少し自慢げに、

「今日、俺の家に犬がくるんだぜっ。」と言った。

驚いた僕たちは、「ええっ!ほんとに!」と、大きな声で言うと、周りにいた人達が「何々?」といって僕らの所に集まってきたから、

「次郎君の家に犬がくるんだってさ。」

と、みんなに伝えると、だれからともなく、「どんな犬なの」と、聞きはじめた。

たちまち話題の中心となった次郎君は「どうしようかなぁ」と言って、なかなか話そうとはしない。じれったくなったみんなは「早く教えろよー。」と二郎君に言っていると、クラスの女子の中で人気者の唯ちゃんが、僕らの方にやってきて、

「ねぇ。次郎君。どんな犬なの?」

と、話しかけてきた。すると次郎君は一度「う~ん。」と考えてから、

「ミニチュア・ダックスフンド!。」と、自慢げに答えた。

その犬はテレビに出ている犬と同じ種類だったから、みんなが「いいなぁ。」と、言ってうらやましがっていた。

でも、吉行君だけはとても冷静で「でもさ、その犬ってとても高いんじゃない?」と次郎君に尋ねると、二郎君はうれしそうに、

「うん。でも誕生日だから、お父さんもお母さんも「いいよ」って言ってくれたんだ。」
と、答えた。

それを聞いたみんなはまた、「いいなぁ。」と、言って次郎君をうらやましげに見ていた。そして唯ちゃんも、「私もほしいなぁ。ねぇ、今度、私にも見せてくれない?」と、言って次郎君と楽しそうに話していた。

僕は時々犬を飼いたくなって、お母さんにお願いするのだけれど、その度に上手くごまかされて、いつの間にか忘れてしまうのだけれど、次郎君と楽しそうに話す唯ちゃんをそばで見ていたら、また、「僕の家にも犬がいたらなぁ。」と、言う気持ちがわいてきた。

でも、お母さんはどうして話をごまかしちゃうんだろう。かといって「だめ」って言っているわけでもないし、本当はどう思っているのかな。これは、ちゃんと話してみなければ、わからなさそうだ。そしたら、今度こそ本当に犬を飼ってもいいって言う事になるかもしれない。そう思った僕の頭の中は犬の事で頭が一杯になって勉強どころじゃなくなっていた。

「どうしようかなぁ。先に誰かから子犬をもらって『子犬をもらったから』と言ってみる。でもこれじゃぁ、『返してきなさい。』と言われてしまうなぁ。『拾ってきた。』と言っても、拾ってくるんじゃありません。」て、言われそうだしなぁ。『もらってくださいと言われたから飼っていい?』と、言うのも、きっとだめそうだなぁ。やっぱり、家で飼うんだから、まず、お父さんとお母さんに相談しないといけないかなぁ。」

そうやって色々考えていたら、如月先生が、「次のところを田辺君、読んでください。」
と、僕を当てた。でも、僕の頭の中は犬の事だけでいっぱいになっていたから、おもわず

「犬飼っていい?」

と、答えてしまった。そうしたらクラスのみんなから笑いながら、

「むつき~。何寝ぼけているんだよぉ。」と、冷やかされてしまい、先生も少し困った顔をして、

「犬を飼いたい気持ちはよく分かったから、どこから読むのか佐藤さんから教えてもらいなさい。」

と、言われとても恥ずかしくなって汗をいっぱいかいてしまった。

六限目の終わりを知らせるチャイムが鳴った。僕は、早くお母さんに話したくて、そわそわしながら帰りのあいさつを待ちかまえていた。

帰り際に先生が、「帰りは寄り道せずに真直ぐ家に帰るようにね。」と、言っていたけれど、そんなことおかまいなしに、「先生さようなら。」と挨拶をしてダッシュで教室を出ようとしたら、

「田辺君。そんなに急がなくてもご両親に話できるでしょう。」

と、先生から言われてしまい、みんなからも

「むつきはあわてすぎぃ~。」と、笑われてしまったけれど、わき目も振らず教室を飛び出し全力で家まで走った。足も軽く、もう犬を飼ってもいい気分になっていた。

はじめに。

2013-09-27 15:56:57 | 日記
いつも閲覧していただきありがとうございます。これから始まる物語は、6年ほど前に某出版社の公募の児童文学部門に出品したものです。もちろん、何の賞も得ることなく終わっています。だから、とても恥ずかしいものなのですが「他の物語を読んでみたいと」いう温かなコメントを頂けたので勇気をもって掲示してゆこうと決心しました。

物語は、小学生の少年が「犬を飼うこと」について考えてゆくというテーマで進行してゆきます。

つたない文章ではありますが最後までお付き合いしていただければ幸いです。