硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  62

2013-09-08 08:06:51 | 日記
都心に向けて電車に乗り、2回ほど乗り継いで品川駅を降りる。
高輪と言うと赤穂浪士で有名な泉岳寺がある所と言うほど位しか土地勘がないから、少し不安になりつつも、添付された地図を見ながら、高いビルが立ち並ぶ第一京浜沿いの歩道をしばらく歩き、坂道を登ってゆくと閑静な住宅街にでた。
東京に住んでいてもなかなか足を運ばない場所だから少し緊張した。

地図と住所を頼りに目的地を探していると、純和風の木造建築の家の前に辿り着いた。門には西の表札。

「ひょっとしておばさまの家?」

そう思いながら、インターフォンを押すと、「どちら様でしょうか。」と若い女性の声。

「私、杉村雫と申します。天沢聖司さんのお使いで来た者です。」

そう言うと、中でなにやら会話しているのが聴きとれた。「どうぞ、そのまま入ってきてください」と、言われた。解錠された扉を開け立派な門を潜ってゆく。

「こんにちは。」

玄関先でおばさまが出迎えてくれていた。髪を結い、品の良い和服を着て、風景と一体となってたたずむ姿は、小津安二郎さんの映画のワンシーンのようで、少し圧倒された。

「こんにちは。」そう言って頭を深々と下げた。

「雫さん。ようこそいらしてくださいました。さあ、遠慮なくおあがりください。」

「おじゃまします。」

綺麗にそろえられたスリッパをはいて、おばさまについて廊下を歩いてゆくと、とても奇麗に手入れされたお庭が見える和室の部屋に通された。

「少しここでお待ちくださいね。お茶をお持ちします。」

そう言って、おばさまは廊下を奥へと歩んでいった。

案内された部屋の床の間には、著名な方の水墨画の掛け軸が掛けられていて、畳床の真っ赤な椿を基調とした生花は、互いの存在を引き立たせているように見えた。その横にある違い棚には、見るからに高そうな陶器が飾られていた。

慣れない環境に圧倒されつつも、座布団に正座しておばさまを待った。