硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  57

2013-09-03 19:47:47 | 日記
「天沢君。あのね・・・。中学生の時、本当は空港に見送りに行きたかったんだ。でも、お金もなかったし、学校もあったしで、結局諦めるしかなかったんだよね。」

「うん。」

「明日。成田12時だったっけ。」

「うん。」

私は躊躇いの中なら、私の中の気持ちを探しだして勇気を振り絞って言葉にした。

「・・・見送りに行っていいかな?」

天沢君は微笑んで頷いた後「いいよ。でも、仕事大丈夫?」と言った。

「大丈夫だよ。早起きして、しっかり仕上げてから行くつもりだから。」

「そうか。あまり無理するなよ。」

「うん。わかった。今日はありがとう。じゃあまた明日。」

そう言って車のドアを開いた。車から降りると、風は止み雪だけが静かに降り続いていた。天沢君は去り際に私に手を振ってから車を走らせた。私は小さく手を振り返し、寒さも忘れ車のテールランプが見えなくなるまでその場で立ち尽くしていた。


家に戻り、ドアを開け、明かりをつけると不思議とほっとした。天沢君にもらったプレゼントをテーブルの上に置き、かじかむ手でストーブの火をつけた。
ストーブの前の椅子に座り、手を温めながらじっと火を見つめていると、じんわりと温かさが部屋に広まっていった。一息ついてから、着替えをして、少し熱めのインスタントコーヒーをいれた。

椅子に座り、プレゼントをじっと見る。いったい何をくれたんだろう。本当に溶けてしまうものなのだろうかと想いながら箱に手を伸ばし花柄の包装紙を丁寧に開けてゆくと、少し古くなった段ボールの箱が見えた。
慎重に箱のふたを開けると、クッション材が引きつめられていて、その中に丁寧に包装してある長細い「もの」を見つけた。それをそっと取り出してみると、下に封筒が入っていた。

「あれ、なんだろう。」気になった私は封筒を取り出し考えた。伝える事があるなら、直接言葉にするなり、手紙を手渡しでくれればいい筈なのに、何故こんな手の込んだ事をしたのだろうかと。
でも、こういうときは「案ずるより産むが易し」だ。ドキドキする気持ちを温かいコーヒーを飲んで落ち着かせてから、ハサミで封を切り便箋を開いた。

「あっ!」

便箋には懐かしい文字があった。