硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。彼と彼女のその後  64

2013-09-10 08:12:35 | 日記
独和辞書を片手に翻訳を開始してから半月が流れた。北国からは初雪の知らせも届き、また寒い季節が訪れようとしていた。
私は相変わらず平凡な日常を送りながら、手が空いた時に少しずつ翻訳作業を進め、残りわずかとなったある日、一通のメールが舞い込んできた。宛名を見ると「北翠」とあった。

メールを開けてみると「オープンにこぎ着けました。本日17時よりプレオープンいたします。ご友人をお誘いの上ご来店ください。」と、記してあった。

「友人かぁ。」

真っ先に浮かんだのは夕子だった。家庭の事情が事情なだけに連絡を取るのを控えていたけれど、とても心配していた。簡単に用件をまとめ思い切ってメールを送って見ると、すぐに「いいよ。じゃあ迎えに行くよ。」と快い返信メールが届いた。

約束の時間になると夕子が迎えに来てくれた。相変わらず時間に正確である事に感心すると、「雫が少しルーズなのよ。」と、手厳しくつっこまれた。相変わらず美しい夕子は元気そうであった。
真っ赤な夕子の車の助手席に乗り、ナビゲーションを担当しつつ、おしゃべりをしていると、夕子は禁断の話題をさらりと話し始めた。

「ほら、以前、彼ともめた話しをしたでしょう。あれね、ようやく決着がついて、離婚が成立したのよ。結婚式も大変だったけど、それ以上に離婚ってパワー使うものね。おかげで5キロもやせちゃったけど、ダイエットとしては成功だったわ。」

「ええっ。離婚しちゃったの?」

「うん。一度気持ちが離れてしまうと、どうあがいても駄目ね。互いに思いやる事が出来なくなるんだもの。 ほら、別れ話で愛情の「愛」がなくなったから言う人いるでしょう。彼もそれを言ったのね。その時ね、これは嘘だと思った。気持ちが離れたら、愛情は無くなるものよ。まぁ彼の場合本当に愛情があったのかってことも疑わしいけど・・・。ただ、相手を傷つけたくないし、自分も罪悪感に苛まれたくないから、そう言う都合のいい嘘をつくのよ。 それが分かった時、気持ちが一気に引いちゃってね。」と、いって笑った。

そこに至るまでには、色々な葛藤もあっただろう。でも、すごくさばさばと語るその様子を見て安心した。