◆バスの終点に、なぜか中華な建造物
天神の用が済んでから、そのまま北天神で「K」のバスを待つ。元岡の九州大学に行くのだ。開催中の日本機械学会、に私が所属しているわけではなく、一般市民も聴ける水戸岡鋭治氏の特別講演があるのだ。
九州大学元岡キャンパスは、わざわざ行こうとしなければまず行くことはない、という場所にある。鳥栖プレミアムアウトレットあたりの風景に似ていないでもないが、もう少し郊外で、天神からバスに乗った終点、40分、720円。近年移転となったところで、まだ新品ぽい建物がいろいろあるし、どんどん新しい建物ができている。
直径100mの円形の赤い建物が会場の椎木講堂である。設計は内藤廣。これ、見たことあるぞ。中国の、広州土楼とか福建土楼とかいわれている、客家(はっか=漢民族の一派、有名な人に鄧小平がいる)が一族で住む城塞型集合住宅にそっくりだ。中に入ると、半分は、ぐるりと室に囲まれた空洞で、まさに広州土楼的。半分が大講堂である。ちなみにレストランが入っているが、中華系ではなくイタリアンである。
◆で、水戸岡鋭治氏講演
水戸岡鋭治氏は、いま日本で一番仕事をしているデザイナーのひとりで、列車、駅に限らない建築、家具内装、衣装など、守備範囲はおそろしく広い。代表作は、超豪華クルーズトレイン「ななつ星」であるし、鉄道に関する仕事はJR九州ではじめた人なのでJR九州の仕事が多いが、大阪なら梅田の「時空の広場」のデザインをした人である。
これが大分シティ(新しい大分駅とその周辺)
大分駅構内の阿蘇山と「ゆふいんの森号」のタペストリー
氏の展覧会には、博多(2011)と大分(2015)と2回行ったことがある。いずれも人が少ない日を選んで行ったのだが、2回が2回とも、水戸岡氏に会うことができた。1回はサインをもらった。偶然のラッキーというよりも、個展のときはなるたけ会場にいようとしているのではないかと思った。それって公共のものをつくるデザイナーとして正しいと思う。
本州で在来線に乗ると、正直、九州の在来線列車は恵まれているなあと思う。在来線特急「かもめ」や「白いソニック」に乗れば、普通車の客も、会社では役員室、もしかして社長室の執務机にしかない総革張りのリクライニングシートに座れるのである。革張りの椅子がモケットよりも安くつく話は著書ですでに読んでいた。だが他の鉄道会社では実現しなかったのである。
徹底したコスト意識についての話は端々に出てくる。ほとんどお金をかけずに隼人駅を改装した話や、「ななつ星」は「予算がなくて」内装の1分の1模型を作っていない話など。
常識といわれるものを現実的視点でブレイクスルーして、どんどん新しいものを作って行く仕事師である。仕事が大好きな人から仕事の話を聞くのはいいものである。行って良かった。