発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

運命の人にまつわるエトセトラ

2020年11月05日 | 本について
◆オルフェウスの窓
 池田理代子のコミックのタイトル「オルフェウスの窓」は、お話に出てくるドイツの男子向け音楽学校の古い塔の窓のことで、オルフェウスとエウリディケの神話に習い、そこから最初に見た女性と運命的な恋に落ちるが悲恋に終わる伝説がある。
 男子2名が共通の女子1名(わけあって男装しその学校にいる)をそこから見てしまった。その3人の運命を縦軸に枝葉いっぱいでドラマが進行する。彼らは学園の伝説に刷り込まれて恋に落ちたのか、それとも本当に魔力のある窓だったのか。
 男子修道会の付属学校で、滅多に女子にはお目にかかれないから、女性が通りかかったら即運命の人というのも必然であるが、その学校の出入り業者に女性がいるなら、それは危険極まりない業務ではありますまいか。
◆君の運命の人
 運命の人? ベートーヴェンでしょう!
 それはさておき、「君の運命の人」という文字列を見れば、商業施設で去年からヘビロテの歌「プリテンダー」のメロディーが浮かぶ。綺麗な女の子と交際にこぎつけたが相手はあまり気乗りしないようで大好きだけどお別れしようといった歌詞だ。
 彼女はもっとドンピシャな相手との交際や恋愛を望んでいる、のなら、他の人とデートしてる場合なのだろうか。
 運命の人ってなんだ?
 人生のなかで会えるのか? 
◆海に降る雪
 「(今は)恋愛にとって苛酷な時代」と、40年以上前から言う人がいた。畑山博だったか。今好転したとは言い難い。彼の『海に降る雪』という小説は、都会で孤独に暮らしていた男女、身寄りのない男子と、郷里に毒親近所にセクハラ義兄ありの女子が出会ってボロボロになって別れるというお話だが、ハッピーな日々を暗転させるトリガーは、彼氏が押し入れの中の彼女の日記を読んでしまったところからだった。で、帰宅した彼女を思いっ切りなじるのだ。ダメねぇ。
 現在進行でないことに関しては知ってしまっても知らんぷりしないと不幸を招く、というご教訓が得られる。読書って大事ね。
◆めでたくない「結婚行進曲」
 と書いたところで思い出したのは、ワーグナーの「結婚行進曲」、すなわち歌劇「ローエングリン」の「婚礼の合唱」である。このオペラは全曲聞いたことはないが、そのなかの「エルザの大聖堂への行列」という有名な曲をコンサートで聞く機会があり、そもそもどんなお話なのか調べてみたら、新婦が新郎の秘密をしつこく聞き出したために、結末で新郎が逃げ出し、新婦は死んでしまうという、まったくめでたくない物語と知った。
 結婚にこぎつければそれは運命の人なのだが。
 なんでまた、こんな不吉きわまりない(笑)「婚礼の合唱」が華燭の典で演奏されるのかとずっと疑問に思っていたが、『海に降る雪』について書いていて思った。
 つまり、相手が教えたくないことを知ろうとすると簡単に壊れる関係なのだという警告をもってこの曲で祝福するということなのかしらと。いやそこまで深く考えて使われてはいないと思うが「ローエングリン」のお話を知っていて、彼または彼女の内緒の過去を知る出席者は、結婚行進曲に少し苦笑いするのかもしれない。
 

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