ある画家の数奇な運命
を観ました。
ナチ政権下のドイツ。少年クルトは叔母の影響から、芸術に親しむ日々を送っていた。
ところが、精神のバランスを崩した叔母は強制入院の果て、安楽死政策によって命を奪われる。
終戦後、クルトは東ドイツの美術学校に進学し、そこで出会ったエリーと恋におちる。
元ナチ高官の彼女の父親こそが叔母を死へと追い込んだ張本人なのだが、誰もその残酷な運命に気づかぬまま二人は結婚する。
やがて、東のアート界に疑問を抱いたクルトは、ベルリンの壁が築かれる直前に、エリーと西ドイツへと逃亡し、創作に没頭する。
美術学校の教授から作品を全否定され、もがき苦しみながらも、魂に刻む叔母の言葉「真実はすべて美しい」を信じ続けるクルトだったが―。
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク脚本・製作・監督です。
ドイツ映画です。
本編189分という久々に長尺映画でした。
年々短い尺の映画が好まれる世になったので逆に貴重に思って気になりました。
あとライフワークとして世界の近代史、特にナチスドイツ周りを学ぶのが好きなのでその辺が絡む映画はたいてい見ます。
長尺の時点でエゴイスティックで作家性強い難解映画と予想したのですが。
しっかりとハイセンスで上質な娯楽大スケールドラマでした。
流石に長い物語を描いているのですが警戒していたより全然長く感じず、体感で2時間ちょいくらいの映画を見たくらいの印象でした。
それくらいしっかりと緻密に作られた根本は娯楽性の映画だと思います。
予告編ではちょっとミステリアスなまさしく数奇な運命を中心に描いているような誘導ですがそれは正直ミスリードな感じでもあります。
ミステリーや人間関係よりかは困難が多い人生の中で自分流のアートを見つけ出していく男の話って感じでした。
原題のWerk ohne Autorの意味はイマイチわからないですが邦題は内容に対してはイマイチかも知れません。
確かに邦題にも惹きつけられたので正解なのかもですが。
序盤の幼少期の描写から非常にアーティスティックな物語で。
幼い主人公にきっかけの種を植える美人の叔母が妙にエロティックで。
露骨さよりはフェチズムみたいな感じが強くてアーティスティックで良いエロスでした。
そしてナチスドイツがやっていた恐ろしい政策の犠牲になる人々。
ドイツを放浪してた時にその辺を学んでディープに落ち込みましたが、その辺のお話でした。
戦争シーンはわずかですがとても叙情的で強いインパクトの描写で。
恐ろしいのに美しさもあるような見事な描写でした。
主人公が青年になってからは主に恋愛とアートとの向き合いでした。
恋愛の描写はロマンチックで見心地が良かったですね。
自分も絵を描くのは好きで作曲や編曲をするので端くれですがクリエイターの苦悩は良く伝わりました。
芸術の苦悩の中での環境や家族関係の難しさも絡んでいて見事な塩梅でした。
とかく東ドイツで芸術を追求する難しさと逆にその環境ならではの感性があるのだなと感じました。
東ドイツが当時どんなだったか?というのを観るのはどんな映画でも刺激的です。
途中で主人公たちは東ドイツから西ドイツに逃亡しますが、この時代は壁が出来る直前でそこまで困難では無いのだなと思いました。
ただし思想はもちろん違って敵国に亡命したので東ドイツで関わった作品は全て破棄されたり。
西ドイツでの先鋭的アートに戸惑ったり。
そのモダンっぷりは相当でした。
この時代でさえモダンアートはかなり難解にぶっ飛んでるのでこの手のジャンルももうモダンじゃなくてクラシックにさえ思えますね。
様々なアートを模索していく中で自分の複雑な人生の積み重ねからヒントを得ていくさまはとても素敵でした。
この映画の大きな特徴として音楽が非常に良くて。
アートを作っていく際は殆どセリフも無く、素敵な音楽で見せていくので感動が増しました。
ベタで王道的な演出ではあるのですがかなりハイレベルなので泣けました。
長尺をしっかり活かしたクライマックスでした。
この長尺でも明確に回収しないくだりもいくつかあったのは逆に良い感じだと思いました。
そういう事を描きたいわけではない、それを越える部分を描きたいという気持ちがひしひしと伝わりました。
主演のトム・シリングはドイツの売れっ子俳優みたいでハンサムで雰囲気あって素晴らしかったです。
それなりに若い時期の役からちょっと歳を重ねた時期の役まで自然にこなしていました。
セリフが無い演技でも非常に説得力あって。
何より絵を描いているシーンが本当に描いているようで素晴らしかったです。
義理の父親役のセバスチャン・コッホはハリウッドでも活躍してますね。
このキャラがこの映画を複雑にしている大きな要素でしたが。
一応悪役の扱いでしたが完全に悪役では無く良いこともするし。
そもそもナチス政権下では自主性もわからないので。
ただ主人公にとってはしっかり悪だった気がしました。
かなり存在感あるキャラクターでした。
ヒロイン役のパウラ・ベーアはなかなか美人で演技も良かったです。
体当たりなシーンも多く綺麗でした。
叔母役のザスキア・ローゼンダールは物語の肝になる存在でした。
ルックスも裸体もとても綺麗でアートにのめり込み過ぎてちょっといっちゃってる感じも素晴らしかったです。
主人公を導く大学教授役をオリヴァー・マスッチが演じていました。
何処かで見たことあると思ったら“帰ってきたヒトラー“のヒトラーでした。
今作も非常にクセの強いインパクトある役でなかなかの演技派だと思います。
長いけど退屈せずに楽しめる素晴らしい映画でした。
そんなわけで8点。
を観ました。
ナチ政権下のドイツ。少年クルトは叔母の影響から、芸術に親しむ日々を送っていた。
ところが、精神のバランスを崩した叔母は強制入院の果て、安楽死政策によって命を奪われる。
終戦後、クルトは東ドイツの美術学校に進学し、そこで出会ったエリーと恋におちる。
元ナチ高官の彼女の父親こそが叔母を死へと追い込んだ張本人なのだが、誰もその残酷な運命に気づかぬまま二人は結婚する。
やがて、東のアート界に疑問を抱いたクルトは、ベルリンの壁が築かれる直前に、エリーと西ドイツへと逃亡し、創作に没頭する。
美術学校の教授から作品を全否定され、もがき苦しみながらも、魂に刻む叔母の言葉「真実はすべて美しい」を信じ続けるクルトだったが―。
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク脚本・製作・監督です。
ドイツ映画です。
本編189分という久々に長尺映画でした。
年々短い尺の映画が好まれる世になったので逆に貴重に思って気になりました。
あとライフワークとして世界の近代史、特にナチスドイツ周りを学ぶのが好きなのでその辺が絡む映画はたいてい見ます。
長尺の時点でエゴイスティックで作家性強い難解映画と予想したのですが。
しっかりとハイセンスで上質な娯楽大スケールドラマでした。
流石に長い物語を描いているのですが警戒していたより全然長く感じず、体感で2時間ちょいくらいの映画を見たくらいの印象でした。
それくらいしっかりと緻密に作られた根本は娯楽性の映画だと思います。
予告編ではちょっとミステリアスなまさしく数奇な運命を中心に描いているような誘導ですがそれは正直ミスリードな感じでもあります。
ミステリーや人間関係よりかは困難が多い人生の中で自分流のアートを見つけ出していく男の話って感じでした。
原題のWerk ohne Autorの意味はイマイチわからないですが邦題は内容に対してはイマイチかも知れません。
確かに邦題にも惹きつけられたので正解なのかもですが。
序盤の幼少期の描写から非常にアーティスティックな物語で。
幼い主人公にきっかけの種を植える美人の叔母が妙にエロティックで。
露骨さよりはフェチズムみたいな感じが強くてアーティスティックで良いエロスでした。
そしてナチスドイツがやっていた恐ろしい政策の犠牲になる人々。
ドイツを放浪してた時にその辺を学んでディープに落ち込みましたが、その辺のお話でした。
戦争シーンはわずかですがとても叙情的で強いインパクトの描写で。
恐ろしいのに美しさもあるような見事な描写でした。
主人公が青年になってからは主に恋愛とアートとの向き合いでした。
恋愛の描写はロマンチックで見心地が良かったですね。
自分も絵を描くのは好きで作曲や編曲をするので端くれですがクリエイターの苦悩は良く伝わりました。
芸術の苦悩の中での環境や家族関係の難しさも絡んでいて見事な塩梅でした。
とかく東ドイツで芸術を追求する難しさと逆にその環境ならではの感性があるのだなと感じました。
東ドイツが当時どんなだったか?というのを観るのはどんな映画でも刺激的です。
途中で主人公たちは東ドイツから西ドイツに逃亡しますが、この時代は壁が出来る直前でそこまで困難では無いのだなと思いました。
ただし思想はもちろん違って敵国に亡命したので東ドイツで関わった作品は全て破棄されたり。
西ドイツでの先鋭的アートに戸惑ったり。
そのモダンっぷりは相当でした。
この時代でさえモダンアートはかなり難解にぶっ飛んでるのでこの手のジャンルももうモダンじゃなくてクラシックにさえ思えますね。
様々なアートを模索していく中で自分の複雑な人生の積み重ねからヒントを得ていくさまはとても素敵でした。
この映画の大きな特徴として音楽が非常に良くて。
アートを作っていく際は殆どセリフも無く、素敵な音楽で見せていくので感動が増しました。
ベタで王道的な演出ではあるのですがかなりハイレベルなので泣けました。
長尺をしっかり活かしたクライマックスでした。
この長尺でも明確に回収しないくだりもいくつかあったのは逆に良い感じだと思いました。
そういう事を描きたいわけではない、それを越える部分を描きたいという気持ちがひしひしと伝わりました。
主演のトム・シリングはドイツの売れっ子俳優みたいでハンサムで雰囲気あって素晴らしかったです。
それなりに若い時期の役からちょっと歳を重ねた時期の役まで自然にこなしていました。
セリフが無い演技でも非常に説得力あって。
何より絵を描いているシーンが本当に描いているようで素晴らしかったです。
義理の父親役のセバスチャン・コッホはハリウッドでも活躍してますね。
このキャラがこの映画を複雑にしている大きな要素でしたが。
一応悪役の扱いでしたが完全に悪役では無く良いこともするし。
そもそもナチス政権下では自主性もわからないので。
ただ主人公にとってはしっかり悪だった気がしました。
かなり存在感あるキャラクターでした。
ヒロイン役のパウラ・ベーアはなかなか美人で演技も良かったです。
体当たりなシーンも多く綺麗でした。
叔母役のザスキア・ローゼンダールは物語の肝になる存在でした。
ルックスも裸体もとても綺麗でアートにのめり込み過ぎてちょっといっちゃってる感じも素晴らしかったです。
主人公を導く大学教授役をオリヴァー・マスッチが演じていました。
何処かで見たことあると思ったら“帰ってきたヒトラー“のヒトラーでした。
今作も非常にクセの強いインパクトある役でなかなかの演技派だと思います。
長いけど退屈せずに楽しめる素晴らしい映画でした。
そんなわけで8点。