メザスヒカリノサキニアルモノ若しくは楽園

地球は丸かった 太陽が輝いていた
「ごらん、世界は美しい」

感動の映画と美しい風景と愛おしい音の虜

凪待ち

2019年06月30日 | 映画
凪待ち
を観ました。


毎日をふらふらと無為に過ごしていた木野本郁男(香取慎吾)は、ギャンブルから足を洗い、恋人・亜弓(西田尚美)の故郷・石巻に戻る決心をした。
そこには、末期がんであるにも関わらず、石巻で漁師を続ける亜弓の父・勝美(吉澤健)がいた。
亜弓の娘・美波(恒松祐里)は、母の発案で引っ越しを余儀なくされ不服を抱いている。美波を助手席に乗せ、高速道路を走る郁男に美波の声が響く。
「結婚しようって言えばいいじゃん」
半ばあきらめたように応える郁男。
「言えないよ。仕事もしないで毎日ぶらぶらしてるだけのろくでなしだし…」
実家では、近隣に住む小野寺(リリー・フランキー)が勝美の世話を焼いていた。人なつっこい小野寺は、郁男を飲み屋へ連れていく。
そこで、ひどく酒に酔った村上(音尾琢真)という中学教師と出会う。村上は、亜弓の元夫で、美波の父だった。
新しい暮らしが始まり、亜弓は美容院を開業し、郁男は印刷会社で働きだす。
そんな折、郁男は、会社の同僚らの誘いで競輪のアドバイスをすることに。賭けてはいないもののノミ屋でのレースに興奮する郁男。
ある日、美波は亜弓と衝突し家を飛び出す。その夜、戻らない美波を心配しパニックになる亜弓。落ち着かせようとする郁男を亜弓は激しく非難するのだった。
「自分の子供じゃないから、そんな暢気なことが言えるのよ!」
激しく捲くし立てる亜弓を車から降ろし、ひとりで探すよう突き放す郁男。
だが、その夜遅く、亜弓は遺体となって戻ってきた。郁男と別れたあと、防波堤の工事現場で何者かに殺害されたのだった。
突然の死に、愕然とする郁男と美波――。
「籍が入ってねえがら、一緒に暮らすごどはできねえ」
年老いた勝美と美波の将来を心配する小野寺は美波に言い聞かせるのだった。
一方、自分のせいで亜弓は死んだという思いがくすぶり続ける郁男。追い打ちをかけるかのように、郁男は、社員をトラブルに巻き込んだという濡れ衣をかけられ解雇となる。
「俺がいると悪いことが舞い込んでくる」
行き場のない怒りを職場で爆発させる郁男。
恋人も、仕事もなくした郁男は、自暴自棄となっていく――。


白石和彌監督です。
結構なハードボイルドな白石和彌作品に香取慎吾が主演ということでどういう化学反応が起きるか?
という好奇心はありました。
いつも魂と熱量を感じさせて映画らしい映画を撮るので基本的には好みの方の監督です。

内縁の妻とその娘との暮らし。
なかなか温度と湿度を感じさせる生活感で白石和彌監督らしさは序盤からよく伝わりました。
香取慎吾演じる平凡で脛に傷持つ感じの冴えない男としっかりモノの母娘。
なかなかいぶし銀で良いキャスティングでした。
そして被災地を舞台にした荒んだ生活はみんながすっかり目を向けなくなってしまった今の被災地の下の方の暮らしを生々しく描いているようで。
関心を薄れさせている事に罪悪感を感じる程です。

少ない描写ながらも現在の被災地の問題などの痛烈なメッセージ性は感じました。
そもそも映画全体がそれのメタファーなのかも知れないと思うほどでした。

自分はガッツリ昭和に競輪がある街で生まれ育ち、その競輪場の荒んだ空気感、治安の悪さに非常に強い記憶があります。
競輪場の方には行っちゃいけない、と言われて育ったのでなんか強烈にそれを思い出す感じです。
ギャンブル中毒を卒業してまっとうに暮らそうとしていた中で愛する内縁の妻を失い生きるすべをなくす感じ。
完全に折れてしまって、飲んだくれでギャンブル中毒で借金生活。
一向に立ち直る雰囲気も見せずにどんどん落ちていくさまは没入しやすかったです。
「やめてよ、それだけはやめてよ」を繰り返しやってしまう主人公が辛かったです。
とことん親身に親切にしてくれる周りの人々を繰り返し裏切ってしまう主人公でした。

ただそれに対して憎むより同情したくなったのは香取慎吾の演技力や存在感だったかも知れません。

終盤はなかなかショッキングなどんでん返し展開で。
何度か何度か大きな展開が続いて見応えありました。

いつもながらこういう非家族な家族物語はとても好みです。
主人公と内縁の親子関係の娘とのやり取りや父とのやり取り。
そのどちらの線も非常に強くて非常にドラマチックで泣けました。

香取慎吾は白石和彌作品にハマるのか?と正直不安視していましたが全然ハマっていました。
新しい引き出しを完全に見せていましたね。
ちょっと太ってガタイもよく、ガサツでアウトローでワイルドで。
それでいて内面に優しさを持っている雰囲気は見事でした。
今後はコレをきっかけにダークヒーロー的な役が全然ありだと思いました。
極道ものとかでも全然見れる気がします。
体格もいいので長瀬智也と同じくらいは全然いける感じですね。

恒松祐里は密かに高評価な若手女優ですが今作はキャリアハイくらいに良いですね。
今までもクセ強めな役を結構やってきていますが、今作は彼女のストロングポイントがよく出たような役どころでした。
反抗期で感情表現が難しい役どころですがとても彼女の特性にマッチしていました。

西田尚美はダメンズ好きな感じなのでしょうが田舎のマドンナって感じにはピッタリでした。

義理の父親役の吉澤健がめちゃくちゃ良かったですね。
余命わずかで無口な田舎の頑固親父って感じで。
口数は少ないがめちゃくちゃ多くを語るような役どころで。
かなりこの作品のキーになっていました。

リリー・フランキーが白石和彌作品らしい人情親父でとても良かったですね。
ストーリー上、表現的に幅広い演技力が必要でしたがこの人はこの手の役はもはや得意ジャンルでしょう。

音尾琢真はもともと人相悪目なのでこの作品には非常にハマっていました。
人相悪くてガサツで嫌な奴のようでそこまで嫌な奴では無いような。
とてもはまり役でした。

望んだ白石和彌作品の雰囲気はちゃんと味わえる良作でした。


そんなわけで7点。

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