守田です。(20130911 22:30)
7月21日の参院選投票直後から汚染水問題が全面化しだしました。それまで汚染水の海への漏れ出しを否定していた東電が一転して事実の公表を行ったからです。これ以降、タンクからの高濃度の汚染水漏れなども起こってきました。
この汚染水漏れにさすがに世界のマスコミも反応し、東電や日本政府への批判が飛び交うようになりましたが、こうした中で安倍首相は、東京オリンピックの招致プレゼンに出向き大嘘をつきました。
いわく「状況は完全にコントロールされている」とか「汚染水は0.3キロ平米にブロックされている」・・・。
同時に、東京での五輪開催決定のどさくさともいえるようなタイミングで、検察が東電幹部をはじめ、福島事故の責任者を不起訴にすることを決定しました。
参院選、東電による海洋汚染認め、汚染水問題への政府の全面的関与の表明、東京五輪大嘘プレゼン、検察による福島原発事故責任者の不起訴は一連の流れとしてあります。
私たちに今必要なのは、この次から次へと続いている事象の中の、本質的な流れをつかむことです。そのために必要なのは、現在にいたる時間的、歴史的流れをもう一度捉え返していくことです。
汚染水問題として捉え返されるべきことは何でしょうか。
まずはおさえるべきは、福島第一原発がどのような状態になっているかです。ご存知のように福島1号機から3号機は、大地震によってメルトダウンしてしまいました。炉心にあった燃料体が原子炉圧力容器を突き破り、原子炉格納容器の底に落ちてしまったのです。
東電は格納容器の下部にたまっていると言い続けていますが、多くの人士が、格納容器をも突き破り、地中に埋まってしまっているのではないかとも推測しています。
いずれにせよ、周辺は今もものすごい高線量地帯であり、人はおろかロボットも近づけなくて、実態を把握することが到底、不可能な状態にあります。
問題はこの燃料体が今も高熱を発し続けていることです。京都大学の小出裕章さんによれば、ウランは核分裂をすると放射能量がもともとの量の1億倍にもなってしまいます。
そこから放射線が出続け、エネルギーを発し続けます。これを核分裂の熱と分けて「崩壊熱」と呼びます。「崩壊」とはある放射性物質が放射線を出して、違う物質に変わる物理現象です。
このため核分裂を終えた核燃料は、冷却し続けなければなりません。熱を取りつづけなければならないのです。それができなくなってメルトダウンしてしまった今も、熱を取らなければどんどん高温化し、たちまち再度の大きな危機が現出してしまいます。
そのために事故以来、必死になって炉心に注水が行われてきたわけですが、原子炉が圧力容器も格納容器も、把握できない壊れ方をしているため、各所から中に入れた水が漏れてしまう状態にあります。
当初(2011年5月ごろ)には、原子炉を水によって満たして事故収束をめざす「水棺」の創出が目指されましたが、破たんしてしまいました。
このため今もなお、注水を行い続けているわけですが、これが核燃料と接して、熱を奪いながら高濃度に汚染され、原子炉建屋の中に貯まってしまうわけです。現在も建屋の中には高濃度汚染水が推定7万5千トンも貯まっています。(東京新聞7月26日)
これだけでも大きな問題なのですが、さらに事態を深刻化させているのは、福島原発サイトが、阿武隈山系からの大きな地下水脈の上に立地しているため、山側から1日1000トンもの地下水が流れてくることです。
そんなところになぜ原発を建てたのかと思いますが、それを横におくとしてもこのうち400トンが建屋の中に流入してしまっています。そのため炉心の冷却を循環型にしても連日400トンの汚染水が増えてしまうわけです。
それではすぐに建屋地下がいっぱいになり、汚染水が地表に流れてしまうのが明らかなので、東電はこれをくみ上げ、ゼオライトなどでセシウムを回収したのちに、タンクを建てて、そこに回収して、とりあえずの貯蔵をしてきたのです。8月現在でタンクの数が350基。汚染水の総量は34万トンです。
今年になってからの汚染水問題は、まずはこの原子炉建屋からくみ上げて、セシウムの除去を行う前の貯蔵先であった地下貯水槽でおこりました。
貯水槽といっても底にビニールシートを数枚重ねただけの非常に安易なもので、それから汚染水がしみだしてしまったのです。それが今年の4月に起こったことでした。東電はこの貯水槽の汚染水も、タンクに移送しました。
ところが5月ごろから、原子炉の海側にある地下水汚染観測用の井戸から、たびたび高濃度の汚染が発見されるようになりました。東電は繰り返し、事故後に発生した汚染水が周辺の土壌に沁みこみ、地下水に接して汚染している。海には到達していないと言い続けました。
しかし東電は、参議院選挙の終わった翌日7月22日に記者会見を開き、原子炉周辺で観測されていた汚染水が、海に漏れ出してることを認めました。
これはどういうことだったのか。東電によれば、原子炉から海に向けてトレンチと言われる地下トンネルが掘られています。そこには冷却用の取水と排水を行うパイプが敷設されており、同時に電源などの無数の配管も配置されていました。
そのトレンチから地上に向けて立て坑(ピット)と言われる直径7メートルの穴があけられていますが、このトレンチと立て坑(ピット)に、事故直後に発生した高濃度の汚染水が貯まっており、それが地下水と混じって、海に出てしまったというのです。
この点をもう少し詳しく解説します。そもそも汚染水問題は今年になって始まったのではなく、2011年4月にこのトレンチを伝わった高濃度汚染水が大量に海に流入されているのが発見されたのでした。
このとき東電は液体ガラス材などを投入し、この漏洩を止めたと発表しました。このときの漏れは520トンと見積もられました。
しかしトレンチはそれぞれの炉から海に向けて縦横無尽に走っており、とても地上から点検できるものではありません。原子炉を破壊した地震と津波によってどのような損害がでているのかまったく把握しようのない状態です。地下にあるので目視ができず、監視のための機器などもない。このうち漏洩を止めたのは目視できる部分でしかありませんでした。
ではここにどれぐらいの汚染水が貯まっているのかというと東電の推計で約1万1千トンです!(東京新聞7月30日)しかも濃度がものすごく高い。場所によって大きな違いがあるのですが、1号機2号機の間にあるトレンチからは1リットルあたりのセシウム値がなんと23億5千万ベクレル。法令限度の1500万倍のものが見つかりました。
このようにトレンチ内にかなりの濃度の汚染水が貯まっていることを東電が初めに発表したのは7月27日でした。
その後、どこの立て坑でどれぐらいの汚染が見つかったとか、情報が乱れ飛ぶように出されていきます。ストロンチウムもセシウムと同じように1リットルあたり何億ベクレルもあることが発表されました。
こうした発表をしている最中に、続いて東電は、8月2日に、実は地下水が毎日400トン、海に流れていたとの重大な発表をしました。しかも推定で2011年5月からです。当然にも地下水はトレンチなどのの汚染水と混じり、海に流れ続けていたのです。
このため膨大な汚染が起こったはずですが、東電はあえてこれを法令の一番甘い放射性トリチウムで計算。推定汚染を20から40兆ベクレルとしました。ちなみに放射性トリチウムの法令限度は1リットル6万ベクレル。福島原発は年間22兆ベクレルが許容されています。
東電は「それの2倍ぐらいだ。問題がないわけではないが」とうそぶきましたが、これはかなりの重大問題です。海洋汚染が2011年4月に止めたといいながら止められていなかったことを告白したのだからです。
端的に言って、そんなこと、2年以上も気が付かなかったのでしょうか。僕は分かっていたに違いないと思います。あるいは本当に気が付かなかったのだとしたら、東電は今、現場で起こっている基礎的なことが何も把握できていないことになります。
しかしこうした考察にマスコミが向かう前に、次の重大事態が発生しました。それが貯蔵タンクからの汚染水漏れです。発覚したのは8月20日ですが、どうも怪しい。僕にはタイミングを見計らっての発表に見えてしまいます。
ともあれ起こった事態は、急ごしらえで溶接が行えず、ボルト締めで作ったタンクの下部、おそらくはボルト締めのパッキング付近と思われる個所から300トンの汚染水がタンクの外に漏れてしまったということでした。
どれぐらいの濃度かというと、セシウムは除去されているのですが、ストロンチウムが1リットルあたり8千万ベクレル。法令の放出濃度限度の数百万倍です。それが300トン漏れたので、合計で数千テラベクレルと推定されています。(東京新聞8月21日)
原子力規制委員会は、当初これを事故の国際尺度のレベル1としましたが、すぐにレベル3に「格上げ」しました。しかし反対に言えば、その直前に公表された2011年5月から続いていたと告白された汚染水の混じった地下水400トンの海への流出は事故評価すらされなかったことになります。
こうした事態がありながら、安倍首相は、「状況はコントロールされている」「汚染水は0.3平米の中にブロックされている」と公言したわけですが、後者の数値は原子炉の直前のハノ字型の防波堤のある港湾の面積のこと。
しかし漏れ出した300トンの汚染水は、この港湾の外の外洋につながる排水溝を伝わって、海に流れてしまったことが8月23日に東電によって発表されています。東電が首相の言葉にうなづけなかった直接の原因でしょう。
さて、以上でこの間の汚染水問題の構造を把握することができたかと思いますが、ここまでまとめるまでに大変な時間と労力がかかりました。膨大な記事を読みましたが、さまざまな事象や数値が乱れ飛んでいて事態が把握しにくいのです。
また地下水の総量がどうなっており、そのうちどれだけが建屋に入り、どれだけが海に流れたのか、調べても調べても数値的にまだ僕が分かっていない点もあることもお伝えしておきます。東電資料を全部読み込めば分かるのでしょうがそこまでの時間がありませんでした。
このような困難な分析をしていると、こういう発表の仕方そのものが、人々の目を欺く手法なのだと思えてきます。いや実際にそうではないか。だからこそこの点に食らいつく必要を感じて分析を行いました。
ともあれ言えることは、次から次へと出されるめちゃくちゃな事態にマヒしてしまわずに、しっかりと批判精神を保ち、この事態に対決していこうということです。
今、起こっているのは大変な事故であり、汚染物質の漏えいです。にもかかわらず誰の責任も問われていない。というか責任者が逃げ出そうとしている。そしてそんなあり方にこそ、私たちの巨大な危機があるのです。
この危機を少しでも遠ざけるためには、民衆の側のウォッチ力を常に高め、原発の今の監視を続けて、危機を訴え続けることが必要です。大嘘で「勝ち取った」オリンピックの成功の大合唱にけして負けず、ともに批判精神を育て、行動していきましょう!