守田です。(20141203 08:00)
鎌仲さんとの対談の後篇をお送りします。
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映画『小さき声のカノン』に込められた思い-2
2014年11月24日 アースディしがにおいて
鎌仲ひとみ&守田敏也
守田 その話を聞くと思い出すことがあります。僕もあちこちで講演させていただいているのですけれども、岡山で話をしたときに、関東の方から逃げてきたばかりのお母さんが参加されていました。
僕の講演が終わった後に、幾つかグループを作って、それぞれでお互いの話を聞ける場を作ってくれたのですが、その時にその逃げてきたお母さんが、とつとつと、さきほど鎌仲さんが言った通りに話をしてくれたのですね。
地震があった時に何も知らなくて、小学校6年生の息子さんがいて、お母さんたちみんなで卒業式だけはやってくれという運動をやったのですね。
体育館も崩れている状態の中でしたが、学校側も「それでは校庭を使ってだったら認めましょう」ということになって、3月15日に校庭で子どもたちが並んで卒業式をやってしまったわけなのです。(守田注 3月15日、その小学校がある地域を大量の放射能を含んだ雲が通過していった)
ずっと子どもたちがそこに立っていて、しかも卒業式が終わってからもみんなこれでバラバラになるからお母さんたちも名残惜しくて、ずっと一日そこに立っていたということをそのお母さんが泣きながら話すのです。「私は子どもたちを被曝させてしまった」と言いながら。
それ以上、そのお母さんはどう捉えるべきなのかはなかなか言えないのだけれども、それを聞いていた周りのお母さんたちが彼女の手をとって、その方たちも言葉ではどう表現していいのか分からないのだけれど顔を見合わせて「うん、うん」と言っていたシーンを思い出しました。
鎌仲 本当に人類史上、まれにみる大惨事が起きたわけですが、しかし「人類史上、まれにみる大惨事」とメディアは伝えてないのですよね。
守田 そうですよね。
鎌仲 だからもちろん、どうしたら良いか分からなくて、言葉も出なくて、泣きながらたたずむのはしょうがない。誰だってそうだ。だけれどそれから3年経つ中で、子どもたちを守る新しい取り組みに入っていくときが来たのです。その瞬間を私はこの映画の中で描きたかったのですよね。
それまで待たなくてはいけないというか。見守って、「うーん」という感じで。やはり人間の中にある強さ、母なるもの、男性の中にもありもちろん女性の中にもあるそういう力が、小さき存在の命をどう守っていくと考えたときに出てくる。今、その段階に来たと思います。その力の出すべき方向を私はこの映画の中で示していると思います。
守田 その取材の場に行って、どうお母さんたちが力を出せるように関わりながら鎌仲さんは取材するのですか。というか、その場合の取材って僕も良く分かるけれど、すごくセンシティブで難しいですよね。
鎌仲 だいたいね、普段はこうやって取材しているんです。三歩下がって。(鎌仲さんは僕の席の三歩後ろに移動)だから前には出ない。でも今回はここら辺からひっぱったかも。(鎌仲さんは僕の横よりほんの少し前に立った)。
普段は後ろにいて追い抜かないようにしているんですよ。その人がどうあるのかを尊重したいから。この取材の仕方は今回も貫いています。でも時々、関わるよね。関わらざるを得ないのですけれど、基本のスタンスはちょっと後ろから見守る感じです。
守田 やっぱり鎌仲さんが来たら、答えを欲しがるのではないですか?
鎌仲 みんな逃げるんだよね。答えを欲しがるというより、私がすごく答えにくいことを聞くので。私はストレートにいろいろな聞きにくいことを聞くわけですよね。向こうも答えにくくて、ちょっと「うん・・」となる時期ももちろんありました。
でもだんだん、そういうことを乗り越えて、関係ができていったと思うのですね。
守田 やっぱりそういうシーンが詰まっているというか。
鎌仲 そうですねー。なんだろう。私は出来るだけ私の映画の中では人を泣かさない、感情的なもので絡めとらないということを心がけてきたのです。「泣いたって何も解決しないよ」という考えがあったのですけれども、今回は自分で観ても泣ける、泣ける(笑)。
守田 うーん。それはすごい。
鎌仲 そういう感情のカタルシスがあっても、やはり問題は大きく複雑に私たちの前に立ちはだかっていることには変わりがないので、そこに向かって泣いたり笑ったりしながら、長くやっていく問題だと思っているのですね。
守田 すごく共感します。僕も講演をしたり、いろいろとものを書くときに人の話や書いているものも見ますよね。そうするとすごく上から目線で断定調に「こうしなければダメ」とか、「こういうことをどうして知らないんだ」という話し方、書き方をする人がいるのだけれども、今までの世の中そのものがそのような感じで来たのではないか。
少数の官僚であったり政治家であったり、偉そうな人の言うことに振り回される。そうではなくて自分自身が、難しいかもしれないけれども情報をつかんで自分で考えて判断できるようになっていくことが大切なのであって、僕はそのためには何が必要なのか、何が提供できるのかということを考えてきました。そう思うだけに映画が楽しみです。
鎌仲 私は原発問題というのは、男性にいろいろなことをお任せしすぎて起こったんじゃないかなあって思うのですね。
守田 そうです!
鎌仲 男性原理。つまり効率を追求するとか、経済性を追及するとか、その価値観の前には「命」という言葉を使うのも恥ずかしくなるような感じで、男たちがやってきたと思うのですよ。
でも女は子どもを妊娠して生むわけではないですか。それなのに「そんな感情的になるなよ」とか「科学的な根拠もないのに放射能を怖がっているだけじゃないの?」とか冷たい理屈を言う男たちが未だに日本では多いのですよ。
だから今、そういう男たちが政治とかいろいろなことを決める側にいて、女性たちが「お願いです。給食には安全な食材を使ってください」と嘆願、陳情にいくという構造そのものを変えて、女性も政治を引き受けるし、男性も子育てや地域の活動を引き受けることが必要なのです。だからこれは、単に原発のことだけではなく、男と女の非常に深い問題に関わっているなと映画を作って思いましたね。
母なるもの、男性の中の女性性が、あまりにも日本の中では抑圧されすぎていると思います。
守田 本当にその通りだと思います。
鎌仲 あるいは夫婦の関係で、夫が妻のいうことに耳を傾けることがあまりにもないと、今回取材をして、凄く感じて、驚いたということもありますね。
子どもを抱いて放射能のことを不安だと言う妻に「政府が安全だと言っているのにおまえは何をバカなことを言っているのだ」と。でもそんなことを言ってもらいたいのではないのですよね。子どもを抱えて凄い不安に包まれている自分をどうにかして欲しいとまずは言っているのに、すぐに数字の話とか原発の話を男はしちゃうわけでしょう。
やはり子どもを本当に守りたいという夫婦の共同作業がなければ私は子どもは守れないと思うのです。その中で母なるもの、母的な力というものが今でてきているわけですが、こんなに混迷している安倍さんのアベコベ政治の日本の中で、そういうものと真っ向から対立したら潰されてしまう。
そうではなくて、地を這うように、草の根が広がるように、女たちが今までとは違う意識を持って前に進んでいかなかったら子どもは守れない。原発も止められない。そう思います。
守田 僕は滋賀に来てもそう思うのですよね。滋賀というより信楽のお母さんたちに最初に呼んでもらって、その場の雰囲気がとても心地よいというか、「話して下さい」と言われて来ながらその場の雰囲気にすごく教えてもらうことがあったのですね。
たぶんね、僕は三日月さん(注 滋賀県知事。鎌仲&守田トークの前に、お母さんたちを中心としたチームしがの方たちと対談した)もそうだと思う。あれは男としてすごく得だと思いますよ。
鎌仲 そうそう。あれは良かったね。ああいうのいいね!
守田 おそらく今の彼の日常は、灰色の背広を着た時間泥棒のような人たちに取り囲まれている毎日だと思うのだよね。(守田注、灰色の男たち=時間泥棒はミヒャエル・エンデの『モモ』に出てくる)だから今日は三日月さんはなんかホッとした顔をしていた。
鎌仲 そうよねー。ここにいる女の人たちにいじられるのがいいね。
守田 そうそう。
鎌仲 いじくられキャラ(笑)。
守田 そういうのがもっと広がっていくと僕は「男性解放」になると思います。男性自身がすごく自分も抑圧しているのです。男性の中にも鎌仲さんが言ってくれたように母性的なものもあれば、優しい気持ちもあるのに「そんな腰抜けでどうするんだ」と言われちゃってね。「理屈に強く数字に強くないとダメだ」と言われて、結構、それで男性は疲弊しているのですよね。
それで家に帰って、人のことばかり言えないけれども、お連れ合いに愚痴を聞いてもらう。それではダメで、社会の中で自分が公的な活動をしている場で、そういう母性的なものが出せるようにならないと。
鎌仲 でも連れ合いに愚痴を聞いてもらえるのは良い方だよ。(笑)
守田 さて鎌仲さん。そろそろ最後になるのですが、この映画を僕はとにかく観て欲しいし、広げたいと思うのですけれども何をしたら良いでしょうか。
鎌仲 そうですね。この映画の卵のように産み落とされたシーンを先行的に今日だけ上映するものがありますので観ていただいて、本編は来年の3月に東京の劇場で公開したあとに全国で一斉に上映して、どの劇場でも上映していただきたいと思っていますし自主上映もやります。そのどこでも使える前売り券を販売しています。
私たちはこの映画を3年かけて作ってきました。こういうテーマの映画を誰も作ってくれないのですが、いいものを作らないと広がらないので時間がかかりました。映画を広げるためには、子どもたちを保養に出すとかあるいは定期検診を受けるとか、今はまだまだ足りない制度を作っていくための運動と連携していきたいなと思っていますが、私たち実はもうぶっ倒れるほどにお金がないのです。
守田 前売り券を買っていただくことが凄く重要なそうですね。
鎌仲 そうなんです。
守田 これから宣伝をしなければならなくて、もの凄くお金がかかると聞きました。ですからみなさんにぜひ前売り券を買っていただきたいです。
鎌仲 ほっておいたらマスコミは私がこの映画で描いたようなテーマを取り上げようとしないのです。でも映画になった、それが劇場公開になる、地域で上映になったとなったら取り上げるようになる。現場にはいい記者たちもいるわけですよ。
このテーマを広げるチャンスなんです。私はそのチャンスを生かすために何人かのスタッフを雇わなくてはいけないし、その人たちだって人間的な生活をしなくてはいけない。その上で朝から晩まで働いてもらわなくてはいけない。
映画を作ったのはいいのですが、実は今月の12日にこの映画の製作資金すべての責任を負ってくれていた私と30年一緒に映画を作り続けてきたプロデューサーが亡くなってしまいました。
守田 悲しいですね。
鎌仲 私たちは父親のようなプロデューサーを亡くしてしまって、路頭に迷っているような状態です。でも自分たちでこの映画をやっていこうということで、相変わらず頑張っているのですけれども、ただ、チケットを買っていただかないと、先が・・・という感じなのです。
いやそれでもやっていくでしょうね。例えチケットが売れなくても借金をして頑張っていこうとは思っていますが、良かったら買ってやってください。
はい。終わりました。
守田 今日はどうもありがとうございました!
終わり
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チケットは以下から購入できます!
鎌仲ひとみHP
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