守田です。(20160320 23:30)
高浜原発運転停止仮処分決定が大津地裁からなされるという画期的な事態から10日余りが経ちました。
再稼動強行中だった3号機が翌日に停まりましたが、稼動中の原発では初めてのことです。しかも停めたのは直接的には原発から30キロから70キロ圏内に住んでいる滋賀県民29人。
2014年5月の福井地裁判決に続き、原発を停める権利を持っているのは、政府のいう立地自治体だけではないことが示されわけですが、より大きくは全国で再稼働を叫んでいる私たち民衆が高浜原発を止めたのです。
この決定からの10日余りの間に、3月11日をはさんで全国で実にさまざまな集会やデモ、企画が行われましたが、僕の知る限り、どこも大変、盛況でした。
民衆の力を集めることで原発を止めることができる、安倍政権の強硬姿勢も崩すことができるという自信が高まって、どこでも参加者の上乗せが起こったのだと思われます。この力をさらに拡大させましょう。
一方で関西電力の八木誠社長は18日、会長を務める電気事業連合会の定例記者会見で「極めて遺憾で到底承服できない」「現時点では何も決めていないが、一般的に逆転勝訴した場合、損害賠償請求は検討対象になる」と述べました。
原発再稼働断固推進派の産経ニュースが以下のようなタイトルをつけてこれを報じています。
高浜原発仮処分に関電社長「到底承服できない」 逆転勝訴したら住民に損害賠償請求「検討対象に」
産経ニュース 2016.3.18 18:39更新
http://www.sankei.com/life/news/160318/lif1603180028-n1.html
八木社長の発言は明らかなる脅しです。民衆のさまざまな奮闘に事業などを食い止められた権力者や大会社が起こす報復的な損害請求裁判を「スラップ訴訟」と言いますが、これをちらつかせる許しがたいものです。
しかし同時に私たちは、この発言には、関西電力のみならず、電力会社や原子力村の焦りが大きくにじみ出ていることもしっかりと見抜いておきましょう。
実は産経の記事にも、後半で、八木社長が「関電社長と電事連会長を退任するとの観測が出ていることについては「人事はノーコメント」と述べるにとどめた」と書かれています。
電力自由化を前に、電気料金値下げの切り札としていた高浜原発が停まってしまったことで、実は八木社長は、進退をも問われてしまっているのです。
しかもこの高浜原発の運転停止で、再びこの国の中で動いている原発は、わずかに川内1号機、2号機のみになってしまいました。私たちは再び原発ゼロ状態へと原子力村を追いやりつつあります。
これに対して安倍政権は、高浜原発再稼働の失敗からも何も学ばずに、伊方原発3号機の今夏の再稼働を目指していますが、そのためのハードルも大きく引き揚げられたと言えます。
一番の問題は実は技術的な問題です。というのは伊方3号機は2011年4月29日に定期検査に入って以降、稼動していないので、現時点で4年11カ月近くも停まっています。
今夏、7月末に再稼働させようとするとなると、なんと5年3カ月も停まっていた原子炉を動かすことになります。何らかのトラブルなしに、スムーズに稼動できる可能性は極めて低い。
同時に4号機のトラブルは、重要部分のボルトの加締めの忘れや、電力関係の重大なデータの入力ミスによるものでした。
ここには電力自由化を前に、何がなんでも4号機を再稼働しようとした関電の利潤優先体質も表れていましたが、それだけではありません。機械の劣化だけでなく、保守点検能力の劣化も表れたのでした。
原発が長く停まっていたため定期点検作業が行えず、腕がなまって、技術力が低下していたのです。
機械も運転員も保守点検者も、長く稼働してないことで、さまざまに劣化してしまっていたと思われます。これが日本中の原発で起こっていることなのです。
1994年12月から稼働している伊方原発3号機も96年1月から4月の第1回目より、ほぼ1年間に1回、合計12回におよぶ定期点検を繰り返してきましたが、この作業もまた2011年4月からの定期点検後、行われていません。
高浜原発と同様に、機械も劣化し、運転員も保守点検者の側も技術力が低下しているのです。
今回、大津判決の社会的反響が大きかったのは、高浜原発4号機が連続でトラブルを起こした上に緊急停止してしまった直後に仮処分決定が出されたことでもありました。
安倍政権は、この状態の中で伊方原発再稼働に向かうことになります。しかもこれまで徹底して国政選挙での原発問題の焦点化を避けてきたのに、参院選と伊方原発の再稼働のスケジュールが重なってしまう可能性もある。
さまざまな意味でハードルが重なっていると言えます。
私たちが確認しておくべきことは、この核産業の苦境が、私たち、民衆の力によって作りだされてきていることです。
私たちは今なお、日本の原発のほとんどを止めています。動いているのはたったの二基のみです。しかも自公与党が圧倒的な議席を持っているにも関わらずにです。それが福島原発事故から5年経ったこの国の現状です。
ぜひともみなさんと確認したいのは私たちの持っているパワーの凄さです。国会が原発推進派で埋められていようとも、首相官邸の周りや、全国の電力会社や主要ターミナルの前が脱原発デモで埋められているから原発は動かせてこなかったのです。
動かせないから劣化が激しくなり、技術力も落ちて、トラブルを起こし、ますます動かせない状態に陥っている。今回の運転停止命令はその上に重なったのです。
さらに福島原発も含めて50基もの原発が停まってしまい、運転再開の目途がほとんど立たないこの状況は、国際的な核産業全体にも大きな影響を及ぼしています。
まずは核燃料が売れないことで、世界の4大ウラン燃料会社の一つ、アメリカのユーゼックが倒産してしまいました。2014年のことです。
日本の中で言えば、大苦境に陥っているのが原発メーカーの東芝です。これももともとは原発問題が発端。2006年に市場価格3000億円と言われていた原子炉メーカーの米ウエスチングハウス社を倍の価格で買収してしまったことに依っています。
東芝は原子力産業の世界的リーディングカンパニーになることを目指して強気の買収を行ったのですが、2008年のリーマンショックで早くも破産。実にその時から不正会計に手を染め始めたのでした。
東芝はアメリカへの原発輸出で苦境を乗り越えようとしましたが、他ならぬ福島原発事故によって完全にとん挫。そもそも福島原発の建設に東芝が大きく関わっていたために、一気に信頼を失って契約を破棄されてしまったのでした。
東芝はその後、転げるようにして現在に至っています。この春は新卒者採用を見合わせ、他方で膨大なリストラを行うことでで生き延びようとしていますが、展望は極めて暗い。
一方で川内、高浜原発のメーカーである三菱重工は、アメリカのサンオノフレ原発に輸出した蒸気発生器が深刻な事故を起こし、修理ができずに原発廃炉が決定したため、9300億円の損害賠償裁判を起こされています。
こうした原子炉メーカーの瓦解も、私たちが日本の原発のほとんどを止めてくる中で強まっていること。
崩壊する核産業の延命の道に、私たち日本の民衆が立ちふさがっているがゆえに、展望がどんどん狭まっているのです。
スラップ訴訟をちらつかせる関電八木社長の発言もその中での悲鳴でもあることが分かります。それでも理不尽な発言を許してはなりませんが、私たち民衆と原子力産業の間のこの力関係をしっかりと見据えておきましょう!
一方で見ておかなくてはならないのは、このように核産業が死滅に向かっているからこそ、なりふりかまわない延命策がとられていることです。
その際たる例が、川内原発や高浜原発を、危険性を承知でむりやり動かしたことです。しかも川内原発は今なお動いたまま。
私たちはここに明らかなる危険性があることをしっかりと見すえ、一方では原発再稼働反対の声をさらに強めつつ、他方で、原発事故への民衆の側からの備えを逞しくしていきましょう。
民衆にさらなる力を!
Power to the people!
さらに前に進みましょう!
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