守田です。(20130703 12:00)
後藤さんの講演のノートテークの3回目です。今回は「過酷事故対策」の中でも最も象徴的とも言える格納容器ベントについて語ってくださっています。よくマスコミにベントはちゃんとやられたのか、やれるようにしてあるのかという論調が流れていますが、ベントはもともとあってはならないものなのです。後藤さんは「格納容器の自殺」と呼んでいます。
僕も講演などで「過酷事故対策」というものがいかに安全思想を逸脱したものなのかを説明するときに、よくこのベントの話をします。非常に重要な点ですので、とくにここをじっくり読み込まれてください。
また格納容器の問題では、先に再稼働が狙われている関西電力などの原子炉・・・加圧水型の方が、沸騰水型では封入されている水素爆発を防ぐための窒素が入っていないので危険が大きい点が指摘されています。これも再稼働の動きと向き合っていくときにとても重要なポイントになるものです。
なおこの原子力規制委員会の新基準に対し、新潟知事が真っ向から反対を表明し、柏崎原発の再稼働を認めないことをはっきりと宣言しました。県民および周辺の人々の命を預かる知事としての素晴らしい判断だと思います。ぜひ応援したいものです。
こうした英断を下せる自治体首長を増やしていくためにも、後藤さんの貴重な経験知のシェアを進めていきましょう!
以下、お読みください。
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原子力発電所の真実を語る・・・3
後藤政志 2013年3月30日
福井から原発を止める裁判の会主催講演会より
http://www.youtube.com/watch?v=7DgSaLgd1rc
さて炉内を想像してみます。溶融物が圧力容器を溶かして、格納容器の下に落ちて、コンクリートの床に落ちて発熱反応が起こっています。それ以上、どうなっているのか分からずに水をいれています。これがずっと続きます。カメラを入れても見えなかった。
そうすると原発を復旧するといいますが、溶け落ちた燃料を取り出さないとどうにもならないのです。しかし溶け落ちたものがどうなっているのかも分からないのです。分からないで水を入れているだけです。だから私はこれはもうダメなのかもしれないとも思っています。燃料を出せずに石棺化するしかないかもしれない。
安全対策の方からいうと、格納容器の下に燃料が落ちた時に、直接にそこに配管しておいて、水をジャバジャバかけると言っています。本当ですかということです。福島でも水をジャバジャバかけましたが、入れたはずの水が入ってなかったり、よく分からないことがいっぱいあるのです。
ここに配管をして溶融物に水をかけたらちゃんと冷えるのか。外側は冷えてもなかはドロドロになってたりします。しかもそのときに水蒸気爆発の危険性があります。火山でも大爆発を起こします。物理的な爆発です。水素爆発は燃えるのと同じです。濃度が高いと爆発的に燃える。
それに対して水蒸気爆発は、溶融物が微細化して、水の中で急激に周囲を沸騰する。体積がボンと増えて閉じ込めてあれば圧力が高くて吹っ飛んでしまう。これが怖いのですが、今回も起こった可能性があります。しかし格納容器を破壊するまでにはならなかったから救われた。あれが吹っ飛んでしまったらとんでもない被害になります。
それから冷却に失敗して格納容器の圧力が上がって、ベントというものをしました。ガスを逃がしました。これは1992年から過酷事故対策が始まって付けられだしたものです。これは本来はあってはならないものです。
なぜかというと格納容器は放射能を閉じ込める容器でしょう。放射能を出さないためのものなのに、自分の圧力が上がってしまったから放射能を出すってどういうことですか。だから私は格納容器の自殺と呼んでいるのです。
なぜって格納容器は私が設計を始めたころには、約束をしているのです。原子力の安全はどうやって保たれるのか。どんな事故が起こっても最後は格納容器がある。その中に放射能を閉じ込めるから、みなさんには迷惑はかけませんという約束です。
これが安全の最後の砦といって私は設計してきたのです。そこにガス抜き?そんなものつけてはいけませんよ。ところが私が設計をはじめて、私は中途入社で1989年から始めたのですが、3年も経たないうちにベントをつけろと言い始めた。なんじゃそれは。まったく矛盾していると思いました。
ですから今も主張しています。規制委員会でこう言ってます。「ベントは今回はまずかった。ベントをしたがフィルターをつけてなかったので申し訳ない。次はフィルターをつける。沸騰水型はすぐに。加圧水型もやがてつける。5年待つけど」。
5年待つとはなんだろうという気もしますが、そもそも何もしなくても放射能を中に閉じ込めているから安全を担保するのが格納容器なのです。静的に、駆動装置がなくても貯めるようになっている容器なのです。だから安全のために非常に有用なのです。
それを動的なもの、バルブをつけたりしたとたんに、その故障が心配されるわけです。今回だって開かなかったんでしょう。一つのバルブを開いたけど、もう一つのバルブが開かなかった。暗いし、放射線は高いし、高いところににあって作業はやりにくいし。しかも手で開けられない。
そんな不確かなものでやるのですが、また同じことをいうのではないかと心配するのです。対策はしたけれども環境が違って、また開かないということがありうる。
しかもフィルターをつけますからね。フィルターは放射性物質を濾しますから容量がいるのです。そして放射性物質が出てくる量が多すぎれば突破されてしまうのです。抜けてしまうのです。そうすれば同じことになる。しかしフィルターは壊れない、大丈夫ですと言っているだけなのです。
そもそも私は格納容器は小さいと言っているのです。格納容器屋が格納容器がためだというのは心苦しいのですが、申し訳ありません。私は今はGEの設計が間違っているとはっきり申し上げます。間違いない。マーク1というタイプがそうですが、沸騰水型はすべて同じです。余裕がなさすぎるのです。もっと大きければまだ対応の時間がある。
フィルターをつければベントをして良いのかというと、私はダメだ、ベントをする必要のない格納容器を作りなさいというのが基本的な主張です。
格納容器のタイプは沸騰水型では、その下にプールがあるものがあります。この場合だと溶融物が水の中に落ちてくるのですぐに水蒸気爆発を起こします。今回はマーク1型で下にプールがなかったので水の中には落ちてこなかった。不幸中の幸いだったかもしれません。
ABWRという最新型があります。これは一見、経済的と言われているのですけれども、出力を3割も上げているのに容積は小さいのです。柏崎6、7号、島根3号、浜岡5号がそうです。志賀2号もそうです。これも違った形の事故が起こりやすい。
加圧水型の格納容器についてはアイスコンデンサー型と鋼製ドライ型があります。前者は大飯1、2号だけです。これは非常に危ない。極めて格納容器が危ないのです。アイスで冷却するようになっているのですが、このシステムが働かないと格納容器がコンパクトだからどんどん圧力があがってしまう。水素爆発に対しても危ない。
加圧水型の格納容器の一番の問題は、容積が大きいのです。沸騰水型よりいいよねと思います。ベントしなければならないまでに時間がかかります。だからといって時間がかるだけで、事故が続けばベントをしなければならなくなります。だから規制委員会もフィルターをつけるようにしようと言っています。
ただし沸騰水型は小さくて危ないのですぐにつけなさい。でも加圧水型は大きいので、とりあえずはいいよ、何年かうちにつけなさいという表現になっていますが、私はこれが最悪だと思います。事故の可能性はあるからです。
もうひとつの問題は沸騰水型は水素爆発を恐れて、中に窒素を入れているのです。そのため中では水素爆発は基本的には起こりません。少なくとも初期には。だから今回も、班目委員長が「水素爆発は起こりません」と菅さんに胸をはって言ってしまったのですね。
彼は非常に運が悪かったと思うのです。中に窒素が入っていますから、私だって聞かれれば第一声はそういいますよ。ところが外で漏れて爆発するのですね。この漏れることを想定しなかったことが判断のミスです。ただしなかなか気がつかないかもしれない。
私は格納容器を設計していましたから、爆発があったと聞いたときに、これではないかとすぐに推測できました。圧力も温度も上がっていたから水素は外に漏れていた。そうすると外には酸素がありますから爆発したのです。
加圧水型はこの窒素が入っていないのです。だから水素爆発を起こしやすい。水素を処理する装置がついているのですが、それが故障したらどうなるのか。その処理能力はどれぐらいなのか。とくに火をつけて水素を燃やすものがあるのです。部分的に出てきて火をつけて燃やして処理するのです。
格好いいけど、故障した時を考えてください。水素が出てきた、あ、故障しちゃった、火がつかないうちに水素が広がります。いい塩梅になったときに戻って火をつけたら自爆装置でしょう。事故というのはそういうものなのです。安全装置が故障して、復旧した時にボンと行くというのはよくある話なのです。
そういうものと、このときに窒素を封入しているものと、どちらが安全だと思います?桁違いに窒素封入の方が安全ですよ。間違いなしに。加圧水型はつけた装置が何かあったらおしまいなのです。そうすると安全性のレベルが違うのです。水素に対していうと加圧水型の方が圧倒的に危ないのです。
過酷事故対策というものがいかにいい加減かという点を申し上げます。大飯原発3号機の意見聴取会でのことですが、11.4メートルまでの津波に耐えるようにしています。しかしそれを超える津波が来る可能性があります。そうすると建物が水をかぶる。それに対して水密扉をつけました。
水が入ってこないといいますが、誰が閉めるかというと人間がやるのです。地震がきた、津波がくるぞということで閉めにいきます。何分でできるでしょうか。福島は地震から津波まで40分でしたが、奥尻島は5分です。そんなもの、人間が閉めにいくことで水密化できるはずがないのです。それが一点の間違い。
また建物にはいろいろと扉がありますから、もし水密化をするというのなら実際に実験をしないとだめなのです。理屈上で大丈夫だというのでは甘い。対策をいろいろ立てていますが、確実にできるかどうかわからないのです。
一番の傑作は最後に出てくるものです。「格納容器が破損に至った場合などを想定し、屋外放水設備の設置などを要求」とあります。素晴らしいよね。これで放射能を抑制するというのですが、私は腹が立ちます。やってはいけないとは言いませんが、これが安全装置だということにめちゃくちゃに腹が立つのです。
本当にひどいです。まったく意味がないですよ。こうしたことがあるから大丈夫だというのがあまりにもひどいというのが私が言いたいことです。
よくお見せする図があります。螺旋に見える絵なのですが、実は同心円が並んでいるものなのです。騙されるでしょう。人間の目はこういうものに騙されるのです。下に縞模様を作ってその上に円を重ねると錯覚が起こります。心理学者が作ったものでフレーザーの錯視といいます。
ここにいる全員が騙されてしまいます。そうするとプラントで何かが起こったときに、全員が同じミスを犯すことがありうるということを意味しているのです。これが事故の怖さなのです。
事故は人間のエラーと機械の故障と自然現象の3つから起こってきます。そのときにどうするか、こう考えているのです。そのシステムだけで完全な安全が確保できているか。できないのならプリベンションといって事故の発生予防をほどこします。フェールセーフとかフールプルーフといいます。
それでも事故が発生するかもしれないので、発生したときはミチゲーション、事故の被害を緩和する対策をほどこします。ここまでわれわれ技術者がやることです。
ところがここまでで安全かどうか、判断ができません。ここまでの対策をして、最悪の場合はどうなるかを想定して、みなさんに提示します。それでみなさんは、この被害は受忍できるかどうかを議論するのです。そのときどのような被害があるかを提示するのが技術者の役割だと私は考えています。
ところが原子力の技術屋さんはこのすべて(受忍できるかどうかまで)をやろうとしています。それは僭越なことだと私は思っています。水蒸気爆発があるのかと聞かれればある人は滅多に起こらないといいますが、私は起こる可能性は確実にあると言います。
(講演はここでいったん終了 この後、補足説明が続く。この連載も続きます)
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