明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1395)浜岡原発に南海トラフ地震が襲ったら何が起こりうるか(牧之原市、静岡市でお話します)

2017年07月01日 11時00分00秒 | 明日に向けて(1300~1500)

守田です。(20170701 11:00) 

いま1日の午前11時、新幹線の中からです。静岡県牧之原市に向かっています。午後1時半から牧之原市さざんかで、2日午後1時より静岡市労政会館でお話しします。
ここ数日、静岡のこと、牧之原市のこと、浜岡原発のこと、そして南海トラフ地震のことの分析に明け暮れてきましたが、講演を前にした記事の最後に、浜岡原発に南海トラフ地震が襲った時に何が起こりうるかを考えてみたいと思います。
 
現在、浜岡原発はまる6年停止しています。そこに南海トラフ地震が襲った場合、どんなことが起こりうるのでしょうか。
実は明日の静岡市での講演に向けて「事前質問」が来ていて答えを作成中でもあるので、それをご紹介しながらこの考察を進めたいと思います。質問は以下のごとしです。
「稼働中の原発事故と停止中の原発事故では、被害の規模が違うと思います。停止中の場合稼働中に比べ、放射性物質放出開始時間と放出量は何分の1程と思われますか?」

答えは「もちろん稼働中の方が圧倒的に危険です」です。「しかし事故がどこまで進展するか予測がつかないので放出量比較等はできません」と付け加えねばです。
稼働中の場合、一番恐ろしいのは原子炉の緊急停止、スクラムに失敗することです。
南海トラフ地震で恐ろしいのは何より地震動。この点は東南海トラフでの動きだけでなく、それと連動して起こりうる余効変動も怖い。前回の記事に書いた1945年の三河地震などがそうです。
このとき土地が1.5メートルも隆起している。こんなことが浜岡原発の直下で起こったらと思うと身体が寒くなります。しかも原子炉が動いていたら最悪です。

制御棒が入らずに停めることができなかったら原発は暴走し、それこそ大爆発を起こしてしまうかもしれない。
その場合の被害は想像を絶します。福島原発事故の比ではありません。もっと膨大な量の放射能が飛び出すのです。周辺でものすごい量の急性死が起こるでしょうし、現場に近づくのもままならず、広範な地域が立ち入り禁止区になって放棄せざるを得なくなるでしょう。地震が発生しうる場に原発など建ててはいけないのはこのためです。
最も「中央構造線」の直近にある伊方原発3号機や、この断層の延長線上に立地している川内原発1、2号機がいまも動いているのですが‥。

さて停止中の原発では何が起こりうるでしょうか。一番怖いのは燃料プールが破損し、そこから放射能が漏れだすことです。
これには二つのパターンが考えられます。まずは冷却機能を失うことで燃料が溶け出してしまうことです。
核燃料は制御棒が入ると核分裂連鎖反応が停まります。核分裂はウランやプルトニウムに中性子が当たることで始まり、それらが分裂するときに新たな中性子が飛び出し、次のウランやプルトニウムにあたることで連鎖していきます。制御棒はその中性子を吸収することで連鎖反応を停めるのです。
 
核分裂反応に伴う発熱も大幅にダウンしますが、その先に「崩壊熱」が出続けます。核燃料の中には核分裂でできた無数の放射能が封印されています。ヨウ素やセシウム、ストロンチウムなどなどです。
これらは放射線を出して違う物質に変わっていきます。これを「崩壊」というのですが、その時にも熱を出すのです。
核燃料をプールに沈めているのはこの熱をとるとともに、とにかく凄い放射線が出てくるのでそれを封印するためでもあります。水は放射線を遮るもっとも優れた素材でもあるからです。
反対に言えば、使用済み核燃料はだからかなり長い間、水から出すことができないのです。熱量も放射線値も高すぎるからです。危険を承知で原子炉という防壁の外にあるプールに何年も沈めておかなくてはならない。原発の大きな弱点の一つです。

このため燃料プールの水は循環させて冷却を続けているのですが、怖いのは地震などによって冷却システムがダウンしたり、配管破断やプールそのものの損傷によって水が抜けてしまうことです。
冷却ができなくなった場合は徐々に水が減って行きます。それで燃料棒が水面から出てしまうと周辺にすごい放射線を発することになり人が近づけなくなってしまう。そのまま水がなくなるとやがて燃料は崩壊熱で溶け出します。
こうなると最悪です。炉内で起こったメルトダウンではまだしも圧力容器があり、そのまわりに格納容器があります。格納容器は放射能を閉じ込める最後の「砦」です。
もっとも福島原発事故ではその最後の「砦」も壊れてしまったわけですが、だからといって格納容器が全面崩壊したわけではありません。

ところが燃料プールの場合、いったん燃料が溶け出したらもう何も封じ込める機能はないのです。たちまち周辺に人が近づけなくなり、あとはなるがままにまかせるしかなくなります。
そうなると例えば隣の号機の燃料プールなどにも手当ができなくなり、その原発サイト全体が危機に陥り、崩壊し、膨大な放射能を出すのを停められなくなります。最悪の事態です。
この場合の危険度は核燃料が運転からどれぐらい経っているかにもよります。原子炉から取り出した直後は崩壊熱も高いのですが、半減期の短い核種がどんどん違う物質に変わって行くので時間とともに放射能の量も減り、熱量も下がるからです。
例えば放射性ヨウ素131は半減期が8日ですから80日目には約1000分の1に減ります。さらに80日経つと100万分の1にまで減ります。これとともに崩壊熱も小さくなりますから、こうした点からは燃料プールは時間が経てば経つだけ、安全度が高まると言えます。

それでは浜岡の今はどうなのかというと、運転停止から6年間経っていますから熱量もかなり下がっています。残念ながら具体的な数値を示す資料を見つけられなくて紹介できませんが、この点では冷却系統がダウンしてもすぐにプールが干上がるわけではないと言えます。
この点で大地震や大津波に襲われてトラブルが発生したとしても、すぐに核燃料が溶け出す事態にはいたらず、対処のための一定の時間的余裕があるとは思います。この点で長く停めて来た分だけ、安全マージンを増やせていることを私たちは確認すべきです。ただしその対処を東南海が地震と津波で激しいダメージを受けている中でなさなければならない可能性があるわけですが。
これに対して川内や伊方や高浜では、せっかく長く停めて安全マージンを増やしていたのに、炉内で再びどんどん放射能を作り初めており、危険性を日々、拡大させていることもみておく必要があります。

さて燃料プールにはもう一つの脅威があります。「再臨界」の恐れ、核分裂反応が始まってしまう恐れです。いまの浜岡の場合、より脅威なのはこちらではないかと僕には思えます。
燃料プールには燃料棒を納めるラックが沈められています。その中に一体ずつ使用済み燃料体を組込んでいくのですが、これには慎重を要します。
なぜかというと使用済み核燃料の中には、核分裂していない「燃え残り」と言われるウラン235と、ウラン238に中性子があたって生成されたプルトニウム239が含まれています。どちらも核分裂性物質です。
これを取り出すことを「再処理」と言います。もともとプルトニウム型原爆を作るために開発されたシステムですが、ともあれこうして取り出したプルトニウム239を再度、燃料として使うことが目指されて来たわけです。

この際、重要なのは核分裂性物質のやっかいな特性です。端的に言って、ある程度の量が集まると、自発的に核分裂反応が始まってしまうのです。これがとても怖い。
燃料プールの中にはこのためにラックが設けられていて、核燃料同士がプールの中で接触しないようにしているわけですが、恐ろしいのは大地震などで燃料プールが揺さぶられ、ラックが壊れて変形を被り、核燃料が接近してしまうことです。
大津波を引き起こしうる大地震や、1.5メートルもの土地の隆起を伴った三河地震のような直下型の地震に原発が襲われ、燃料プールが大きな打撃を受けた時に、この恐ろしいシナリオが動きだしてしまう可能性があります。
その場合にどんな状態になるのか、正直なところ僕には想像できません。燃料プールの打撃の受け方、ラックの壊れ方とうとうによって何通りもの事故の進展の仕方があると思いますが、ともあれどれもとても恐ろしい。臨界爆発にいたる場合ももちろんあるでしょう。

しかもこの燃料プールの被災による再臨界を恐れなければならない根拠がもう一つあります。
「リラッキング」です。プールの中をつめつめにしてしまっているのです。以下に資料を示します。

政策選択肢の重要課題 使用済燃料管理について―国内動向ー
2012年2月23日 原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会 内閣府 原子力政策担当室

この中の4ページに出てくる日本中の原発の燃料プールの容量をみてみると、総体で69%が埋まっていると書かれていますが、実はこの数字は嘘なのです。
もともとはもう100%にいたってしまっているはずだった。燃料プールはどんどん余裕がなくなりつつあったのです。
理由は燃料プールから取り出してもっていくはずの場だった六ヶ所村の再処理工場がいつまでたっても完成しないからです。
それで全国の原発が困りはててしまった。運転した後に使用済み核燃料を入れるプールの容量がつきてしまうともう運転ができなくなるからです。
それで思いついたのがラックを狭めに作り直してプールの容量を増やすことなのでした。これが「リラッキング」の正体です。(6ページ参照)

しかし先にも述べたようにもともと使用済み核燃料には核分裂性物質が含まれているので、近づけると再臨界の危険性が高まるのです。
燃料プールの中のラックは、当然にもこのことを考慮した間隔を確保して設計されました。しかし容量がなくなることが確実になったので狭めてしまった。
要するに運転継続のために安全マージンを削ったのです。しかも再臨界をさせないためのマージンをです。あまりに恐ろしい。

浜岡原発はどうかというとこの時点で燃料プールの66%が埋まっているとされていますが、これまた嘘です。
5ページをみると1〜3号炉の燃料プールでリラッキングがなされています。4号炉はラックが増設されている。プールを大きくしたわけではないのに。
さらに1〜3号炉と4号炉、1〜4号炉と5号炉で共用化がなされています。
つまり浜岡原発の燃料プールも核燃料をつめつめにして容量を増やしているのです。その分、再臨界をふせぐマージンが削られています。
これが恐ろしさの根拠です。もともとの設計思想を無視し、より危険な状態での運転が強行されてきたのです。その結果、いま、プールに核燃料がより接近した形でひしめいています。

これは全国の原発に共通することがらです。燃料プールからの運び先が完成しないのなら、その時点で運転を中止すべきだったのに、安全マージンを削って運転してきてしまった。
日本の原子力政策がこのような発想で進められて来たこと自身に大きな危険性がありますし、とにかく全国の燃料プールから核燃料を降ろすことが必要ですが、繰り返し指摘するように浜岡原発は、ものすごい高い確率でやってくるとされている南海トラフ地震に襲われうる位置に立地しているのですから、とにかく早く核燃料を安全な状態に移す必要があります。そのためには再稼働をさせないのはもちろん、早く廃炉にし、安全化を図らねばなりません。

今日の午後、僕は先進的に再稼働反対の旗を掲げて来た牧之原市のみなさんにこのことを訴えようと思うのです。

連載終わり

*****
 
原子力防災学習会
原発から50キロの兵庫県篠山市はどのように問題意識を共有していったのか?
 
講師 守田敏也氏
7月1日(土) 13:30〜15:00
会場 牧之原市さざんか
入場 無料・申し込み不要
15:15より懇親会を行います。参加費500円
 
主催:浜岡原発を考える牧之原市民の会
連絡:柴本08052957196 山崎0548522187
後援:牧之原市
 
*****
 
『原発からの命の守り方』 
~福島の教訓から学び、明日の暮らしにつなげる一歩へ~ 
守田敏也さん講演会 

日時:7月2日(日)13:00~16:00 
場所:静岡市労政会館(3 F )ロッキーセンター 
講師:守田敏也さん
参加費:当日1,000円 前売り800円 学生500円 
チケットは下記賛同団体まで、賛同団体はFBページに随時追加していきます。
キッズスペースあり(要予約) 
連絡先 :09092479731 (山田) 09039546563 (小笠原) 

主催:静岡市「守田敏也講演会」実行委員会 
賛同団体:保険医協会・自治労連・静岡YWCA・311を忘れない in 静岡・原発なくす会静岡・再稼働反対アクション@静岡・広域避難を考える県東部実行委員会 

FBページ 静岡市『守田敏也講演会』実行委員会 
https://www.facebook.com/morita.toshiya.kouenkai.shizuoka/
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1 コメント

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Unknown (梅谷)
2017-07-05 13:32:23
記事の配信ありがとうございます。
本記事(1395)にややわかりにくい部分がありましたので、次のように変更されてはどうでしょうか?
・「最も」
 →「もっとも」「尤も」
・「が、その先に」
 →「が、その後も」「が、それ以後も」
・「運転から」
 →「運転停止から」「(その燃料棒の)運転停止から」「運転をやめてから」「核分裂連鎖反応停止から」「核分裂連鎖反応停止時点から」
・「慎重を要します」
 →「慎重さを要します」
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