守田です(20250425 23:00)
● 16日はセオゥル号沈没事故14回忌、今日25日は福知山線事故20回忌の日です
4月16日に韓国南部でセオゥル号が沈没し、304名が亡くなってから14年の日を迎えました。(299名死亡、5名不明という報道も)。さらに今日25日で、JR福知山線脱線事故で107名が亡くなってから20年の日を迎えました。
それぞれの事故で亡くなられた方、ご遺族、縁者のみなさまに、深い哀悼の意を捧げたいと思います。またこの事故によるさまざまな痛み、悲しみ、嘆きを抱かれた全てのみなさまにもお見舞い申し上げます。
この機に双方の事故から何を学ぶのかを書き記したいと思います。
● セオゥル号沈没事故で特筆すべきことは何か
僕はこの事故を「とっとと逃げる」ことを学ぶ一つの例として取り上げてきました。セオゥル号が傾きだしてから沈没まで101分。十分に逃げる間があったのに、修学旅行中の高校生など、たくさんの方が脱出できずに亡くなってしまったからです。
この事故を特徴づけたのは、船会社と船員の余りの酷さでした。そもそも同船は過積載だった。しかもそれを隠すために船底にバランサーとして積んでいたバラスト水の量をかなり減らしていた。その上、同航路が未経験の三等航海士に操舵させていた。
それでこの航海士が危険水域で急激に舵を切ったため、横倒しになったのですが、その時、「とっとと逃げる」ことが必須な状態で、船内に「その場にとどまるように」との放送を流した上、なんと船長を先頭に、船員たちが真っ先に逃げ出したのでした。
あまりと言えばあまりの所業でした。船員たちは乗客を逃がす義務を放り出して逃げたのです。後に船長は殺人罪で訴追され、無期懲役が確定。会社も厳しく咎められましたが当然です。事故は儲け優先の新自由主義、その酷い現れによって起きたのでした。
これに輪をかけたのが韓国海洋警察のあり方でした。そもそも救命艇で接近しながら、なかなか救助に着手しようとすらしなかった。そこにはいざという時に市民を助ける訓練や準備を怠ってきた韓国政府の限界が大きくあらわれていました。
一方でそんな状態の中でも高校生をはじめ、たくさんの乗客、そして一部の船員が最善を尽くし、多くの友だち、乗客を救い出してもいました。
中でもすごかったのは、最初に近くの木浦警察署にSOSの電話をしたのが高校生だったことでした。船員の救助要請が同警察署に届く9分前に連絡し、この9分で助かった命がたくさんありました。しかしその生徒自身は亡くなってしまいました・・・。
あるいは傾く船内の中で泣き出した友だちを励まし「みんなで脱出するよ」と数珠つなぎで船内を這い上がった女子高生たちがいました。リーダーの彼女は後ろからみんなを励まし続け、何人かの脱出を成功させましたが、流入してきた海水に飲み込まれました。
そんな話もたくさんあります。ぜひそれぞれで事故を検索し、調べて欲しいです。特筆すべきなのは、船会社のあまりの酷さとそれを許していた韓国の新自由主義の誤り、そしてその中ですら互いを助けあい命を救った奮闘です。その双方が教訓です。
● JR福知山線脱線事故で特筆すべきことは何か
福知山線事故は、JR尼崎駅に向かう急カーブに、列車が猛スピードで突っ込んたために起きた脱線事故でした。背景にあったのは収益向上を目指したJR西日本が、運行スピードを上げる中で、運転士に予定厳守を強いていたことでした。
しかもこれを逸脱した運転士には「日勤教育」というさまざまな過酷なペナルティを課していて、事故を起こした運転士も、前駅でのオーバーランで相当に焦り、遅れを取り戻そうと危険な速度でカーブに進入してしまったのでした。
さらにその際、自動列車停止装置(ATS)の新型であるATS-Pが設置されていれば、速度超過に対応して電車は自動的に減速したのに、経費削減のためにJR西日本がこの設置への取り換えを怠っていたことでも、この事故は防げませんでした。
この制限速度を示す70の標識のあるカーブに電車は40キロオーバーで進入、奥に見えるマンションに突っ込んだ。守田撮影 2005年5月4日
そのために列車は猛スピードのまま線路を離れ、近くのマンションに突っ込み、1両目は駐車場で大破、2両目はマンションの外壁にあたり、折れ曲がって側面からぶつかってきた3両目との間に挟まれ、激しく損壊してしまいました。
これまた儲け優先の新自由主義がもたらした事故でしたが、この際、新自由主義の別の側面の影響も大きく出ていました。それは「市場の自由な競争を阻害する」という名目のもとに行われた労働組合=国労(国鉄労働組合)潰しでした。
これは国鉄「分割民営化」によるJRの創設とセットで行われましたが、この際、国労から労働者を離脱させるために数々のイジメが行われ、なんとそれが日勤教育としてその後に生き残り続け、運転士を蝕んで、あの事故につながっていったのでした。
現場直近に作られた祭壇 守田撮影 2005年5月4日
そもそも国労が健在だったらあのような事故は起きなかった。なぜなら国労が無理な運行など許さず、そのことで労働者と乗客を守っていたからです。理不尽な懲罰などもありえるはずもなかった。
だから特筆すべきなのは、JR西日本の日本政府の新自由主義的体質と国労解体が事故の主因だったことです。
同時にこの事故の時も、周辺の多くの方が駆けつけ、最善を尽くしました。中でも近所の女性が一早く踏切で停止信号のボタンを押しました。反対方向から特急が来ることを知っていたからです。これで大惨事の拡大が防がれました。
あるいは近くの日本スピンドル製造株式会社は、事故の一報を受けて直ちに操業を停止、全社員が救助に赴きました。とくに一両目が突入した駐車場でガソリンが充満し、火花の散る電動工具が使えなかったことに対し、工場から大量の手動工具が持ち込まれた。
さらに大量の水、氷も運び込まれ、被害者の救済に大いに役立ちました。工場労働者たちは、大けがをしている被害者を励まし続けもしました。さらに先ほどの女性も含めて、たくさんのダイイングメッセージすら受け取ったそうです。
女性が懸命に停止ボタンを押し信号がいったため直前で止まったJR特急。あと少しで現場に突っ込むところだった。この写真の左方向に日本スピンドル製造株式会社の尼崎工場がある。 守田撮影 2005年5月4日
そんなすごい奮闘もあり、懸命に生き延びた方もおられた。しかし生き残った方の多く、そして見事な救援を行った周辺の方たちの多くが、その後に罪の意識を背負いました。誰かの犠牲で助かった、頑張ればもっと助けられたはず、と思ってしまったからです。
こうした心の傷に対しても、政府はほとんどなんらの対応も手当てもしてきていません。こうした点にも日本政府の事故対応への無責任さは際立っています。このこともぜひ知って頂きたいです。
● セオゥル号・福知山線脱線事故の教訓から引き出さねばならないのは原発を止めること
さてこのように両事故をあらためて見つめていて思うのは、やはり危険な原発を、一刻も早く止めなければならないということです。
セオゥル号の船長や主な船員たちは本当に酷かった。転覆する恐れのある船を儲け優先で運行していました。しかしそれと同じことがいま、原発で行われています。過酷事故を起こす可能性のある原発、それも老朽化したそれが動かされています。
セオゥル号が転覆した時、韓国海洋警察は有効な救出ができなかった。市民を助ける訓練や準備を怠って来たからですが、では原発事故が起きたときの訓練や準備がどれだけできているでしょうか?まともな避難計画など一つもないし、作れもしないのです。
セオゥル号では船員が真っ先に逃げ出しましたが、福島原発事故でも真っ先に逃げる指示が届いたのは東電の家族たちでした。それだけなく、天皇(現上皇)などに東京脱出の打診が行われました。(上皇は断られたそうです)。しかし市民には何も知らされなかった。
福知山線事故では、儲け主義優先の姿勢が危険な運行を生み出していました。いま原発もまた福島原発事故からの教訓もまともに引き出せていないのに、稼働が強行されています。事故を起こしたのと同じ型の沸騰水型(島根、女川)まで動かされています。
福知山線事故では、組合潰しのための理不尽なペナルティが運転士に課され、追い詰められていましたが、原発では反対に安全をまったくないがしろにした運転姿勢が、現場職員のモチベーションとモラルを著しく低下させ、不祥事連発を引き起こしています。
福知山線事故では、列車がスピード超過したときに対応するATS-Pの設置がなされていませんでしが、原発では過酷事故を起こさせない信頼ある仕組みなどなく、次世代こそ安全になるとまで言い出されている。つまり現世代は過酷事故を防げないのです。
守田講演パワポより
だからこれでは第二の過酷事故が起きてしまう。そして一度事故が起きたら、今度こそ日本の過半が住めなくなってしまう可能性大です。
二つの事故から学んで、危険な原発、社会を崩壊させる原発を止めることにこそ、私たちは全力を上げましょう。そのことこそ、両事故で亡くなられた方たちが、私たちに問いかけているように僕には思えます。聞こえるのは「もう二度と被害者を生まないで」という声です。
政府は福島原発事故が最悪した場合、半径170キロ圏内が強制移住と想定していた 毎日新聞より
● 原発災害、大地震、洪水、事故などから命を守るために
このこと、原発事故を何としても止めるために声をあげようということを、何度も何度も強調した上で、あらゆる事故から身を守るための術を共に学ぶことを訴えたいと思います。
そのために明日、午前中に学習会を行います。原発事故をなんとしても防ぎたいですが、しかし明日、大地震が起きて過酷事故が始まってしまうかも知れません。
その時、電力会社も政府も私たちを守ってはくれません。だから少しでも被害を減らす知恵も身に着けておく必要があります。
それは大地震、洪水、事故などにも適用できるものです。詳しくは明日の学習会を聴きに来て下さい。ZOOMからも参加可能です。
以下、Facebookイベントぺージをご案内しておきます。
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