日本時間の11月29日にドイツのデュッセルドルフで行われたWBO&
IBF&WBAヘビー級王者のウラジミール・クリチコが1位のタイソン・
フェーリーに0-3の判定で敗れて9年間守り続けたタイトルを失った。
最後に敗れたのは11年前で06年4月にクリス・バードを7RでTKOし
IBFタイトルを奪ってから実に9年以上タイトルを守り続けたわけ
だから凄いのだが、意外にも王座陥落のニュースが世界に衝撃を
与える事もなく結果のみが報道された形だ。
普段ならヘビー級タイトルマッチの生中継をするWOWOWですら
WOWフェスがあったからか、録画中継は2週間遅れの12月14日という
事で いかに世間の関心が薄いかが分かる。
かつて世界ヘビー級王者といえばジャック・デンプシーやジョー
・ルイスにロッキー・マルシアノ、モハメド・アリやマイク・タイ
ソンといった蒼々たる面々がイメージされ彼らの試合結果は世界中
の注目を集めていた。
ところがタイソンやイベンダー・ホリフィールドにリディック・
ボウといったアメリカ人ボクサーの人材が枯渇する一方でヨーロッパ、
特に旧ソ連系のヘビー級ボクサーが台頭してきて流れが変わる。
キューバのギジェルモ・リゴンドーに代表される共産圏の選手は
基本的にテクニックはあるものの、観客やTV視聴者を喜ばせると
いうプロ的な感覚は皆無なので‘強いけど面白くない’というタ
イプが圧倒的に多くヘビー級のクリチコ兄弟もその範疇だ。
ただでさえ198㎝という身体的なアドバンテージがあるのにポイ
ントを確実にピックアップするテクニックがあれば難攻不落になる
のは火を見るよりも明らかだし、クリチコもそのアドバンテージを
最大限に生かして安全運転に徹するため90年代までにあった‘名勝
負数え歌’といった名勝負が生まれるはずもない。
しかもクリチコに勝ったフェーリーのボクシングが素晴らしい
ボクシングをしたというよりクリチコが39歳という年齢的な衰えや、
9月に負った足の故障などの恩恵を受けてのものという側面が強い
のだ。
クリチコの敗退でタイソン・フェーリーやWBC王者のディオティ・
ワイルダーあたりが主役になりそうだが、とてもじゃないがレノッ
クス・ルイスやイベンダー・ホリフィールド&マイク・タイソンら
のレベルとは程遠いわけだ。
フェーリーやワイルダーがエキサイティングな防衛戦を重ねる
という事がヘビー級の人気復活への第一歩となりそうだが、果た
して彼らにそこまでの志があるかどうかが最大の問題だろう。