「うらこころ」

2021-03-09 07:58:20 | アフォリズム(箴言)ではありません

      「うらこころ」

 

 政府が推し進める「観光立国」は、観光客優先の他者依存を増

長させるのではないかと懸念する。今では観光客の絶えない古刹

も、かつてはこの世のものと思えぬその異様な建造物が、たとえ

ば清水寺であったり、それらは異様であるが故に信者たちの切実

な願いを受け止めてきた。つまりその異様さが人々の暮らしの中

で一体化していた。ところが、今では観光客が目当ての観光地は

、もはや日々のくらしよりも観光客優先で、その地に根を持たな

い観光客のために祖先が築き上げてきた生活文化を売り物にして

その一体化は損われようとしている。地元の者は慣れ親しんだ地

に殺到する観光客に違和感を覚える。やむを得ないとは思うが、

「生活のために」これまでの穏やかな日常が壊されていく。そも

そも「観光立国」とは日本人が得意にする細やかで行き届いた「

おもてなしのこころ」によって支えられる。そして「おもてなし

のこころ」とは相手の思いを「忖度」することから生れる。しか

し、「おもてなしのこころ」に隠された経済優先の「うらこころ」

は、その地に根付いた自立した生活文化を台無しにして、われわれ

から自立意識を失わせる。そして一方で「おもてなしのこころ」を

掲げる「観光立国」は、官吏たちによる政治家への依存から自立性

を欠いた「うらこころ」、つまり「忖度」政治をもたらした、と言

えばすこし穿ち過ぎだろうか。何れにしても、観光客が殺到する喧

騒の中で、「わび」「さび」を美として愛しむ日本の伝統文化が再

現されるとは思えない。