「・・・」
ハイデガーはまず、「存在とは何か?」を問う前に「存在とは
何か?」を問う人間とは何かを問います。何故なら「存在とは何
か?」という問いは人間だけが発する問いであり、その答えは人
間が認識できなければ意味がないからです。そもそも人間以外の
生物たちは本能に支配されていて「いまここの自分」だけにしか
関心がなく、そこには過去も未来もない。しかし人間は進化した
理性によって本能的な自分が置かれた「いまここの自分」を脱け
出して、ハイデガーはそれを「脱自態」と呼びますが、過去を思
い出し未来を思い描きます。こうして過去、現在、未来を想像す
ることは「おのれを時間化する」(ハイデガー)ことだと言い、こ
の「時間化」こそが「いまここの自分」を超越してその先の世界
を規定する「存在」へと関心が向けられる、と言うのです。つま
り、われわれが「存在とは何か?」を問うのは「おのれを時間化
する」ことから生れるのです。では、なぜ「存在とは何か?」を
問うのかと言えば、世界を規定している「存在」の視点に身を置
くことによって、世界全体を認識することができるからです。ハ
イデガーはそれを「存在了解」と言います。