この映画・本、よかったす-旅行記も!

最近上映されて良かった映画、以前見て心に残った映画、感銘をうけた本の自分流感想を。たまには旅行・山行記や愚痴も。

『娘は戦場で生まれた』-ジャーナリスト志望の学生であり、母親になったワアドは娘のためにも混乱のイラク内戦の中でカメラを回し続けた!

2020-04-11 00:03:54 | 最近見た映画
    【 2020年4月1日 】       京都シネマ

 イラク内戦を、2012年から2016年までの間、若い男女が戦火をくぐり、アレッポを脱出するまでの戦禍の状況を、1家族を中心にリアルに記録したドキュメンタリー映像である。カメラを回したのは、サマの母親でジャーナリストのワアドで、この映像の共同監督も務めている。夫は大学時代に知り合った仲間で、アレッポに唯一残された病院で負傷者の治療に当たる医師のハムザ。

 「シリア内線」がどんな戦いで、彼女らが映したアレッポが当時どんな状況だったか、予備知識があった方がより理解が深まると思うので概括しておこうと思うのだが、一筋縄ではいかない。(公式サイトにはその辺の記述が全くないので、よけいに訳が分からない。

       

 そもそも、シリアとイスラエルは仲が悪かった。戦争状態にあった1962年にシリアは「非常事態宣言」をだし、それ以降クーデターを繰り返す中でバース党が実権を握り、現在も続いているアサド家が権力を握っている。現在の指導者(権力者)は1970年に革命を起こしたハーフィズ・アル・アサドの次男のバッシャール・アル・アサドであり、私が思うにはこの男こそ、現在のシリアの混乱を招いた最悪の張本人と思えてならない。(下の写真のバッシャールの顔は「悪魔の使い」のように見えてくる) 

                  
            【ハーフィズ・アル・アサド】     【バッシャール・アル・アサド】 

 それにしてもシリアを巡る状況はいろいろな国がそれぞれの利害関係をもって複雑に絡み合って訳が分からない。(興味ある人は下記のWikipediaの「シリア内線」を見てほしい。

 2011年にチェニジアの「ジャスミン革命」から始まった、いわゆる「アラブの春」の市民による反政府活動・民主化運動が各地に伝播し、エジプトやイエメン、リビアではで時の政権が打倒された。その他の多くの国でも政権側が一定の譲歩をして民主化が進み、その影響が伝わったシリアでも反政府組織が蜂起して各地で戦いが起こったが、アサド政権は頑強に要求を拒み、逆に武力制圧に乗り出した。
 一方、反政府組織も色とりどりで、政府軍を支援する国々、反政府軍を支援する国が入り乱れ、更に国土を持たないクルド民族の武装勢力の独立圧力が絡んでくると、何が何だかわけがわからなくなる。その内戦の混乱に乗じて、いわゆる「イスラム国(IS)」が勢力を伸ばし混乱と熾烈さに拍車をかける。シリアの内戦や大国の介入が混乱に拍車をかけ「イスラム国」のような無謀な組織を生み出したと言ってよい。そして犠牲者はいつも一般市民である。
 
              
              【 地図上、アレッポの右上にある「アイン・アル・アラブ」は別名「コパニ」(クルド民族側の呼称) 】 

 シリアの首都はダマスカスだが、人口も商業活動も首都を上回っていたというアレッポだが、「アレッポの戦い」は、ホムスや他の都市のそうした戦いの中でもシリア内戦の最大の激戦地だったという。。(我が家では「アレッポの石鹸」を愛用しているからアレッポによけい親近感がある。

 市内を二分した戦闘は、当初反政府軍が優勢だったが、イスラム過激派が戦闘に加わるようになり、アルカイダ系の組織も台頭する中、政府勢力と対抗するためISIL(イスラム国の前身)迎い入れ、反政府勢力も一枚岩という訳にはいかなくなってくる。自国領土を持ちたい思惑もありクルド民族側が政府に着いたりで、ますます混乱するばかりだった。
 局面が決定的に変わったのは、ロシアによる空爆である。(アメリカはもちろん大国丸出しの覇権主義国家だが、加えて中国も訳が分からないが、ロシアという国はアフガンでも失敗にも懲りずにも、またもや許しがたい行為をする訳が分からない国だ

 「アレッポの戦い」で、我々日本人が忘れてならないのは、この戦闘の取材中に政府軍の凶弾に倒れた山本美香さんのことである。ただでさえ外からは何も見えず、何が行われているかわからない世界に入って、情報を発信するということがどんなに大切なことか。浅薄な「自己責任論」でかたずけられるような問題ではない。

        
 
                                               


 こうした状況の中で、冒頭の解説にあるように、2012年当時、ジャーナリスト志望だったワアドは戦禍に巻き込まれ、スマホで映像を取り世界に向けて発信する。(以下は解説にあるとおりである)

 「アレッポの戦い」の詳細は、下記のWikipedia のサイトを是非見てほしい。

    

                  
                 【 仮設病院で治療に当たる夫のハムザ 】    【 母であると同時に、フォトジャーナリストであり共同監督も務めたワアド 】

 このドキュメンタリーは、反政府側の敗北で終わるが、アレッポの戦い前後には下記の出来事があり、その後もシリア・イラク・トルコ周辺では現在に至る戦闘が続いている。

 主な出来事だけを上げても以下のようになる。
    2014年5月 反体制派のホムス旧市街からの撤退(第2次ホムス制圧)
    2014年6月 バグダディのカリフ僭称とイスラム国家の樹立宣言
    2014年7月 アサドの大統領就任(3期目)
    2014年8月 ISによるラッカ県制圧(参照:『ラッカは静かに虐殺されている』)
    2014年9月 ISによるコバニ包囲とアメリカ軍によるIS空爆(参照:『ラジオ・コパニ』)
    2015年1月 YPGによるコバニ解放
    2015年3月 ヌスラ戦線のイドリブ制圧
    2015年5月 ISのパルミラ制圧
    2015年9月 ロシア軍による軍事介入
    2015年10月 シリア民主軍結成
    2015年12月 政府軍のホムス平定(第3次ホムス制圧)
    2016年3月 政府軍によるパルミラ奪還
    2016年7月 政府軍によるアレッポ包囲
    2016年8月 アレッポ包囲の失敗・トルコ軍による軍事介入
    2016年9月 政府軍によるアレッポ再包囲
    2016年11月 アレッポ包囲環の縮小
    2016年12月 政府軍によるアレッポ奪還
     (一家、アレッポ脱出)
    2017年2月 トルコ軍と反体制派によるアルバブ奪還
    2017年3月 トランプ政権、アサド政権打倒の方針変換を表明
    2017年4月 化学兵器の使用疑惑と空軍基地攻撃
    2017年6月 ラッカ攻防戦の開始
    2017年10月 IS(イスラム国)の崩壊
    2018年1月 トルコ軍のアフリーン侵攻
    2018年2月 アサド政権とYPGの協調と政府軍の東グータ攻勢
    2018年3月 政府軍による東グータ分断包囲とトルコ軍のアフリーン制圧
    2018年4月 米英仏による化学兵器関連施設への攻撃と東グータ制圧
    2018年5月 政府軍による首都ダマスカス完全掌握
    2018年7月 政府軍の南部奪還
    2018年12月 トランプのシリア撤退発表
    2019年10月 トルコ軍のシリア侵攻・米軍のバグダディ殺害
    2020年2月 シリア・トルコ紛争


 更に、イラクの隣国イランのソレイマニ将軍が米軍ドローンに攻撃により殺害されている。喜んだのは、シリアとイラクで今も暗躍する「IS」勢力だとされる。どうしてそんな無法な事が許されるのだろう。

 いつになったらシリヤを含む中東地域に平和が訪れるのだろうか。

        
 
 公式サイトには、ワアド監督とエドワード監督の経歴、メッセージも掲載されいるが、下の「ワアド監督からのメッセージ」は是非最後まで読んでほしい。

      

  2016年12月に、アレッポを撮影したフィルムを持って脱出した夫婦と2人の娘は現在ロンドンで暮らしているという。        

                            
                          【 現在はロンドンで生活しているといるワアドとその家族 】   



    
   

   『娘は戦場で生まれた』-公式サイト
      ・・・ この公式サイトのTOPページの予告編の冒頭と最後に映し出される娘ー「サマ」の表情の愛らしい事! これを見たら誰でも平和をも盛りたいと思うに違いない! 

   『2012年、アレッポで殺害された日本人ジャーナリスト・山本美香』に関するマイブログ記事

   『ラジオ・コパニ」と『ラッカは静かに虐殺されている』-のマイブログへ

   『アレッポの闘い(2012~2016年)』(Wikipediaのページ)

   『シリア内線の歴史(2011~2020年)』(Wikipediaのページ)(これを読みきるには忍耐がいる!)



  


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