この映画・本、よかったす-旅行記も!

最近上映されて良かった映画、以前見て心に残った映画、感銘をうけた本の自分流感想を。たまには旅行・山行記や愚痴も。

『追悼・三國連太郎特集』で山本薩夫監督の『にっぽん泥棒物語』を懐かしく、面白おかしく感動的に見る

2013-06-23 14:11:28 | 以前見た映画

            【2013年6月20日】 京都文化博物館3F「フィルムシアター」

 烏丸三条を東に高倉通りまで入った『京都文化博物館』の3階にある『フィルムシアター』に行くのは十数年ぶりになるだろうか。今の職場に来る前、《浪人生活》をしていた2年間の最初の1年は、日曜日以外ほぼ毎日のようにここに通い《古き良き時代の》の映画を片っ端から見たものだ。ホールで上映されるもの以外に、「専用ブース」で観たものを含めれば200本は下らないだろう。

 最初に『にっぽん泥棒物語』を見たのは、いつのことだっただろうか。もう何十年も前のことだろうか。《ここで観たのか?》いや、その前に見ているはずでだ。レンタルビデオとかが普及する前だったと思うから、スクリーンにかからなければ見る機会はなかった。だから、もう一度見てみたいと思いつつ20年以上の時が過ぎてしまったはずだ。

 はじめて見た時、「こんな面白い映画もあるものだ」と感激し、いっぺんに山本薩夫のファンになってしまった。
 その後、山本薩夫監督の映画でインパクトを受けたのは『金環食』である。
 《政治の裏の世界》をわかりやすく、面白く楽しませながら見せてくれる監督は他にはいない。

 
戦争と人間』の三部作は封切りと同時に見に行った。決して安くない《製品のDVD》を購入したのも『戦争と人間』が最初だ。
 『戦争と平和』、『箱根風雲録』、『真空地帯』、『赤い陣羽織』、『荷車の歌』、『人間の壁』等は確か、ここ『文化博物館』でみた。

 その後の作品『白い巨塔』、『華麗なる一族』、『不毛地帯』は原作の山崎豊子の小説と共に、その壮大なスケールと共に、現実の世界の背後にある闇の部分を《理解する》のに役立つとともに、そこに描かれた人間ドラマに感動したものだった。

 一方、『ああ、野麦峠』(正・続編)や『アッシー達の街』のように、日本の資本主義社会の発展を下から支えた、けなげな労働者達を描いたものもある。

 そこには『今井正』や『黒沢明』とはまた一味違った独自の世界があり、大学の教室や書籍で得られる以上のものを、『山本薩夫』からどれだけ多く学んだか計り知れない。
 

 話の内容であるが、敗戦後に日本を占領していた連合軍(=アメリカ軍)の支配の元、日に日に強まる労働運動を押さえ込むため、当時最も組織力と影響力の強かった『国鉄労働組合』を潰すための謀略事件が次々と起きた。『下山事件』、『三鷹事件』、そしてこの映画に登場する『松川事件』(映画では『杉山事件』となっている)である。未解明の事件もあるが、実際の松川事件は、この映画が作られた1965年の2年ほど前に、被疑者『全員無罪』の判決が確定している。だから、事件真相に迫りつつ『映画に余裕が感じられる』と映画評論家の『岩崎昶』は語っている。

 『岩崎昶』の映画評論は、時代を鋭く見つめた視点の的確さから作品の持つ魅力を縦横に語ってくれる。多少長くなるが著書の『映画の前説』から「にっぽん泥棒物語」の部分を一部抜粋しておく。

  【  *この映画が「松川事件」の外伝であること*
    松川事件は、1949年に起こったわけですが、その裁判は14年もかかっている。つまり1963年になって
   やっと全員の無罪判決が出て、松川事件というものが警察のデッチあげであったということがはっきり立証され
   てしまうわけです。(同じ監督の1961年に作られた)「松川事件」という映画は、裁判の判決が出る前に、被告全
   員がまったくの無罪であって、これは警察のデッチあげである、ということを広く世間に知らせるためのキャンペ
   ーンという意図をもって作られています。
   (このあと、「松川事件」が、厳密なドキュメンタリーの手法で、登場人物も実名で、政治的な正義感に燃えた
    意気込みで厳しい映画になっているのに対し、「にっぽん泥棒物語」の方はフィクション仕立てという長所を
    生かし、笑わせながら問題を訴えるという形をとっている、とかいたあとに次のように続く)
 

    この「にっぽん泥棒物語」には、前科何犯かの林田義助というしたたか者の泥棒が主人公で出てきます。
    (中略)
      *パロディーにこめられた痛烈な皮肉*
    ところが、この泥棒は非常に不思議な偶然から松川事件を目撃し、このことが、この男を悩まし続けます。
    この映画はフィクションですから、・・・杉山事件というふうに変えてありますが、被告第一号の人物には前作
   「松川事件」と同じ俳優を使っているし、杉山事件という映画の事件の輪郭そのものはかなり忠実に実際の松川事件
   の真実性を盛り込んでいます。(一部省略
    まえの「松川事件」から続けて見ると、この作品にこめた山本監督、スタッフのねらいがわかってきます。
      (中略、このあと実際の事件に関わる興味深い2つのエピソードが語られている)
    彼(林田義助)は、途中で泥棒家業から足を洗って、今では、これもモグリですけど、歯医者をやって、結婚もし、
   子どももいる。(中略)ですから、自分が泥棒をやった夜に目撃したことを裁判で証言する勇気がなかなかでない。
   警察も、もしお前が本当の証言をすれば、また牢屋に逆戻りするんだぞ、といって脅かす。脅かす方は、伊藤雄之介
   君で、三國・伊藤という二人のうまい役者が丁々発止とやるわけで、このやりとりが実に面白い。
    このようにこの映画は、松川事件から直接材料を取りながらも、パロディという形をとっていて、・・・それだけ
   ではない。
    ・・・後半の方で非常にはっきりしてくるんですが、日本の警察というもののやり方をはっきりと描いている。・・
   ・無理矢理犯人にこしらえ上げようとしたが、うまくいかなくて渋々釈放したこともあったわけですが・・・そんな警
   察のやり方がこの映画の中では、かなりひにくられている、風刺的にやっつけられている、笑いものにされているとい
   う所が随分あるわけです。
    そういう意味では、これは、《にっぽん泥棒物語》という題名ではありますけれど、その内容は、むしろ《にっぽん
   警察物語
》ともいっていい、あるいは《にっぽん裁判物語》ともいっていいような、そんな角度からも見ることができ
   ます。】



  名解説である。



 昨日(22日)は『内田吐無』監督の『飢餓海峡』があった。家にある録画した映像では何度も見ている映画ではあるが、やはり大きなスクリーンで見たかった。
 仕事で行けない私をおいて、ひとりで見に行った家内が「すごくよかった。」と満足げに帰ってきて語っていた。












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