【 『税金を払わない巨大企業』-富岡幸雄 2014年刊 文春文庫 】
【2015年5月3日】
「アベノミクス」の3本の矢で、『企業が儲かれば、滴り落ちる利益で庶民はそのうち潤う』と安倍首相は説いたが、そんな嘘っぱちはもう通用しなくなっている。大企業減税で一部の企業は潤い、内部保留をため込む一方、8%に増税された消費税で、個人消費は落ち込み、給与は上がらず(一部の大企業は少しだけ上がって、安倍はそれを宣伝しているが)、さらにこれが10%になったら、庶民の生活はどういうことになるのだろうか。
更に驚くべきことに、この本によれば、《合法的な減税》以外に、ブラック企業と呼ばれている企業を筆頭に《脱税まがい》の本来納めなければならない税金を免れている《有名巨大企業》が多数存在するということだ。
「国家財政が破綻する!」、「ギリシャの二の舞になる!」と大騒ぎする一方、「次世代に付けを回さない」、「増え続ける社会保障費に全額充てるため」と称し、消費税の増税を決めてきた政府。ところが、「金はあるところにちゃんとあるのだ。」
しかもそのお金は、国民全体で稼ぎ出したお金で、富は国内にあり、『巨大企業が正しく納税さえすれば、消費税納税も必要ない』ということだ。その点、ギリシャとは決定的に違う点だ。
著者は大学卒業後、国税庁に勤務し、大蔵事務次官・国税実査管を務めてきた人で、税の仕組みや実態を知り尽くした人だ。
第一章の『大企業は国に税金を払っていない』では、「日本の法人税は本当に高いのか?」から始まり、大企業が【税金逃れの口実】としている言葉の詭弁をあばいている。
以下、目次だけを見ても、興味津々である。(章のタイトルは黄色の文字で、項目名は水色で示してあり、そのあいだの桃色文字は、ポイントの抜粋及び私の補足である)
第1章 大企業は国に税金を払っていない
日本の法人税は本当に高いのか?
マスコミが誤用する「実効税率」
課税ベースに潜むからくり
巨大企業の驚くべき実効税負担率
1%未満は三大メガバンク持ち株会社とソフトバンク
(「法人税が高いといわれている日本」で、有名大企業が実際にどれだけ税金を払っている
のか具体的な数字で示されている。 会社の実名を挙げて、『実効税負担率の低い大企業
1〜10位』のランキング表が初めに挙がっているが、驚くべきことに、4位の「三菱UFJ
FG」まで法人税の実効税率が、純利益の1%未満なのだ。第1位の「三井住友FG」に
あっては、わずか0.002%という信じられない数字である。以下、詳細に27位まで会社名と
納税額の実態が示されている。)
(一部略)
日産の有価証券報告書から見える優遇税制
超一流企業の納税額はわずか4500万円
受取配当金が巨額でも法人税には関係なし
利益の10倍もある受取配当金
子会社、関係会社からであれば申告ゼロ
「政策減税には「研究開発減税」や「グリーン投資減税」をはじめ、数えきれないほどの
種類があり」(P-57)、また
「ほとんどの企業が、税引前純利益より受取配当金の方が多」く、それが「大企業の大きな
収入源となっている」(P-61)
「それにもかかわらず、収めている法人税の実効税負担率(が)著しく低いのは・・『受取
配当金益金不算入制度』(配当金を課税益金に参入しないでいいというもの)が認められて
いるからです。」
第2章 企業エゴむき出しの経済界リーダーたち
減税を叫ぶ経済界のリーダーの厚顔ぶり
住友化学 みずほフィナンシャルグループ
三菱商事 三井物産 日産自動車
トヨタ自動車 本田技研工業 HOYA
ファーストリテイリング 日本航空(JAL)
上記の10社の納税の実態とそのCEOたちの厚顔ぶりが紹介されている。
「投資減税だけでなく、法人税減税も対象に…激しい国際競争に勝つために…減税を一刻も
早く実現してほしい」(住友化学・米倉経団連会長 P-70)
「税引前利益が1兆2218億…もあるのに納税した額は2億2500万円(負担率0.02%
にすぎません。」(みずほFC P-71)
「ゴーンCEOの2013年度の役員報酬は9億9500万円だが・・・本人は『それでも
少ない』ということです。」(日産自動車 P-77)
途中にももっといろいろな興味深い発言があるのだが、最後に
「『法人税が高い』と声高に主張している記巨大企業こそ、実際には驚くほど軽い税金しか
納めていない実態が明らかになっています。」(P-85)
第3章 大企業はどのように法人税をすくなくしているか
巨大企業の負担は法定税率の半分以下
税逃れの手口と税法上の問題
(具体例の項目が①から⑨までの項目で列記されているがここでは略)
企業エゴと経営者の社会的責任
第4章 日本を棄て世界で大儲けしている巨大企業
日本企業もアメリカ発の手口を模倣
海外進出の動機
海外企業買収の裏には
申告漏れは国内企業の2倍
タックスウォーズの勃発
第5章 激化する世界税金戦争
"企業性善説"が通用しない世界
議会で追及されたグーグルの節税手法
アップルCEOティム・クックの反論
アマゾン ジャパンも法人税を払っていない
日本の大企業も税率が低い国へ
アメリカの知財戦略
(以下、4項目略)
第6章 富裕層を優遇する巨大ループホール
世界一安い日本の富裕層の税金
何度も延長された証券優遇税制
富裕層もタックス・ヘイブンを悪用
不十分な所得税最高税率の引き上げ
第7章 消費増税は不況を招く
消費税はデフレ要因
置き去りにされる社会保障改革
中小企業の7割は赤字経営
(一部、略)
第8章 崩壊した法人税制を建て直せ!
消費増税より税制の欠陥を修正すべき
法人税減税効果は果たしてあるのか?
(以下、略)
あとがき
という具合である。
4章以下は抜粋を省略したが、全編息を抜く暇がないほど、興味深い話が満載である。
最後に、第6章に記載されている文章を抜粋しておこう。
「・・・株高で大儲けしているのは、世界を股にかけたファンドマネーや一握りの特権的な富裕層で、圧倒的に多くの庶民には無関係です。」(P-148)
「年間の所得が100億円というのは、一般の市民の感覚からすれば、およそ想像を絶する金額でしょう。しかし、」「・・・このような超富裕層の人たちの所得に対してだけは、現在の日本の税制は特別に税金を安くしているのです。」(P-150)
(かつての日本は、中間層が分厚く存在して社会をあんていさせ、日本経済の強さの根源となっていたが、)
「日本社会は、現在、税を逃れる手段を持つ1%足らずの富裕層と、その尻拭いをするように重税に苦しむ99%を超える貧困層とに二極分化しつつあります。・・・・所得税と法人税の空洞化により、日本の富と税源が失われ、財政赤字の増大を招いています。この「ツケ」を、消費増税という形で払わされているのが中所得者・低所得者層であるということを、安倍首相が理解しているとは到底思えません。」(P-154)
余談ではあるが、以前、ピケティの『21世紀の資本』を読みかけていた。一昔前の電話帳のように厚く、冗長で決して論理的とは言い難い文章から導き出された結論めいたものには、目を開かせてくれるような感動的な発見もなく、ただ退屈というか忍耐を要求されたが、それに比べたら、この新書版の本は、現実的で具体的で、どれだけ示唆に富んでいたかことか。
ぜひ、一読を!
【2015年5月3日】
「アベノミクス」の3本の矢で、『企業が儲かれば、滴り落ちる利益で庶民はそのうち潤う』と安倍首相は説いたが、そんな嘘っぱちはもう通用しなくなっている。大企業減税で一部の企業は潤い、内部保留をため込む一方、8%に増税された消費税で、個人消費は落ち込み、給与は上がらず(一部の大企業は少しだけ上がって、安倍はそれを宣伝しているが)、さらにこれが10%になったら、庶民の生活はどういうことになるのだろうか。
更に驚くべきことに、この本によれば、《合法的な減税》以外に、ブラック企業と呼ばれている企業を筆頭に《脱税まがい》の本来納めなければならない税金を免れている《有名巨大企業》が多数存在するということだ。
「国家財政が破綻する!」、「ギリシャの二の舞になる!」と大騒ぎする一方、「次世代に付けを回さない」、「増え続ける社会保障費に全額充てるため」と称し、消費税の増税を決めてきた政府。ところが、「金はあるところにちゃんとあるのだ。」
しかもそのお金は、国民全体で稼ぎ出したお金で、富は国内にあり、『巨大企業が正しく納税さえすれば、消費税納税も必要ない』ということだ。その点、ギリシャとは決定的に違う点だ。
著者は大学卒業後、国税庁に勤務し、大蔵事務次官・国税実査管を務めてきた人で、税の仕組みや実態を知り尽くした人だ。
第一章の『大企業は国に税金を払っていない』では、「日本の法人税は本当に高いのか?」から始まり、大企業が【税金逃れの口実】としている言葉の詭弁をあばいている。
以下、目次だけを見ても、興味津々である。(章のタイトルは黄色の文字で、項目名は水色で示してあり、そのあいだの桃色文字は、ポイントの抜粋及び私の補足である)
第1章 大企業は国に税金を払っていない
日本の法人税は本当に高いのか?
マスコミが誤用する「実効税率」
課税ベースに潜むからくり
巨大企業の驚くべき実効税負担率
1%未満は三大メガバンク持ち株会社とソフトバンク
(「法人税が高いといわれている日本」で、有名大企業が実際にどれだけ税金を払っている
のか具体的な数字で示されている。 会社の実名を挙げて、『実効税負担率の低い大企業
1〜10位』のランキング表が初めに挙がっているが、驚くべきことに、4位の「三菱UFJ
FG」まで法人税の実効税率が、純利益の1%未満なのだ。第1位の「三井住友FG」に
あっては、わずか0.002%という信じられない数字である。以下、詳細に27位まで会社名と
納税額の実態が示されている。)
(一部略)
日産の有価証券報告書から見える優遇税制
超一流企業の納税額はわずか4500万円
受取配当金が巨額でも法人税には関係なし
利益の10倍もある受取配当金
子会社、関係会社からであれば申告ゼロ
「政策減税には「研究開発減税」や「グリーン投資減税」をはじめ、数えきれないほどの
種類があり」(P-57)、また
「ほとんどの企業が、税引前純利益より受取配当金の方が多」く、それが「大企業の大きな
収入源となっている」(P-61)
「それにもかかわらず、収めている法人税の実効税負担率(が)著しく低いのは・・『受取
配当金益金不算入制度』(配当金を課税益金に参入しないでいいというもの)が認められて
いるからです。」
第2章 企業エゴむき出しの経済界リーダーたち
減税を叫ぶ経済界のリーダーの厚顔ぶり
住友化学 みずほフィナンシャルグループ
三菱商事 三井物産 日産自動車
トヨタ自動車 本田技研工業 HOYA
ファーストリテイリング 日本航空(JAL)
上記の10社の納税の実態とそのCEOたちの厚顔ぶりが紹介されている。
「投資減税だけでなく、法人税減税も対象に…激しい国際競争に勝つために…減税を一刻も
早く実現してほしい」(住友化学・米倉経団連会長 P-70)
「税引前利益が1兆2218億…もあるのに納税した額は2億2500万円(負担率0.02%
にすぎません。」(みずほFC P-71)
「ゴーンCEOの2013年度の役員報酬は9億9500万円だが・・・本人は『それでも
少ない』ということです。」(日産自動車 P-77)
途中にももっといろいろな興味深い発言があるのだが、最後に
「『法人税が高い』と声高に主張している記巨大企業こそ、実際には驚くほど軽い税金しか
納めていない実態が明らかになっています。」(P-85)
第3章 大企業はどのように法人税をすくなくしているか
巨大企業の負担は法定税率の半分以下
税逃れの手口と税法上の問題
(具体例の項目が①から⑨までの項目で列記されているがここでは略)
企業エゴと経営者の社会的責任
第4章 日本を棄て世界で大儲けしている巨大企業
日本企業もアメリカ発の手口を模倣
海外進出の動機
海外企業買収の裏には
申告漏れは国内企業の2倍
タックスウォーズの勃発
第5章 激化する世界税金戦争
"企業性善説"が通用しない世界
議会で追及されたグーグルの節税手法
アップルCEOティム・クックの反論
アマゾン ジャパンも法人税を払っていない
日本の大企業も税率が低い国へ
アメリカの知財戦略
(以下、4項目略)
第6章 富裕層を優遇する巨大ループホール
世界一安い日本の富裕層の税金
何度も延長された証券優遇税制
富裕層もタックス・ヘイブンを悪用
不十分な所得税最高税率の引き上げ
第7章 消費増税は不況を招く
消費税はデフレ要因
置き去りにされる社会保障改革
中小企業の7割は赤字経営
(一部、略)
第8章 崩壊した法人税制を建て直せ!
消費増税より税制の欠陥を修正すべき
法人税減税効果は果たしてあるのか?
(以下、略)
あとがき
という具合である。
4章以下は抜粋を省略したが、全編息を抜く暇がないほど、興味深い話が満載である。
最後に、第6章に記載されている文章を抜粋しておこう。
「・・・株高で大儲けしているのは、世界を股にかけたファンドマネーや一握りの特権的な富裕層で、圧倒的に多くの庶民には無関係です。」(P-148)
「年間の所得が100億円というのは、一般の市民の感覚からすれば、およそ想像を絶する金額でしょう。しかし、」「・・・このような超富裕層の人たちの所得に対してだけは、現在の日本の税制は特別に税金を安くしているのです。」(P-150)
(かつての日本は、中間層が分厚く存在して社会をあんていさせ、日本経済の強さの根源となっていたが、)
「日本社会は、現在、税を逃れる手段を持つ1%足らずの富裕層と、その尻拭いをするように重税に苦しむ99%を超える貧困層とに二極分化しつつあります。・・・・所得税と法人税の空洞化により、日本の富と税源が失われ、財政赤字の増大を招いています。この「ツケ」を、消費増税という形で払わされているのが中所得者・低所得者層であるということを、安倍首相が理解しているとは到底思えません。」(P-154)
余談ではあるが、以前、ピケティの『21世紀の資本』を読みかけていた。一昔前の電話帳のように厚く、冗長で決して論理的とは言い難い文章から導き出された結論めいたものには、目を開かせてくれるような感動的な発見もなく、ただ退屈というか忍耐を要求されたが、それに比べたら、この新書版の本は、現実的で具体的で、どれだけ示唆に富んでいたかことか。
ぜひ、一読を!