【 マキノのメタセコイアの並木道 】
【 2021年5月4日 】 快晴
6:10自宅出発ー(鯖街道経由)ー7:30朽木ー7:50マキノメタセコイアの並木道ー8:30黒河林道駐車場
ー(車を置いて自チャリで移動)-9:10マキノスキー場(チャリを置く)-9:30寒風登山口-10:50展望
ベンチ-11:00同出発-12:05寒風頂上広場着-12:30同発-(13時頃、1回目の痙攣)-14:05
栗柄越(2回目の痙攣)-14:25赤坂山着-14:45同発-15:30明王の禿ー(下りの途中、3回目の痙攣)
-17:10黒河峠-17:55林道駐車場到着-(車で移動)-18:10マキノスキー場(自転車回収)-18:20
同出発-(鯖街道、坊村あたりから大渋滞)-20:15自宅到着
このところ、数回続けて出発が遅く、日没に迫られ、帰りが大幅に遅れていたが、今回その失敗の轍を踏まないよう前日は早めに床につき、最近に無く早い出発を心掛けた。
予報通り、晴れの青空。鯖街道を快調に飛ばす。花折れトンネルを抜け安曇川沿いもスムースに進む。昨日話をしたYさんが連休中は込むからやめておいた方がいいとアドバイスしてくれたが、この天気を放っておくことはできず、出てきてしまったが問題は無いと思っていた。しかし、朽木の手前の安曇川を渡る橋の上に来たとき、河原を見てびっくりした。広い河原に、キャンプをする車とテントで河原の砂利がみえないほどぎっしりと密集しているではないか。その数といったら1つの街がそこに出現したような光景だった。
ここを何十回も通ったことがあるが、せいぜい10数張りのテントは見たことがあったが、こんな光景を見るのは初めてだ。
追い抜いた車が近づいてきたので、慌てて車を発進される。
幹線道路を左折してマキノの街に入る。しばらくすると、いつか観光名所を紹介する雑誌で見た光景が身に飛び込んでくる。
『メタセコイアの並木道』である。予期しなかった光景に出会って、おもわず《ラッキー》と思う。写真に収めてから、目的地のマキノスキー場にある登山口を目指す。
車には、今日も自転車を積んで、登り口と下山口を別にして往復ルートをとらず、周回ルートにしようと思っていた。少しでも歩く距離を短くするため、林道を車で高い位置まで行き、そこを下山口にするつもりだ。
【 スキー場の下見-車からチャリをどこに置くか 】
スキー場に入ると、ここでも人と車の群れ。スキーゲレンデとなる広場や林間の間は一大テント場となり、ごった返している。車かチャリを置く場所を見定めてから林道に向かう。
【 車を置くために、林道に入る-熊注意の看板 】
林道に入る分かれ道まで来ると
「最近、熊の目撃情報が多発してます。
危険を感じたら直ぐに下山して下さい」
の看板。一瞬ひるむが、ここまできて帰る手は無い。林道は舗装されていて、思っていたより走りいやすい。右に左に曲がりながら高度を稼ぐ。
【 林道の終点に車を駐める 】
車を進めると舗装道路が終わったところに5台ほどの駐車スペースがあり、ちょうど1台分が空いていた。もっと先に行こうか迷ったが、坂を下るのは自転車だから、未舗装の岩だらけの道は避けた方がいい。林道の終点に車を置くか自転車の方を置くかも迷ったが、ここに自転車を置いておくより、先に下っておいた方がいいと思い、車を駐め登山靴に履き替える。
出発しようとしたところに、もう一台の車が来る。白のRVで、満車になったスペースを見て一旦は上に向かったが、すぐに戻ってきて、入口の脇のスペースに駐めた。こんないかつい車に乗ってくるのだから、どんなひげ面の男かと思っていたら、車の運転席から降りてきたのは華奢なスタイルの、いかにも山慣れした身なりの若い女性だった。帽子がよく似合う。自転車のペダルに足を掛け一歩を踏み出そうとしたすぐ脇に立ったので思わず声を掛けた。
「いい天気ですね。どちらへ?」
「先週も来たんですけど、こちら側を残してしまったんで。今日は三国山の方を。・・近くに住んでんですよ。」気さくに応じてくれる。
「私はこれからスキー場まで下って、ぐるっと回ってここに降りてくる予定です。」そう言いながら、広げた地図を見せながら自分の行くコースを説明する。
「そんなコースあるんですね。」
「はい。・・・上のどこかでまた会うかもしれませんね。」もっと話をしようと思ったが、既に自転車は下を向いて動き始めていた。
「お気をつけて。」上と下にそれぞれ反対方向に向かう。
こんなマイナーな林道の山奥に一人で来るなんて、勇気あるなと思った。それにしても最近山に来て人と会うことも、ましてや話をすることも無かった。それが、あんあ魅力的な姿の人に会うなんて。「今日はいい日かもしれない。」と思いながら、ちょっと気分が浮き上がってしまった。その余韻に浸りながら、坂を軽快に下る。その場を離れて、しばらく行ってから、せめて写真の1枚も撮らせてもらえば良かったと思ったが後の祭りだった。
【 今回のコース地図 駐輪場から時計回りで周回 】
リュックを背負い、チャリの勢いに任せスキー場まで一気に下る。再び雑踏の中に戻ってくる。自転車を駐車場の一角の木に括りつけ、いよいよ山登り態勢に入る。上を見れば、山が呼んでいる。
【 チャリでスキー場に戻るー山が呼んでいる 】
人混みをかき分け、ゲレンデの上部に進む。それにしても、この人混みは一体何だろうと思う。繁華街よりも人出が多いのではないかと思う。
【 ゲレンデも林間もキャンプをする家族連れで大賑わい 】
寒風への登山コースはどこだろうと地図とGPSをにらんで、実際の地形と比べ確認する。200mほで進み違うなと思う。戻ってみると登山道の入口付近に車が停まりテントがあったので、登山道の入口が見えなかったのだ。
【 ゲレンデの端にある寒風コースの登山口 】
寒風への登山道は、林道とは別のゲレンデの中を川と並行して走る滑降コースにあった。幅の広い滑降コースには、つくしを積む家族ずれが2組いるだけで、広場の雑踏はなかった。
【 滑降コース場に設けられた寒風の登山コース ここまで登ると人も少ない 】
滑降コースの最上部に来ると、道は狭い本格的な登山道になる。この登山道は、「寒波」まで一定の傾斜を保ってうまく設定されて、きちんと整備もされ歩きやすい道だった。途中、若い男性に追い抜かされ、そのあと女性の親子ずれかと思われるふたり連れにも抜かされる。
ハアハア言いながら登っていると、先ほど抜いていった親子連れが脇から現れ、
「ここは初めてですか?」といきなり問う。
「はい。、初めてです。」と答えると、
「ここの景色いいですよ。」と出てきた後ろの方向を指さす。5、6歩崖をかけあがると視界が開け、今来たスキー場方向やマキノの街、琵琶湖方面の視界が開ける。
【 展望ベンチからの眺め-田んぼの中を伸びる並木道が見える 】
地図を見ると、確かに「展望ベンチ」というポイントが記されている。太い丸太を2本束ねたベンチが置かれ、そこに座って景色を堪能する。
【 展望ベンチより スキー場は遙か下 】
写真を撮っていたら、後方から、「あー、疲れたーっ。もうダメ!」という奇声とともに若い女子の二人組が姿を現す。私を認めて、急に黙りこちらをうかがう。
「ここ景色いいですよ。こっち来て、見てください。」 先ほど親子の二人連れから掛けられた同じ言葉を、若いふたりに投げかける。
愛嬌のいい一人がさっそく、近寄ってきて歓声を上げる。もう一人は遠巻きにして登山道からすぐには離れない。
「もう限界だから、どうしようかと思って。この先長いんですか?頂上まで遠いんですか?」と聴いてくるので、
「もう半分以上来てますよ。あと、1時間もすれば見晴らしのいい尾根に出て、そこから赤坂山の頂上までは平らな道だから、ぐるっと回って向こうの道から降りたらいいですよ。同じ道、通るよりいいから。」というと、今にでも来た道を帰ろうとする態度が変わって、ふたりで「そうしようか」という雰囲気に。
「疲れない歩き方って、あるんですか?」なんて言う質問も繰り出したあと、答えていると、もうひとりも近づいてきて相談したあと、ベンチに座ることも無く、上に向かって行ってしまった。
私は、彼女らを見送ってからも、しばらく景色を眺めたあと、おもむろに出発する。
【 寒風を目指し、緑の中を進む 】
「やっぱり疲れたから、止めました。」といって、そこいらにヘタレ込んでいる姿を想像して、そのうち追いつくと思っていたら、寒風までその姿は無かった。
12時5分、寒風の頂上広場に到着。疲れた姿の女子に追いつくと思ったら、寒風まで追いつけなかったのだ。
団体さんもいてたいした賑わいだった。その頂広場からは360度の展望が広がっていた。遠くに、そこだけ際だって白く輝く白山の姿があった。まさに名の通り「白山」だ。
【 寒風から白山を望む 】
広い平坦な草地に、思い思いの場所で車座になりお昼を取っている。広場の端の斜面に先の二人組が背中を向けて並んで座っていた。
30分ほど休憩のあと12時半に出発する。二人はまだ背中を向けおしゃべりしているから、元来た道を戻るつもりか、と思う。
急な坂道を下ったあと、木の全く生えていない吹きさらしの尾根道に出る。右手は琵琶湖が控えるマキノ町の谷が広がり、左手は福井県美浜町あたりの山々が見える。日本海と琵琶湖方面の分水嶺で、日本海から来る風の通り道になって、吹き付ける風で飛ばされそうになる。
【 草原状の尾根道を行く 】
草原を抜け岩陰に来ると、風はましになる。平らな尾根道を抜け、やや登りになったところで、両足の膝上の筋肉が急に痙攣を起こしてしまった。足の角度を変えると「こむら返り」特有の激痛が走る。座るにも座れない。しばらくじっと姿勢を保ち、痛みが治まるのを待つ。ようやく横になり休んでいるところに人が近づいてくる。
「痙攣ですか。」背中から声が聞こえる。
「どうもそうみたいです。」振り向かずに応えると、
「誰か塩飴か、痙攣剤持ってない?」の声。すると中の一人の女性が近づき
「これ飲んでみる?」と言いながら、漢方薬の抗痙攣剤を差し出す。疲れがたまると塩分が筋肉に不足して痙攣を起こすことがあるとは知っていたが、今までそんな経験は無かったから、その準備はしていなかった。
早速いただいて飲む。
「ありがとうございます。」改めて見ると、私と同じくらいか少し若い6,7人の男女のグループだった。声を掛けてくれたのは、そのリーダーらしき男性だった。私が立ち上がったのを見て、リーダーが「もう少し休んでいった方がいいですよ。」と言い残して、寒風の方に向かっていった。その日、出会った3組目の人たちである。一回も人と出会わず、会話もしないで山を下りてくる事が最近多い中で、今日は何といろいろなことがある日だと思った。
【 岩に掘られた像 】
歩き始めたら、先ほどの出来事な何だったんだろうかと思えるくらい足は軽快だった。岩に掘られたお地蔵さんの横を通り赤坂山に向かう。若干のアップダウンを繰り返し、2本の送電線の間にある栗柄峠の所に来たところで、また軽い痙攣に見舞われる。これから先、歩けるだろうかと不安がよぎる。今度は、ちょっと慎重にスポーツドリンクも補給して多めに休息を取ることにする。15分ほど休み再出発。
【 岩場にさしかかる 】
幸いなことに、その後は何事も無く、足もスムーズに運ぶ。薬が効いてきたのかなと思う。途中の岩場も難なく通過して、2時半前に赤坂山に到着。
今日は、早めに出発して夕方は4時までに帰るといって家を出てきたが、ここに来て大幅に遅れが出てしまった。本来なら1時には着いて、3時前に車の置いてあるところまで戻り、自転車を回収して遅くとも5時には帰れると思っていたのだが、それは無理だ。「6時を回りそうだ」と電波の届く頂上から家にメールを打つ。
【 赤坂山山頂 】
それでも、まだ3時前だ。あとは三国山の横を通って、林道を下り車の所に帰るだけだ。黒河峠からの林道歩きは楽なはずだし、と思う。
【 赤坂山山頂からのスキー場方面の眺め 】
「予定より遅れる」というメールを打って、多少気が大きくなり、最後のおにぎりを頬張りながら、360度の展望を楽しむ。20分も休んだろうか。「明王の禿」に向かう。
【「明王の禿」中心部 】
なるほど、京都の北山にはない荒々しい岩場で、ここだけ見ると北アルプスを思い出す。
【 湿原にかかる桟道 】
ここからは、下りのみである。ちょっとした湿原があり、桟道がかかっている。赤坂山から見た三国山がより高く立派に見えたので立ち寄ろうと思っていたが、どんどん下るので心配になってきた。地図を見ると《ちょこっと寄る》感じで頂上に立てると思っていたが、こんなに下っては登り返しがきついのでは、と。それに、なかなか頂上への分岐点が現れない。
【 この白い大きな花は何という花だろう 】
赤坂山から、めっきり人に会わなくなった。名前の知らない大きな白い花が、所々現れるだけで谷筋をどんどん下っていく。
ようやく、三国山への分岐の標識が現れる。片道0.4kmとある。頂上はかなり上の方の思え、その姿さえ見えない。どうしようかと考えたが、ここにきて往復1時間近くのロスは大きい。《荒島岳でのこと》もある。やめることにした。
【 三国山への分岐点 】
そう思ったら、あとはひたすら歩くだけだ。車を置いてある方向を見るが、谷が深くてよく分からない。
【 下山路、黒河林道の谷方向の山 】
しばらく順調に歩いていたが、ひょっとしたことで三度目の痙攣が走る。じっと我慢して、数分で収まる。
【 林道と何回も交差する 】
ジグザグの曲がりくねった道を進む。林道に入ったと思ったら、また山道に誘導される。再々度、林道に合流したところがトイレも駐車場もある広場になっていて、脇に「三国山登山口」の看板。「ここまで車が入れたんだ。」と思う。
【 黒河峠直下の林道の合流点、広場になっていて「三国山への登山口」とある 】
車を置いた場所はどの辺だろうかと、GPSの地図を見るが、距離はよく分からない。1時間もかからないといいのだが。
【 林道途中の車止め 】
1時間近く歩くと、車止めのロープが張ってあった。「やっぱり上までは行けなかったのか!」と得心する。ものの100mも進まないうちに舗装道路になり、目の先に自分の車があった。歩かなくて良い道のりを歩かされたと思っていたが、自転車であの岩だらけのガタガタ道を下るのは危ないし、結果から言うと正解だったと言うことだ。
6時5分前、車に到着。自分の車だけが残り、他の車はもう1台も無かった。登山靴を脱ぎ、スキー場に急ぐ。
【 少し進むと、車の姿が 】
10分もかからないでスキー場に着く。朝来た時とは様子が違い、置いた場所が直ぐには見つからないで、自転車があるかどうか不安になったが、元の場所にちゃんと駐めてあった。
【 スキー場に置いたチャリを回収する 】
6時20分、自転車を積み込むと、朝来た道を大急ぎで家路に向かう。マキノの街を過ぎ、箱館山の麓を通り朽木に抜ける。鯖街道に入り、信号の無い道を軽快にとばす。4台前を走っている軽自動車が遵法速度で走っているため後続車も溜まってきたが、順調に流れているので7時半には家に着けると思っていた。と、坊村あたりで急に車が速度を落としてそのうち止まってしまった。しばらくして動きだしたが、カーブで前方を見ると、車がぎっしり詰まっているではないか。先に記した《前日のYさんの言葉》を思い出した。その前の日に同じ鯖街道を通って大渋滞に巻き込まれたから、「平日に行ける人は、この連休中は行かない方がいい。」とアドバイスをもらっていたのだ。《後悔、先に立たず》だ。
途中トンネルの手前の信号で渋滞していて、それから先は流れも良くなり、大原でも多少込んだが、抜け道を通って8時半までには家に戻れた。
《2時間遅れ》をこっぴどく叱られると思っていたが、向こうも慣れたもので、こちらの行動を経験則から予測して、すでに風呂から上がった姿で「お帰りなさい。」で済んで、拍子抜けした。
【 2021年5月4日 】 快晴
6:10自宅出発ー(鯖街道経由)ー7:30朽木ー7:50マキノメタセコイアの並木道ー8:30黒河林道駐車場
ー(車を置いて自チャリで移動)-9:10マキノスキー場(チャリを置く)-9:30寒風登山口-10:50展望
ベンチ-11:00同出発-12:05寒風頂上広場着-12:30同発-(13時頃、1回目の痙攣)-14:05
栗柄越(2回目の痙攣)-14:25赤坂山着-14:45同発-15:30明王の禿ー(下りの途中、3回目の痙攣)
-17:10黒河峠-17:55林道駐車場到着-(車で移動)-18:10マキノスキー場(自転車回収)-18:20
同出発-(鯖街道、坊村あたりから大渋滞)-20:15自宅到着
このところ、数回続けて出発が遅く、日没に迫られ、帰りが大幅に遅れていたが、今回その失敗の轍を踏まないよう前日は早めに床につき、最近に無く早い出発を心掛けた。
予報通り、晴れの青空。鯖街道を快調に飛ばす。花折れトンネルを抜け安曇川沿いもスムースに進む。昨日話をしたYさんが連休中は込むからやめておいた方がいいとアドバイスしてくれたが、この天気を放っておくことはできず、出てきてしまったが問題は無いと思っていた。しかし、朽木の手前の安曇川を渡る橋の上に来たとき、河原を見てびっくりした。広い河原に、キャンプをする車とテントで河原の砂利がみえないほどぎっしりと密集しているではないか。その数といったら1つの街がそこに出現したような光景だった。
ここを何十回も通ったことがあるが、せいぜい10数張りのテントは見たことがあったが、こんな光景を見るのは初めてだ。
追い抜いた車が近づいてきたので、慌てて車を発進される。
幹線道路を左折してマキノの街に入る。しばらくすると、いつか観光名所を紹介する雑誌で見た光景が身に飛び込んでくる。
『メタセコイアの並木道』である。予期しなかった光景に出会って、おもわず《ラッキー》と思う。写真に収めてから、目的地のマキノスキー場にある登山口を目指す。
車には、今日も自転車を積んで、登り口と下山口を別にして往復ルートをとらず、周回ルートにしようと思っていた。少しでも歩く距離を短くするため、林道を車で高い位置まで行き、そこを下山口にするつもりだ。
【 スキー場の下見-車からチャリをどこに置くか 】
スキー場に入ると、ここでも人と車の群れ。スキーゲレンデとなる広場や林間の間は一大テント場となり、ごった返している。車かチャリを置く場所を見定めてから林道に向かう。
【 車を置くために、林道に入る-熊注意の看板 】
林道に入る分かれ道まで来ると
「最近、熊の目撃情報が多発してます。
危険を感じたら直ぐに下山して下さい」
の看板。一瞬ひるむが、ここまできて帰る手は無い。林道は舗装されていて、思っていたより走りいやすい。右に左に曲がりながら高度を稼ぐ。
【 林道の終点に車を駐める 】
車を進めると舗装道路が終わったところに5台ほどの駐車スペースがあり、ちょうど1台分が空いていた。もっと先に行こうか迷ったが、坂を下るのは自転車だから、未舗装の岩だらけの道は避けた方がいい。林道の終点に車を置くか自転車の方を置くかも迷ったが、ここに自転車を置いておくより、先に下っておいた方がいいと思い、車を駐め登山靴に履き替える。
出発しようとしたところに、もう一台の車が来る。白のRVで、満車になったスペースを見て一旦は上に向かったが、すぐに戻ってきて、入口の脇のスペースに駐めた。こんないかつい車に乗ってくるのだから、どんなひげ面の男かと思っていたら、車の運転席から降りてきたのは華奢なスタイルの、いかにも山慣れした身なりの若い女性だった。帽子がよく似合う。自転車のペダルに足を掛け一歩を踏み出そうとしたすぐ脇に立ったので思わず声を掛けた。
「いい天気ですね。どちらへ?」
「先週も来たんですけど、こちら側を残してしまったんで。今日は三国山の方を。・・近くに住んでんですよ。」気さくに応じてくれる。
「私はこれからスキー場まで下って、ぐるっと回ってここに降りてくる予定です。」そう言いながら、広げた地図を見せながら自分の行くコースを説明する。
「そんなコースあるんですね。」
「はい。・・・上のどこかでまた会うかもしれませんね。」もっと話をしようと思ったが、既に自転車は下を向いて動き始めていた。
「お気をつけて。」上と下にそれぞれ反対方向に向かう。
こんなマイナーな林道の山奥に一人で来るなんて、勇気あるなと思った。それにしても最近山に来て人と会うことも、ましてや話をすることも無かった。それが、あんあ魅力的な姿の人に会うなんて。「今日はいい日かもしれない。」と思いながら、ちょっと気分が浮き上がってしまった。その余韻に浸りながら、坂を軽快に下る。その場を離れて、しばらく行ってから、せめて写真の1枚も撮らせてもらえば良かったと思ったが後の祭りだった。
【 今回のコース地図 駐輪場から時計回りで周回 】
リュックを背負い、チャリの勢いに任せスキー場まで一気に下る。再び雑踏の中に戻ってくる。自転車を駐車場の一角の木に括りつけ、いよいよ山登り態勢に入る。上を見れば、山が呼んでいる。
【 チャリでスキー場に戻るー山が呼んでいる 】
人混みをかき分け、ゲレンデの上部に進む。それにしても、この人混みは一体何だろうと思う。繁華街よりも人出が多いのではないかと思う。
【 ゲレンデも林間もキャンプをする家族連れで大賑わい 】
寒風への登山コースはどこだろうと地図とGPSをにらんで、実際の地形と比べ確認する。200mほで進み違うなと思う。戻ってみると登山道の入口付近に車が停まりテントがあったので、登山道の入口が見えなかったのだ。
【 ゲレンデの端にある寒風コースの登山口 】
寒風への登山道は、林道とは別のゲレンデの中を川と並行して走る滑降コースにあった。幅の広い滑降コースには、つくしを積む家族ずれが2組いるだけで、広場の雑踏はなかった。
【 滑降コース場に設けられた寒風の登山コース ここまで登ると人も少ない 】
滑降コースの最上部に来ると、道は狭い本格的な登山道になる。この登山道は、「寒波」まで一定の傾斜を保ってうまく設定されて、きちんと整備もされ歩きやすい道だった。途中、若い男性に追い抜かされ、そのあと女性の親子ずれかと思われるふたり連れにも抜かされる。
ハアハア言いながら登っていると、先ほど抜いていった親子連れが脇から現れ、
「ここは初めてですか?」といきなり問う。
「はい。、初めてです。」と答えると、
「ここの景色いいですよ。」と出てきた後ろの方向を指さす。5、6歩崖をかけあがると視界が開け、今来たスキー場方向やマキノの街、琵琶湖方面の視界が開ける。
【 展望ベンチからの眺め-田んぼの中を伸びる並木道が見える 】
地図を見ると、確かに「展望ベンチ」というポイントが記されている。太い丸太を2本束ねたベンチが置かれ、そこに座って景色を堪能する。
【 展望ベンチより スキー場は遙か下 】
写真を撮っていたら、後方から、「あー、疲れたーっ。もうダメ!」という奇声とともに若い女子の二人組が姿を現す。私を認めて、急に黙りこちらをうかがう。
「ここ景色いいですよ。こっち来て、見てください。」 先ほど親子の二人連れから掛けられた同じ言葉を、若いふたりに投げかける。
愛嬌のいい一人がさっそく、近寄ってきて歓声を上げる。もう一人は遠巻きにして登山道からすぐには離れない。
「もう限界だから、どうしようかと思って。この先長いんですか?頂上まで遠いんですか?」と聴いてくるので、
「もう半分以上来てますよ。あと、1時間もすれば見晴らしのいい尾根に出て、そこから赤坂山の頂上までは平らな道だから、ぐるっと回って向こうの道から降りたらいいですよ。同じ道、通るよりいいから。」というと、今にでも来た道を帰ろうとする態度が変わって、ふたりで「そうしようか」という雰囲気に。
「疲れない歩き方って、あるんですか?」なんて言う質問も繰り出したあと、答えていると、もうひとりも近づいてきて相談したあと、ベンチに座ることも無く、上に向かって行ってしまった。
私は、彼女らを見送ってからも、しばらく景色を眺めたあと、おもむろに出発する。
【 寒風を目指し、緑の中を進む 】
「やっぱり疲れたから、止めました。」といって、そこいらにヘタレ込んでいる姿を想像して、そのうち追いつくと思っていたら、寒風までその姿は無かった。
12時5分、寒風の頂上広場に到着。疲れた姿の女子に追いつくと思ったら、寒風まで追いつけなかったのだ。
団体さんもいてたいした賑わいだった。その頂広場からは360度の展望が広がっていた。遠くに、そこだけ際だって白く輝く白山の姿があった。まさに名の通り「白山」だ。
【 寒風から白山を望む 】
広い平坦な草地に、思い思いの場所で車座になりお昼を取っている。広場の端の斜面に先の二人組が背中を向けて並んで座っていた。
30分ほど休憩のあと12時半に出発する。二人はまだ背中を向けおしゃべりしているから、元来た道を戻るつもりか、と思う。
急な坂道を下ったあと、木の全く生えていない吹きさらしの尾根道に出る。右手は琵琶湖が控えるマキノ町の谷が広がり、左手は福井県美浜町あたりの山々が見える。日本海と琵琶湖方面の分水嶺で、日本海から来る風の通り道になって、吹き付ける風で飛ばされそうになる。
【 草原状の尾根道を行く 】
草原を抜け岩陰に来ると、風はましになる。平らな尾根道を抜け、やや登りになったところで、両足の膝上の筋肉が急に痙攣を起こしてしまった。足の角度を変えると「こむら返り」特有の激痛が走る。座るにも座れない。しばらくじっと姿勢を保ち、痛みが治まるのを待つ。ようやく横になり休んでいるところに人が近づいてくる。
「痙攣ですか。」背中から声が聞こえる。
「どうもそうみたいです。」振り向かずに応えると、
「誰か塩飴か、痙攣剤持ってない?」の声。すると中の一人の女性が近づき
「これ飲んでみる?」と言いながら、漢方薬の抗痙攣剤を差し出す。疲れがたまると塩分が筋肉に不足して痙攣を起こすことがあるとは知っていたが、今までそんな経験は無かったから、その準備はしていなかった。
早速いただいて飲む。
「ありがとうございます。」改めて見ると、私と同じくらいか少し若い6,7人の男女のグループだった。声を掛けてくれたのは、そのリーダーらしき男性だった。私が立ち上がったのを見て、リーダーが「もう少し休んでいった方がいいですよ。」と言い残して、寒風の方に向かっていった。その日、出会った3組目の人たちである。一回も人と出会わず、会話もしないで山を下りてくる事が最近多い中で、今日は何といろいろなことがある日だと思った。
【 岩に掘られた像 】
歩き始めたら、先ほどの出来事な何だったんだろうかと思えるくらい足は軽快だった。岩に掘られたお地蔵さんの横を通り赤坂山に向かう。若干のアップダウンを繰り返し、2本の送電線の間にある栗柄峠の所に来たところで、また軽い痙攣に見舞われる。これから先、歩けるだろうかと不安がよぎる。今度は、ちょっと慎重にスポーツドリンクも補給して多めに休息を取ることにする。15分ほど休み再出発。
【 岩場にさしかかる 】
幸いなことに、その後は何事も無く、足もスムーズに運ぶ。薬が効いてきたのかなと思う。途中の岩場も難なく通過して、2時半前に赤坂山に到着。
今日は、早めに出発して夕方は4時までに帰るといって家を出てきたが、ここに来て大幅に遅れが出てしまった。本来なら1時には着いて、3時前に車の置いてあるところまで戻り、自転車を回収して遅くとも5時には帰れると思っていたのだが、それは無理だ。「6時を回りそうだ」と電波の届く頂上から家にメールを打つ。
【 赤坂山山頂 】
それでも、まだ3時前だ。あとは三国山の横を通って、林道を下り車の所に帰るだけだ。黒河峠からの林道歩きは楽なはずだし、と思う。
【 赤坂山山頂からのスキー場方面の眺め 】
「予定より遅れる」というメールを打って、多少気が大きくなり、最後のおにぎりを頬張りながら、360度の展望を楽しむ。20分も休んだろうか。「明王の禿」に向かう。
【「明王の禿」中心部 】
なるほど、京都の北山にはない荒々しい岩場で、ここだけ見ると北アルプスを思い出す。
【 湿原にかかる桟道 】
ここからは、下りのみである。ちょっとした湿原があり、桟道がかかっている。赤坂山から見た三国山がより高く立派に見えたので立ち寄ろうと思っていたが、どんどん下るので心配になってきた。地図を見ると《ちょこっと寄る》感じで頂上に立てると思っていたが、こんなに下っては登り返しがきついのでは、と。それに、なかなか頂上への分岐点が現れない。
【 この白い大きな花は何という花だろう 】
赤坂山から、めっきり人に会わなくなった。名前の知らない大きな白い花が、所々現れるだけで谷筋をどんどん下っていく。
ようやく、三国山への分岐の標識が現れる。片道0.4kmとある。頂上はかなり上の方の思え、その姿さえ見えない。どうしようかと考えたが、ここにきて往復1時間近くのロスは大きい。《荒島岳でのこと》もある。やめることにした。
【 三国山への分岐点 】
そう思ったら、あとはひたすら歩くだけだ。車を置いてある方向を見るが、谷が深くてよく分からない。
【 下山路、黒河林道の谷方向の山 】
しばらく順調に歩いていたが、ひょっとしたことで三度目の痙攣が走る。じっと我慢して、数分で収まる。
【 林道と何回も交差する 】
ジグザグの曲がりくねった道を進む。林道に入ったと思ったら、また山道に誘導される。再々度、林道に合流したところがトイレも駐車場もある広場になっていて、脇に「三国山登山口」の看板。「ここまで車が入れたんだ。」と思う。
【 黒河峠直下の林道の合流点、広場になっていて「三国山への登山口」とある 】
車を置いた場所はどの辺だろうかと、GPSの地図を見るが、距離はよく分からない。1時間もかからないといいのだが。
【 林道途中の車止め 】
1時間近く歩くと、車止めのロープが張ってあった。「やっぱり上までは行けなかったのか!」と得心する。ものの100mも進まないうちに舗装道路になり、目の先に自分の車があった。歩かなくて良い道のりを歩かされたと思っていたが、自転車であの岩だらけのガタガタ道を下るのは危ないし、結果から言うと正解だったと言うことだ。
6時5分前、車に到着。自分の車だけが残り、他の車はもう1台も無かった。登山靴を脱ぎ、スキー場に急ぐ。
【 少し進むと、車の姿が 】
10分もかからないでスキー場に着く。朝来た時とは様子が違い、置いた場所が直ぐには見つからないで、自転車があるかどうか不安になったが、元の場所にちゃんと駐めてあった。
【 スキー場に置いたチャリを回収する 】
6時20分、自転車を積み込むと、朝来た道を大急ぎで家路に向かう。マキノの街を過ぎ、箱館山の麓を通り朽木に抜ける。鯖街道に入り、信号の無い道を軽快にとばす。4台前を走っている軽自動車が遵法速度で走っているため後続車も溜まってきたが、順調に流れているので7時半には家に着けると思っていた。と、坊村あたりで急に車が速度を落としてそのうち止まってしまった。しばらくして動きだしたが、カーブで前方を見ると、車がぎっしり詰まっているではないか。先に記した《前日のYさんの言葉》を思い出した。その前の日に同じ鯖街道を通って大渋滞に巻き込まれたから、「平日に行ける人は、この連休中は行かない方がいい。」とアドバイスをもらっていたのだ。《後悔、先に立たず》だ。
途中トンネルの手前の信号で渋滞していて、それから先は流れも良くなり、大原でも多少込んだが、抜け道を通って8時半までには家に戻れた。
《2時間遅れ》をこっぴどく叱られると思っていたが、向こうも慣れたもので、こちらの行動を経験則から予測して、すでに風呂から上がった姿で「お帰りなさい。」で済んで、拍子抜けした。