【 2020年9月15日 】
早朝、5:30自宅出発-(花折鯖街道経由)ー7:25北陸道敦賀IC-(杉津SA小休止)
-8:11福井ICで降りる-9:10佐開登山口-9:20(林道に迷い込む)-9:45本来の林道に
戻る-10:32 「640m地点」に車止める-(林道を歩く)-11:20「850m地点」到着-(登山
入り口道がわからず林道跡を直進するも行き止まりで戻る。この間、林道最終地点、コース入口を間違
えて25分ロスする)-11:45「850m地点」再出発-13:15稜線上の佐開コース分岐点に出る-
13:30シャクナゲ平(昼食休憩30分。頂上目指すか、ここで戻るか迷う)-14:00頂上向け出発
(15:00をめどに行けるところまで頂上を目指す)-14:50中荒島岳(頂上まであと412mの表示
ー頂上目指す)-15:15荒島岳頂上到着-(休息)-15:45出発-16:00もちが壁(ここからペース
落ちる)-17:20佐開分岐-19:20「850m地点」(直前で日が完全に落ちる)-20:40車に到着
-21:30佐開登山口(出口にイノシシ避けの通電柵があり出方がわからずにまごつく)-22:26
福井IC-22:50鯖江で下ろされる(以下一般道)-23:45敦賀通過-(国境で日付変わる)-
午前0:35朽木通過-深夜1:25、自宅到着
荒島岳に行こうと決めたのは前日の午後だった。
4月に新型コロナの影響が全国に広がり、一旦は持ち直したものの、7月から8月には第2波が襲い、今年の夏山行きはどうなるだろうと漠然と考えているうちに梅雨の時期を過ぎて夏山登山の時期も終わろうとしていた。9月に行くとしたら、山小屋の状況はどんなんかとネットで調べてみたら、今年の営業を見合わせているところもあり、営業しているところでも完全予約制になっていて、あらかじめ申し込んでおかねばならなくなっていた。天気を見定めてから出発日を決めたいと思っていたから、旅館ではあるまいし、あらかじめ予約をするなんて有り得ないと思い、それなら辞めておこうとかなと思っているうちに8月も終わってしまった。一旦は諦らめていたが、来年になったら体力が今年より更に落ちて、もう山に行けなくなるのではと思ったら、1週間前にでも天気を見定めてどこかに行こう・・・そうだ!まだ行ったことのない早月尾根をたどって剱岳に行ってみようと考えた。無理をしないで通常の2倍の時間を取ってゆっくり余裕をもっていけばいいと。早速コースの途中にある早月小屋を調べてみたら、ナントよりによって【今年営業中止】の小屋に入っていた。穂高もいいが、一度行ったところに敢えて行くことはないと思い、今年の夏山は諦めることにした。
日帰りできそうな山でまだ行っていない山、百名山にこだわる訳ではないが、それなりに登りがいのある山を探していたら荒島岳があった。調べてみたらコースが4つほどあって、最短のコースである佐開コースの林道を850m地点まで登る道を選ぶ。場合によっては反対側のコースに下りることも想定して、念のため自転車も積んでおくことにして、天候を見定めて前日の晩、急遽準備をして早めに床につく。
【夜明け直後の「比叡山」-今日の天気は快晴】
9月15日、予報は快晴。午前4時前に目を覚まし5時半、自宅を出発。深泥池から宝ヶ池に出て、そこから一路鯖街道を敦賀に向かってが走る。
【 北陸自動車道、往路は敦賀から福井まで、復路は鯖江で下ろされ、京都まで一般道で戻る 】
7時半前、敦賀から北陸自動車道に乗る。朝食をとっていなかったので杉津サービスエルアに入り、途中で買ったおにぎりとホットドックをほおばる。敦賀湾を眺めた後、福井ICを目指す。
【 北陸道、杉津SAからの敦賀湾 】
福井IC、8時11分通過。ここからは一般道を行くが通勤時間と重なって、割と車が多い。市街地を結ぶ道路にはやたらとトンネルが多い。大野市の街に入り、コンビニで水と食料を補給する。
【 背後に大野城が見える 】
田園地帯に出ると視界が開け、一目でそれと分かる荒島岳の姿が前方に見える。思っていたより標高は低く見える。《比叡山とあまり変わらない高さにしか見えない》あれで1500m超もあるのかと思う。
【 大野市の田園地帯から眺める荒島岳-さほど高さは感じない 】
佐開コースの入り口は地形から見て、あてずっぽに車を進める。左に見えるコブが「小荒島岳」で、その向こうの陰になった谷筋をたどり、鞍部に登り詰めるルートを行くのだと想像しながら稜線を目で追う。カーナビも確認して間違いなく地図にある養魚場の横に到達できた。ここまでは順調!
いよいよ鬼ヶ谷林道に入る。
【 佐開の登山口から林道を進む。途中間違え別の林道に迷い込む 】
谷筋に沿って平坦な道を1km進んだあたりからカーブの多い登り路になる。舗装はされていないが道筋ははっきりしていて、ぐんぐん高度を稼ぐ。2kmくらい進んだろうか。どこか目指す方向と違うのではないかとGPSを見てみると大きくコースを外れている。途中、分かれ道などなかったように思うが、GPSのさし示すコースを外れたあたりにある分岐点らしき地点まで戻ると、鋭角に曲がる道筋がついていた。これでは気が付くはずないと思いながらその道を進む。(地図の《青緑》色から《黄オレンジ》色に変わる地点-GPSの軌跡で《青緑》は時速30Kmから60Km、《黄オレンジ》はそれ以下の速さを示している。因みに《赤》色は4km以下か停止)
ここからの道がひどかった。道幅は車幅ぎりぎりほどしかなく、しかも両側から草木が道に迫り出して覆っているから前方はほとんど見えない。しかもその路面は轍が深く刻まれ中央部が盛り上がり、車の底部を草木が擦りながら進み、たまに転がっている石などがあるとガツンと響く。これじゃ、オフロードの車でないとダメかと思った。しかし、少しでも前進して高度を上げおかないとと思い進む。いよいよ、これ以上は無理かと観念して、カーブがふくらんだ多少余地のある所に車を停めて歩くことにする。地図とGPSで場所を確認すると高度640m地点あたりだった。
【 林道640m地点に車を置く 】
靴を履き替え、ザックに最低限必要な食糧、飲料水、雨具に防寒具とヘッドランプを押し込み、すぐに歩き始める。しばらく林道を進むと、それまでとは違って、これなら楽に車でも行けると思われる道が開ける。戻って、車で行こうと考えたが既に4~500mは進んでいるから、そのまま歩き進める。あまりに手前に停めて、損をしたように感じる。
【 これならもっと先まで車で行けた 】
1時間近く歩いたろうか。ここが本来車を停めるべき850m地点に到着する。車が5、6台停められるスペースがあって立派な看板までたっているが、人影も他の車も何もない。やはりここまで車で来るべきだったと思うが、遅かれし!
ここで林道は終点のはずだが、轍がその先に続いている。その轍につられるように歩みを先に進める。200mも行かないうちに突然道が途絶える。おかしいかなと思いGPSを見ると、やはり登山道は別の所にあった。看板のある広場近くまで戻ると、わきに「登山者の皆さんへ」と書かれた小さな看板。その横に雑草に覆われた道筋があった。ここからは林道でなく、人がやっと通れる段差のある狭い登山道だった。それと知らなかったらわからない。本来ならば、ここまで車で来て、遅くとも10時には頂上に向けて歩き始めるはずだったが、時はもう11時45分、昼前だ。
【 この小さな案内を見落とす 】
ここからが急登の本格的登山道。息を切らしてシグザグの道を必死に登る。視界はきかないが踏み跡はしっかりしていて迷う心配はもうない。しかし段差がきつく木の根っこが邪魔をして歩きづらい。ようやく本峰に至る稜線が見えてきて、13時15分に中出コースとの合流点「佐開分岐」に到着する。お腹もだいぶすいてきた。逆方向に少し戻ることになるが、適当な休息場所が見当たらないので「シャクナゲ平」で休むことにする。
【 佐開コースへの分岐点 】
「シャクナゲ平」はメインの中出コースと勝原コースが合流する稜線上にあり、ちょっとした広場になっている。昼飯を取りながら地図とにらめっこをして、どうしようか考える。時刻は1時半だから本来ならば下山を始めている時間である。
【 シャクナゲ平に到着 】
せっかくここまで来たのだから戻るのは惜しい気もする。悩んだ挙句「暗くなる前に下山できればいい」と思い、頂上までたどり着けなくても、3時の時点を折り返し時刻に決めて、行けるところまで行ってみようと、午後2時に頂上に向け出発する。
【 地図(歩行区間) 】
「小荒島岳」を背に急斜面を登る。息が切れるが、少しでも先に進もうと踏ん張る。
【 小荒島岳とその向こうに大野平野 】
3時10分前、急斜面を登り切り、立っている「中荒島岳」の道標を見ると「頂上まであと412m」とある。頂上らしき方向に目をやると、なだらかな草地が続いている。10分は超えそうだが、それまでよりずっとゆるい傾斜だ。「行こう!」
【 「中荒島岳」 頂上まで412mの標識 】
15分もあれば着くと思っていたが、やはり足取りは重く、25分かかって15時15分にようやく頂上に到着する。「やったー」と歓喜のあまり、持っていった缶酎ハイを一気に飲んでしまった。(結果としてこれが間違いの極みだったのかもしれない。)
【 荒島岳山頂 】
白山こそ雲に隠れてその姿を確認することはできなかったが、ほかの周囲の山は360度見渡すことができる。いい気持ちで、頂上の方位盤に描かれた山の名前と実物を見比べては写真に収め、つい見とれて時を過ごしてしまった。
15時45分、下山開始。30分も休んでしまったが、何とか陽のあるうちに車に戻れればいいと思う。
【 頂上付近から850m地点までの下山の軌跡 】
多少アルコールが回って、いい気分で緩斜面を下る。15分ほどで「中荒島岳」の「もちが壁」の下り口までくる。
【 ここまでは良かった「中荒島岳」標識 】
ここからは岩のゴロゴロした段差の大きい急斜面だ。鎖場もロープを頼りに下りるところもあるが、足場を確保するのに体をよじりバランスを失う。両手をつきながら腰を落とし足を地面に付きながら体重を移さないと降りられない。やや段差の小さい場所でも片足で降りようとしようものならバランスを崩し横に倒れ尻もちを搗く。足には激痛が走る。一歩進んでは冷や汗をかけ深呼吸してから次の一歩を出す。
本来30分か40分で行ける佐開分岐まで2倍以上の80分をかけてようやくたどり着く。午後5時20分を回ろうとしていたが、西向きの斜面にはまだ陽はある。
【 佐開コースへの分岐点 】
何とか明るいうちに林道まで出たいが、際どくなってきた。段差は多少緩くなってきたが片足ずつ交互に出して立ったままの姿勢では降りられず、体を横向きに手を着きながら半歩ずつ歩く。やたらにバランスを失いなんでもないところでとこ横に倒れる。割と平坦な所でもまっすぐ歩けない。やっぱりアルコールのせいか。(普段、酎ハイ1杯程度で酔うことなどないのにどうした事かと思う。それとも最近、低周波音からの痛みを弱めるため神経の働きを鈍化させる薬を服用しているが、そのせいなのか)とも考えるが、アルコールを飲んだのは間違いだったと悟る。だが後の祭り。林道まで出れば、段差も大きな岩もないので、手を突かずに楽に歩けると思うのだが、その850m地点に出る2~300m手前で完全に太陽の光は消えてしまった。その手前からヘッドランプをつけたが、完全に日が落ちるとさすがにヘッドランプの明かりだけでは頼りない。一歩一歩ランプの照射角度を変えながら進む。誰にも会わない真っ暗な道を進むが、今考えると、よくもまあ熊やイノシシに出会わないで済んだかかと思う。今年はドングリの生育が悪くえさを求めて山里に熊がよく出没して人を襲ったというニュースを帰ってきてから頻繁に見たものだから、その時はそんなことは考えなかったが、今考えると冷や汗をかく。
【 もうあたりは真っ暗 】
ヘッドランプの明かりを消してみると真っ暗で、月明りもなく何も見えない。ランプの明かりの当たる周辺だけがほんのりと浮かび上がる。
午後7時20分、林道最終地点(850m)にようやく到達する。ここまでくれば段差もない車道が続くから、足元もそんなに気にせずに済むから一安心である。そう思っていたら、しばらく進むと足がゆう事を利かなくなった。足が前に出ないのだ。酔っ払いが左右に揺れながら蛇行するようにちっとも前に進めない。まっすぐ立とうと思っても重心が後ろにかかり、思わず体制を支えようと足を後ろに出してしまう。意識を集中して2歩前進しても3歩後退してしまう。思わず座り込んで考え込んでしまことの繰り返し。GPSで見ると車の停めてある場所はもう少しなのに、なかなかたどり着けない。最後の50mを進むのに20分以上かかてしまったのでは思われた。暗闇の向こうに黄色の車体の影を見つけたとき、時計は8時40分を指していた。
車を運転する足の感覚はちゃんと残っていた。ザックを下ろし靴を履き替えスターターのキーを回す。エンジンは一発でかかった。(いつか近くの北山で駐車中にバッテリーが上がり、始動できずブースター持参の娘に助けに来てもらったことをふと思い出した。)車が動くことがわかった後に、今置かれている状況を実感し、改めて胸をなでおろした。
真っ暗な世界は、車にとっても難敵だった。ヘッドライト、は当たり前のことだが、まっすぐ前しか照らさずその範囲外は暗闇だった。昼間でさえ確認がしずらいヘアピンの連続する道は、いつ路面を外すかわからない綱渡りのような様なものだった。ヘアピンカーブのたびに車から降りて数十歩進んでヘッドランプで轍を確認しながら進む。来るときに20分できた林道を1時間近くかかってようやく舗装された養魚場まで来た。あとは大野の市街地を抜けて福井で高速に乗ればその日のうちに帰れると、やっと安心した気分になれた。と思ったら、500mも進んでいよいよ区画された田園地帯に入ろうかというところで、来る時には無かったはずのゲートが道をふさいでるではないか。道を一筋間違えたのかと思い、手前のT字路まで戻り、並行して走る別の道を進んだが、やはり進行方向に似たような柵が置かれ通行できない。何だろうと思い車を降りて確認すると、車止めの柵の間に電線が張らせている。警告文があって「通電中、危険!さわるな」とある。(写真を撮っておけばよかったが、動転してそれどころではなかった。【ここから一晩出られないのではないか】と。)横を見ると、何か説明書きがあったが、道をふさいでいる遮断機のような鉄製のバーはどう動かしても動かず、どこを触っていいかわからなかった。どこに連絡したら開けてもらえるかも書いておらず、しばらく途方に暮れる。そういえば最初に行った方のは、手前に動かせる「車止め」が置いてあり、その向こうに二本の電線が道路上に渡されていただけだったようなので、そちらに戻って、改めて説明書きを探して、見る。下手に触ったら感電しそうなので、やたらなことはできない。ヘッドランプを出して細かい字を追う。張られた電線の片方の端がプラスチック製のグリップのようになっているのを認め、それを恐るおそるつかんで握ると電線がフックから外れた。もう一本も同じように外し、バリカーを横にずらしてどうやら車を通せた。車止めのバリカーをもとの位置に戻し、電線をフックに架けなおして、再出発。朝、来た時は無かったのが、晩にあるということは、イノシシや鹿(あるいは熊?)などの野生動物から農作物を守るためのモノだったのかなと思う。そのようなことに縁のない都会住まいには思いもよらない経験だった。
今朝出るとき、「夕方の5時か6時には帰ってくるから」と伝えて出たが、頂上に着いたときに、それは無理だと悟ったので、改めて「9時を過ぎるかもしれない」とメールをしておいた。しかし下山に思いのほか時間がかかったので、それも無理と分かっていたが、電波は頂上のほんの一部しか通じず連絡できなかった。午後10時を回って大野の街に入ってから、のどの渇き(飲料水は車に着いた時に残りの全部を一気に飲んでしまっていた)と無性にアイスクリームが欲しくて、飛び込んだコンビニの駐車場から「12時を過ぎるかも」と電話したら、「何してんの!心配してんのに!今どこ?気をつけて帰ってよ」と叱られる。
午後10時26分、ようやく福井ICで高速にのる。これでやっと家に帰れる思ったら、もうひと山あった。夜間のトンネル工事のため鯖江インターで高速を下ろされてしまった。国道8号では途中道を間違え、さらに時間を食ってしまう。うまくいかない時は、うまくいかないことが続くものである。家に到着したのは日が変わった午前1時半近くだった。当然こっぴどく叱られた。
「2時までに帰らなかったら、警察に連絡しようと思ってたんだから!」
改めて自分でも、【よくも無事で帰れた】と思う。
早朝、5:30自宅出発-(花折鯖街道経由)ー7:25北陸道敦賀IC-(杉津SA小休止)
-8:11福井ICで降りる-9:10佐開登山口-9:20(林道に迷い込む)-9:45本来の林道に
戻る-10:32 「640m地点」に車止める-(林道を歩く)-11:20「850m地点」到着-(登山
入り口道がわからず林道跡を直進するも行き止まりで戻る。この間、林道最終地点、コース入口を間違
えて25分ロスする)-11:45「850m地点」再出発-13:15稜線上の佐開コース分岐点に出る-
13:30シャクナゲ平(昼食休憩30分。頂上目指すか、ここで戻るか迷う)-14:00頂上向け出発
(15:00をめどに行けるところまで頂上を目指す)-14:50中荒島岳(頂上まであと412mの表示
ー頂上目指す)-15:15荒島岳頂上到着-(休息)-15:45出発-16:00もちが壁(ここからペース
落ちる)-17:20佐開分岐-19:20「850m地点」(直前で日が完全に落ちる)-20:40車に到着
-21:30佐開登山口(出口にイノシシ避けの通電柵があり出方がわからずにまごつく)-22:26
福井IC-22:50鯖江で下ろされる(以下一般道)-23:45敦賀通過-(国境で日付変わる)-
午前0:35朽木通過-深夜1:25、自宅到着
荒島岳に行こうと決めたのは前日の午後だった。
4月に新型コロナの影響が全国に広がり、一旦は持ち直したものの、7月から8月には第2波が襲い、今年の夏山行きはどうなるだろうと漠然と考えているうちに梅雨の時期を過ぎて夏山登山の時期も終わろうとしていた。9月に行くとしたら、山小屋の状況はどんなんかとネットで調べてみたら、今年の営業を見合わせているところもあり、営業しているところでも完全予約制になっていて、あらかじめ申し込んでおかねばならなくなっていた。天気を見定めてから出発日を決めたいと思っていたから、旅館ではあるまいし、あらかじめ予約をするなんて有り得ないと思い、それなら辞めておこうとかなと思っているうちに8月も終わってしまった。一旦は諦らめていたが、来年になったら体力が今年より更に落ちて、もう山に行けなくなるのではと思ったら、1週間前にでも天気を見定めてどこかに行こう・・・そうだ!まだ行ったことのない早月尾根をたどって剱岳に行ってみようと考えた。無理をしないで通常の2倍の時間を取ってゆっくり余裕をもっていけばいいと。早速コースの途中にある早月小屋を調べてみたら、ナントよりによって【今年営業中止】の小屋に入っていた。穂高もいいが、一度行ったところに敢えて行くことはないと思い、今年の夏山は諦めることにした。
日帰りできそうな山でまだ行っていない山、百名山にこだわる訳ではないが、それなりに登りがいのある山を探していたら荒島岳があった。調べてみたらコースが4つほどあって、最短のコースである佐開コースの林道を850m地点まで登る道を選ぶ。場合によっては反対側のコースに下りることも想定して、念のため自転車も積んでおくことにして、天候を見定めて前日の晩、急遽準備をして早めに床につく。
【夜明け直後の「比叡山」-今日の天気は快晴】
9月15日、予報は快晴。午前4時前に目を覚まし5時半、自宅を出発。深泥池から宝ヶ池に出て、そこから一路鯖街道を敦賀に向かってが走る。
【 北陸自動車道、往路は敦賀から福井まで、復路は鯖江で下ろされ、京都まで一般道で戻る 】
7時半前、敦賀から北陸自動車道に乗る。朝食をとっていなかったので杉津サービスエルアに入り、途中で買ったおにぎりとホットドックをほおばる。敦賀湾を眺めた後、福井ICを目指す。
【 北陸道、杉津SAからの敦賀湾 】
福井IC、8時11分通過。ここからは一般道を行くが通勤時間と重なって、割と車が多い。市街地を結ぶ道路にはやたらとトンネルが多い。大野市の街に入り、コンビニで水と食料を補給する。
【 背後に大野城が見える 】
田園地帯に出ると視界が開け、一目でそれと分かる荒島岳の姿が前方に見える。思っていたより標高は低く見える。《比叡山とあまり変わらない高さにしか見えない》あれで1500m超もあるのかと思う。
【 大野市の田園地帯から眺める荒島岳-さほど高さは感じない 】
佐開コースの入り口は地形から見て、あてずっぽに車を進める。左に見えるコブが「小荒島岳」で、その向こうの陰になった谷筋をたどり、鞍部に登り詰めるルートを行くのだと想像しながら稜線を目で追う。カーナビも確認して間違いなく地図にある養魚場の横に到達できた。ここまでは順調!
いよいよ鬼ヶ谷林道に入る。
【 佐開の登山口から林道を進む。途中間違え別の林道に迷い込む 】
谷筋に沿って平坦な道を1km進んだあたりからカーブの多い登り路になる。舗装はされていないが道筋ははっきりしていて、ぐんぐん高度を稼ぐ。2kmくらい進んだろうか。どこか目指す方向と違うのではないかとGPSを見てみると大きくコースを外れている。途中、分かれ道などなかったように思うが、GPSのさし示すコースを外れたあたりにある分岐点らしき地点まで戻ると、鋭角に曲がる道筋がついていた。これでは気が付くはずないと思いながらその道を進む。(地図の《青緑》色から《黄オレンジ》色に変わる地点-GPSの軌跡で《青緑》は時速30Kmから60Km、《黄オレンジ》はそれ以下の速さを示している。因みに《赤》色は4km以下か停止)
ここからの道がひどかった。道幅は車幅ぎりぎりほどしかなく、しかも両側から草木が道に迫り出して覆っているから前方はほとんど見えない。しかもその路面は轍が深く刻まれ中央部が盛り上がり、車の底部を草木が擦りながら進み、たまに転がっている石などがあるとガツンと響く。これじゃ、オフロードの車でないとダメかと思った。しかし、少しでも前進して高度を上げおかないとと思い進む。いよいよ、これ以上は無理かと観念して、カーブがふくらんだ多少余地のある所に車を停めて歩くことにする。地図とGPSで場所を確認すると高度640m地点あたりだった。
【 林道640m地点に車を置く 】
靴を履き替え、ザックに最低限必要な食糧、飲料水、雨具に防寒具とヘッドランプを押し込み、すぐに歩き始める。しばらく林道を進むと、それまでとは違って、これなら楽に車でも行けると思われる道が開ける。戻って、車で行こうと考えたが既に4~500mは進んでいるから、そのまま歩き進める。あまりに手前に停めて、損をしたように感じる。
【 これならもっと先まで車で行けた 】
1時間近く歩いたろうか。ここが本来車を停めるべき850m地点に到着する。車が5、6台停められるスペースがあって立派な看板までたっているが、人影も他の車も何もない。やはりここまで車で来るべきだったと思うが、遅かれし!
ここで林道は終点のはずだが、轍がその先に続いている。その轍につられるように歩みを先に進める。200mも行かないうちに突然道が途絶える。おかしいかなと思いGPSを見ると、やはり登山道は別の所にあった。看板のある広場近くまで戻ると、わきに「登山者の皆さんへ」と書かれた小さな看板。その横に雑草に覆われた道筋があった。ここからは林道でなく、人がやっと通れる段差のある狭い登山道だった。それと知らなかったらわからない。本来ならば、ここまで車で来て、遅くとも10時には頂上に向けて歩き始めるはずだったが、時はもう11時45分、昼前だ。
【 この小さな案内を見落とす 】
ここからが急登の本格的登山道。息を切らしてシグザグの道を必死に登る。視界はきかないが踏み跡はしっかりしていて迷う心配はもうない。しかし段差がきつく木の根っこが邪魔をして歩きづらい。ようやく本峰に至る稜線が見えてきて、13時15分に中出コースとの合流点「佐開分岐」に到着する。お腹もだいぶすいてきた。逆方向に少し戻ることになるが、適当な休息場所が見当たらないので「シャクナゲ平」で休むことにする。
【 佐開コースへの分岐点 】
「シャクナゲ平」はメインの中出コースと勝原コースが合流する稜線上にあり、ちょっとした広場になっている。昼飯を取りながら地図とにらめっこをして、どうしようか考える。時刻は1時半だから本来ならば下山を始めている時間である。
【 シャクナゲ平に到着 】
せっかくここまで来たのだから戻るのは惜しい気もする。悩んだ挙句「暗くなる前に下山できればいい」と思い、頂上までたどり着けなくても、3時の時点を折り返し時刻に決めて、行けるところまで行ってみようと、午後2時に頂上に向け出発する。
【 地図(歩行区間) 】
「小荒島岳」を背に急斜面を登る。息が切れるが、少しでも先に進もうと踏ん張る。
【 小荒島岳とその向こうに大野平野 】
3時10分前、急斜面を登り切り、立っている「中荒島岳」の道標を見ると「頂上まであと412m」とある。頂上らしき方向に目をやると、なだらかな草地が続いている。10分は超えそうだが、それまでよりずっとゆるい傾斜だ。「行こう!」
【 「中荒島岳」 頂上まで412mの標識 】
15分もあれば着くと思っていたが、やはり足取りは重く、25分かかって15時15分にようやく頂上に到着する。「やったー」と歓喜のあまり、持っていった缶酎ハイを一気に飲んでしまった。(結果としてこれが間違いの極みだったのかもしれない。)
【 荒島岳山頂 】
白山こそ雲に隠れてその姿を確認することはできなかったが、ほかの周囲の山は360度見渡すことができる。いい気持ちで、頂上の方位盤に描かれた山の名前と実物を見比べては写真に収め、つい見とれて時を過ごしてしまった。
15時45分、下山開始。30分も休んでしまったが、何とか陽のあるうちに車に戻れればいいと思う。
【 頂上付近から850m地点までの下山の軌跡 】
多少アルコールが回って、いい気分で緩斜面を下る。15分ほどで「中荒島岳」の「もちが壁」の下り口までくる。
【 ここまでは良かった「中荒島岳」標識 】
ここからは岩のゴロゴロした段差の大きい急斜面だ。鎖場もロープを頼りに下りるところもあるが、足場を確保するのに体をよじりバランスを失う。両手をつきながら腰を落とし足を地面に付きながら体重を移さないと降りられない。やや段差の小さい場所でも片足で降りようとしようものならバランスを崩し横に倒れ尻もちを搗く。足には激痛が走る。一歩進んでは冷や汗をかけ深呼吸してから次の一歩を出す。
本来30分か40分で行ける佐開分岐まで2倍以上の80分をかけてようやくたどり着く。午後5時20分を回ろうとしていたが、西向きの斜面にはまだ陽はある。
【 佐開コースへの分岐点 】
何とか明るいうちに林道まで出たいが、際どくなってきた。段差は多少緩くなってきたが片足ずつ交互に出して立ったままの姿勢では降りられず、体を横向きに手を着きながら半歩ずつ歩く。やたらにバランスを失いなんでもないところでとこ横に倒れる。割と平坦な所でもまっすぐ歩けない。やっぱりアルコールのせいか。(普段、酎ハイ1杯程度で酔うことなどないのにどうした事かと思う。それとも最近、低周波音からの痛みを弱めるため神経の働きを鈍化させる薬を服用しているが、そのせいなのか)とも考えるが、アルコールを飲んだのは間違いだったと悟る。だが後の祭り。林道まで出れば、段差も大きな岩もないので、手を突かずに楽に歩けると思うのだが、その850m地点に出る2~300m手前で完全に太陽の光は消えてしまった。その手前からヘッドランプをつけたが、完全に日が落ちるとさすがにヘッドランプの明かりだけでは頼りない。一歩一歩ランプの照射角度を変えながら進む。誰にも会わない真っ暗な道を進むが、今考えると、よくもまあ熊やイノシシに出会わないで済んだかかと思う。今年はドングリの生育が悪くえさを求めて山里に熊がよく出没して人を襲ったというニュースを帰ってきてから頻繁に見たものだから、その時はそんなことは考えなかったが、今考えると冷や汗をかく。
【 もうあたりは真っ暗 】
ヘッドランプの明かりを消してみると真っ暗で、月明りもなく何も見えない。ランプの明かりの当たる周辺だけがほんのりと浮かび上がる。
午後7時20分、林道最終地点(850m)にようやく到達する。ここまでくれば段差もない車道が続くから、足元もそんなに気にせずに済むから一安心である。そう思っていたら、しばらく進むと足がゆう事を利かなくなった。足が前に出ないのだ。酔っ払いが左右に揺れながら蛇行するようにちっとも前に進めない。まっすぐ立とうと思っても重心が後ろにかかり、思わず体制を支えようと足を後ろに出してしまう。意識を集中して2歩前進しても3歩後退してしまう。思わず座り込んで考え込んでしまことの繰り返し。GPSで見ると車の停めてある場所はもう少しなのに、なかなかたどり着けない。最後の50mを進むのに20分以上かかてしまったのでは思われた。暗闇の向こうに黄色の車体の影を見つけたとき、時計は8時40分を指していた。
車を運転する足の感覚はちゃんと残っていた。ザックを下ろし靴を履き替えスターターのキーを回す。エンジンは一発でかかった。(いつか近くの北山で駐車中にバッテリーが上がり、始動できずブースター持参の娘に助けに来てもらったことをふと思い出した。)車が動くことがわかった後に、今置かれている状況を実感し、改めて胸をなでおろした。
真っ暗な世界は、車にとっても難敵だった。ヘッドライト、は当たり前のことだが、まっすぐ前しか照らさずその範囲外は暗闇だった。昼間でさえ確認がしずらいヘアピンの連続する道は、いつ路面を外すかわからない綱渡りのような様なものだった。ヘアピンカーブのたびに車から降りて数十歩進んでヘッドランプで轍を確認しながら進む。来るときに20分できた林道を1時間近くかかってようやく舗装された養魚場まで来た。あとは大野の市街地を抜けて福井で高速に乗ればその日のうちに帰れると、やっと安心した気分になれた。と思ったら、500mも進んでいよいよ区画された田園地帯に入ろうかというところで、来る時には無かったはずのゲートが道をふさいでるではないか。道を一筋間違えたのかと思い、手前のT字路まで戻り、並行して走る別の道を進んだが、やはり進行方向に似たような柵が置かれ通行できない。何だろうと思い車を降りて確認すると、車止めの柵の間に電線が張らせている。警告文があって「通電中、危険!さわるな」とある。(写真を撮っておけばよかったが、動転してそれどころではなかった。【ここから一晩出られないのではないか】と。)横を見ると、何か説明書きがあったが、道をふさいでいる遮断機のような鉄製のバーはどう動かしても動かず、どこを触っていいかわからなかった。どこに連絡したら開けてもらえるかも書いておらず、しばらく途方に暮れる。そういえば最初に行った方のは、手前に動かせる「車止め」が置いてあり、その向こうに二本の電線が道路上に渡されていただけだったようなので、そちらに戻って、改めて説明書きを探して、見る。下手に触ったら感電しそうなので、やたらなことはできない。ヘッドランプを出して細かい字を追う。張られた電線の片方の端がプラスチック製のグリップのようになっているのを認め、それを恐るおそるつかんで握ると電線がフックから外れた。もう一本も同じように外し、バリカーを横にずらしてどうやら車を通せた。車止めのバリカーをもとの位置に戻し、電線をフックに架けなおして、再出発。朝、来た時は無かったのが、晩にあるということは、イノシシや鹿(あるいは熊?)などの野生動物から農作物を守るためのモノだったのかなと思う。そのようなことに縁のない都会住まいには思いもよらない経験だった。
今朝出るとき、「夕方の5時か6時には帰ってくるから」と伝えて出たが、頂上に着いたときに、それは無理だと悟ったので、改めて「9時を過ぎるかもしれない」とメールをしておいた。しかし下山に思いのほか時間がかかったので、それも無理と分かっていたが、電波は頂上のほんの一部しか通じず連絡できなかった。午後10時を回って大野の街に入ってから、のどの渇き(飲料水は車に着いた時に残りの全部を一気に飲んでしまっていた)と無性にアイスクリームが欲しくて、飛び込んだコンビニの駐車場から「12時を過ぎるかも」と電話したら、「何してんの!心配してんのに!今どこ?気をつけて帰ってよ」と叱られる。
午後10時26分、ようやく福井ICで高速にのる。これでやっと家に帰れる思ったら、もうひと山あった。夜間のトンネル工事のため鯖江インターで高速を下ろされてしまった。国道8号では途中道を間違え、さらに時間を食ってしまう。うまくいかない時は、うまくいかないことが続くものである。家に到着したのは日が変わった午前1時半近くだった。当然こっぴどく叱られた。
「2時までに帰らなかったら、警察に連絡しようと思ってたんだから!」
改めて自分でも、【よくも無事で帰れた】と思う。