【2008年2月20日】 京都シネマ
旧ソ連の硬直した官僚主義、社会帝国主義というべき恐ろしく暴力的な侵略者の爪跡はいろいろなところに残っている。
この映画もそんなソ連の横暴の関わりを描いたものである。
時代は1956年、メルボルン・オリンピックの開かれた年である。メルボルン・オリンピックといえば日本の水泳陣が活躍したころだったが、映画では「水球」の試合が絡んでいる。
つい最近、日本ではハンドボールを巡って、審判の不公正なジャッジが問題となって再試合なども行われていたが、こちらは流血事件にも発展して、しかも秘密警察や政治が絡んでいるからずっとたちが悪い。映画を見てはじめて、そんなことがあったんだと思う。
水球のジャッジの話にとどまるならまだしも、背景はもっと陰鬱である。
東西冷戦下の、ソ連のスターリン主義の横暴な支配下にあるハンガリーで、自由と解放の動き始めたときの物語で、一水球選手の葛藤を軸に展開する。
結局、その「ハンガリー革命」はソ連の戦車に押しつぶされてしまうが、そこで何が起こっていたか、目をつぶっては入られない気持ちになる。
映画は、そこでどんな駆け引きがあり民衆がどんな苦痛を被ったか、何が悪で何が真実かを、ある意味でどんな社会科の教科書よりわかりやすくリアルに展開してくれる。当時は現実の力関係で明瞭に描けなかったことも、時代の流れとともに、真実が浮かび上がってくる。
「秘密警察」恐ろしさは、最近の映画「善き人の為のソナタ」にも描かれていたし、ちょっと古いところでは、ユーゴの映画「パパは出張中」が印象に残っている。
今回の映画は、「ホテル・ルアンダ」もそうだったが、歴史的事件の当事者が国外に逃れて、その体験を記すというものだから迫力がある。
そこには、映画では避けられない一定の制約、創造性も働いているし、当事者個人のとらえ方の制約もあるだろうが、やはり背後に浮かび上がる歴史的真実の大きさには圧倒させられる。
ハンガリーには2日間しかいなかったが、かつてそんな事件が起こった場所であることは、美しい町並みを見るだけでは想像できなかった。
そいて2日前、「コソボ」がセルビアからの独立を宣言した。主なEU諸国は支持を表明しているようだが、「バスク」の独立問題を抱えるスペインとロシアが反対を示している。ロシアは体制が変わっても昔の恩讐は変えられないのか。
流血の事態にならなければいいのだが。
「君の涙、ドナウに流れ」-公式サイト