『ベルファスト71』 【 2015年10月29日 】 京都みなみ会館
舞台は「北アイルランド」の首都ベルファスト。英国本国から派遣された「治安維持部隊」の若い一兵士がIRAの活動が活発な地域に一人取り残される。映画は、【いかに狂気の殺人集団から兵士が脱出できるか】という【緊張感】だけに焦点を当て仕上げているように見えるがが、やはりこの映画は、単に【スリル】と【サスペンス】の娯楽映画としてみるのではなく、その歴史的背景-『IRA』と『アイルランド共和国』独立の関係や『北アイルランド』・『イギリス本国』の関係、あるいは、『プロテスタント』と『カトリック』の関係を理解していた方が、ストーリや登場人物の背景を理解できるし、より緊迫感を味わえる。
『アイルランド独立戦争』(1919-1921年)の結果として結ばれた『英愛条約』でアイルランド島北部の「アルスター6州」を除いて「アイルランド自由国」(のちの「アイルランド共和国」)の独立が認められたが、北6州は英国統治下のまま残される。また「自由国」が【「イギリス連邦」傘下の自治国とする】ことに関して、【穏健派】と【強硬派】の間で意見が分かれ、『アイルランド内戦』(1922-1923年)がおこる。(このころの状況を描いた映画が『麦の穂をゆらす風』(2006年、英・愛合作 ケン・ローチ監督)だった。
『麦の穂をゆらす風』-2006年 イギリス・アイルランド
1971年という年代は、1969年に『IRA主流派』から『IRA暫定派』が分裂した直後の時期にあたり、穏健な『主流派』に対し『暫定派』は【アイルランド全島を統治する単一国家】の建国を目的とし、それは【武装闘争】でのみ実現されると主張していた。(その後、2005年に武装解除と平和的手段への移行が発表される。)
したがって、当時のベルファストでは【暫定派】の警察官、英国兵士へのテロ活動が横行し、そこに放り出された兵士(IRAの取締のために派遣された)がどんなに危険な状況にあるのかがわかる。
『ベルファスト71』-公式サイト
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『名もなき塀の中の王』 【 2015年11月1日 】 京都みなみ会館
一方、こちらの映画は主題こそ全く別のものであるが、共通点は、テーマの1つが【サバイバル】ということと、主演が『ジャック・オコルネン』ということと、撮影の舞台が『ベルファスト』ということである。
そして、緊張の連続。
時代背景は、現代なのだろうか。成人刑務所に未成年の一人の若者が収監されてくる。暴力でしか【自分を表現できない】人間を、周囲の人間ががはたらき掛け、変えようとする。保身と無理解と、それを妨害する者や【制度】の存在もある中で、
「権力機機構」や「悪しき恩讐」に立ち向かうセラピストや、同じ刑務所に服役していた父親が、その子対して見せる執念などが複雑に絡み合った、ずっしりと心に残る映画だった。
この映画をみて思い出すのは、ノルウェイ映画の『孤島の王』である。オスロの近くの「バストイ島」にある「未成年矯正施設」で、1915年に実際に起こった少年たちの《暴動》を扱った映画だったが、大きな衝撃を受けたものだった。
鎮圧のために軍隊まで出動したというから、大規模な《反乱》だったようであるが、場所が孤島であったということと、政府がこの事実を公にしなかったいうこともあって、映画が公開されるまで一般市民にはあまり知られていなかった《事件》だったようだ。
その後、この施設は閉鎖された(1970年)が、1988年以降はバストイ刑務所となっているそうだ。公式サイトの解説によれば、
ここは「助け合いで社会生活を学ぶ」、「規則を順守することの大切さを学ぶ」ことを目的とし、エコロジー、人道主義そして責任感の育成を三本柱とする世界初の
人間生態学的な刑務所として知られている。施設には鉄格子がなく,テレビやパソコンが利用できる他、島内の外出も自由で、「社会や家族との関係が維持できるよう
に」という配慮から休暇制度も定められている。
ということだ。
それにしても、この映画を見ても思うのは、日本の刑務所の雰囲気とずいぶん様子が違うように感じる。(入ったことがないので、実態はよく知らないが、映画その他で感じる範囲での判断で)
あんなに自由に受刑者同士が行き来できるものなのかということと、所内に《ジム》みたいなものもあったりして身体を鍛えたり、リラックスできたりで、処遇が日本と全然違うように感じた。
『名もなき塀の中の王】-公式サイト
『孤島の王』-公式サイト(アーカイブ)
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【 2015年11月21日 追記 】
昨日、旧フランスの植民地であったアフリカの「マリ」でまたテロ事件があったことが今日の新聞で報道されていた。人間は同じような歴史を繰り返し、ちっとも進歩してないようにも見えるが、2つの映画を見れば、やはり進化しているのが分かるというものだ。
テレビの報道番組で、ある解説者が《オランド大統領がパリ同時テロの報復としてISへの爆撃をエスカレートさせている》ことをとらえ、《まるで、9/11直後の《テロとの戦い》を宣言したブッシュの姿を見ているようだ》と形容していたが、その通りだと合点する。
《武力、暴力では、問題はなにも解決しない》ことを、為政者はしっかり歴史のなかから学ぶ必要がある。