『ブラス!』を最初に観たのは、1998年の『京都みなみ会館』においてである。まだ、売り出し中のユアン・マグレガ―が初々しかった。過去にもベータのテープやDVDで何度も観ているのだが、先日衛星放送でしていたのを録画しようと思いチャンネルを合わせたら、画面に引き込まれそのまま最後まで改めてじっくり観てしまった。
まだブログを始める前だったから、記事にはしていないが、当時の手帳を見ると以下のように記している。
【 映画『ブラス!』(みなみ会館)、実にさわやかな映画だった。。『イルカや鯨を救う時には直ぐに動いて
金も出すのに、人が窮地に追い込まれても政府は何もしてくれない!』と(、新自由主義を批判する団長
の受賞スピーチ)の言葉が印象に残る。最後に優勝トロフィーの授与を一旦は辞退するが、(副団長が)
取り返す時の弁がいい。『あれは、言葉のアヤだ』と。
全編に渡って響きわたるブラスの響きもすばらしい。 】
この映画の時代背景は1990年代の初頭のイギリス、ヨークシャー地方。最初見た時は、「この映画はいったいいつ頃の映画?」と首を傾げた。産業革命以来、何事に関しても先進国であったイギリスは日本より50年は先んじてたはずなのに、日本では遠い昔に終わってしまった炭坑争議が「なぜ、こんな最近に」と、タイムスリップに陥ったように感じたものだ。
というのも、日本のエネルギー政策の転換により石炭から石油に移行することで、各地の炭坑が廃坑に追い込まれていき、三井三池の炭坑争議をを中心に労働争議が最も激しかったは1950年代の終盤だ。この映画の時代の30年以上も前の事だ。
一方、イギリスでサッチャーリズム(新自由主義経済政策)の嵐が荒れ狂い、全国にある174の炭坑の内20坑を廃坑にし、2万人の合理化計画を進めたのに対し、炭鉱労組がストが最も激しく、全面対決をしたのは1984年から85年にかけてだ。
サッチャーリズムは、この労組解体に全勢力を注ぎ(最大の労組だった炭坑労働組合が中心の標的だった)、国営企業は解体され、次々民営化され、小さな政府を合言葉に福祉予算は大幅に削られ、大企業や富裕層の税金は減免され、《規制緩和》で労働力市場は流動化されて労働者の賃金は切り下げられ、大企業や金融資本が儲けやすい世界を作り上げていった。アメリカのレーガンが進めた『レーガノミクス』とともに、中曽根がそれを習い、小泉が仕上げを行った《規制緩和》と《新自由主義》の『構造改革路線』の見本となったことは周知の事実である。
《ゾンビ》のように甦った安倍首相が《アベノミクス》と銘打って行おうとしている政策は、まさにその延長線上にある。
1984年のストの様子を伝える映像(Yu-Tube)
話は戻り、この映画は労組の敗北が決定的となり、その嵐が収束に向かう中《最後の抵抗》をしている1992年という設定だ。劇中のセリフにある「10年前のスト」というのは、1984年のその全英炭坑ストライキをさしているという。
映画の舞台である『グリムリ-』は、実在する南ヨークシャ-の炭坑町『グライムソープ』をモデルとして、そこのバンド(グライムソープ・コアリ―・バンド)の実際にあった話を元にしているという事だ。
グライムソープ炭鉱の閉鎖が決定した1992年に、同バンドは全英ブラスバンド選手権に出場、実際優勝しているという。
本当に、ブラスの音色がきれいだ。映画の中で流れる『アランフェス協奏曲』、『ダニーボーイ』、『ウィリアムテル序曲』、そして『威風堂々』と、どれも美しく聞きほれてしまう。
映画のサウンドトラックも彼らの演奏によるものというから、音色もいいし迫力が違う。
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イギリスの同時期の炭鉱町を背景にした、もう1つの忘れられない映画に『リトル・ダンサー』がある。同時にもう1度(とは言わす何回でも)見たい映画である。
2012年6月の『イギリス旅行』の際、訪れた『ロイヤル・アルバートホール』