この映画・本、よかったす-旅行記も!

最近上映されて良かった映画、以前見て心に残った映画、感銘をうけた本の自分流感想を。たまには旅行・山行記や愚痴も。

『小さいおうち』-中島京子著、2010年度直木賞受賞作を文庫本で読む

2013-01-24 23:12:52 | 最近読んだ本・感想
                 【 『小さいおうち』-中島京子著   文春文庫 2012年12月刊 】

 今、『東京家族』が公開されているが、山田洋次が次の映画の予定をテレビで発表したのを見て、早速その本を読んでみる。

 本は、2010年の【直木賞】を取っていて、単行本は2010年に出版されているが、一般に【賞】というモノに関心がなかったからその時は読んでみようとも思わなかった。《今時の賞を取る作品》というのには《ついて行けないのではないか》という懸念が先に立ち敬遠していたが、山田洋次が映画化を考えているならと、本屋に走る。

 時代は、大正ロマンの時代が去り『満州事変』やら『太平洋戦争』にいたるキナ臭い時期で、東京西部のとある私鉄沿線の街での回想と、甥の次男という健史が登場する“今の時代”が交錯する設定である。

 『東京オリンピック』も1964年のそれではなく、1940年に予定されていた方の話だし、小説の中には、《実在する》名前と《架空の人物》が混在するから多少ややこしい。

 『主婦の友』は知っていても『主婦の華』という雑誌が本当にあったかどうかはわらないが、美術雑誌の『みづゑ』もこのあいだまであったもので、そこに出てくる画家の名前も全て《本物》である。
 《鎌倉に行ったついでにおみやげを買ってきて》といわれる、シューマイの話だが、横浜の『崎陽軒』や、もう少し古いところで『博雅』のシューマイは知っていても、鎌倉の『二楽荘』のシューマイというのが実在したかどうか知らない。『資生堂』の“カレーライス”は初耳だ。『資生堂』は化粧品専科だと思っていたがレストランも経営していたのだろうか。『千疋屋』の名前も挙がっているが、銀座の『千疋屋』にはかなり以前、学生のころに“デート”で一度行ったことがあり、しぼりたてのグレープジュースの味が懐かしい。

 一方人物の方は、《マツウラ・ショウゾウ》は架空だが、他の複数挙がっている絵本作家の名前は本物だ。『石井桃子』も『松谷みよこ』にも(他の多くの絵本作家さんたちにも)子供の成長期にどんなにご厄介になったことか。

 個人的に興味深かったのは、もともとの『小さいおうち』の作者であるバージニア・リー・バートンが『いたずらきかんしゃ ちゅーちゅー』の作者であったという事だ。
 母親不在の晩の寝床で、寝付くまで何回もせがまれて読んで聴かせた本が、『小さいおうち』と同じ作者のものとは、すぐには結び付かなかった。
(『豊かさとは何か』の著者の『暉峻淑子てるおかいつこ)』が『サンタクロースってほんとにいるの?』を書いた人だと知った時も、同様の驚きをもった!)

      ○      ○      ○

 物語は、《古き良き時代》への懐古であると同時に、現在への警鐘にもなっている。
 現代から過去を見る、孫の年代の健史の目からはからは“おかしい”と思っても、時代の真っただ中におかれた人間は周りの雰囲気に呑まれて、よっぽど冷静に見ないと忍び寄る危機が見抜けない。それでもまだ、おそらく健史が受けたと思われる“戦後民主教育”は戦争に至る"危険な兆候"や"誤った選択"を、それと認識させる啓発的な歴史の見方が示されていたが、それも今大きく歪められようとしている。
 『南京大虐殺』は無かっとか、『従軍慰安婦』への政府や軍の関与・強制はありえなかったとか、・・・。

 『小さなおうち』を巡る思い出と共に、このお話が単なる『懐古主義』に陥らないよう、健史の言葉が《わさび》のようには話のあちこちに埋め込まれている。

      ○      ○      ○

 中島京子という名前、どこかできいたことがあると思ったら、いつか友人から贈られた『イトウの恋』の著者がそれだった。なるほど、この人はこういう作家だったのかと納得する。







 

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