この映画・本、よかったす-旅行記も!

最近上映されて良かった映画、以前見て心に残った映画、感銘をうけた本の自分流感想を。たまには旅行・山行記や愚痴も。

『涙するまで、生きる』-アルジェリア独立戦争の傷跡と、14日のISによるパリの同時多発テロの関係

2015-11-16 23:41:24 | 最近見た映画


   【 2015年11月15日 】   京都シネマ

 どんな映画かと思って観たが、意外と良かった。アルベール・カミユの原作であるという事と、ヴィゴ・モーテンセンが主役を務めているという2つの理由で映画館にいったが、当たりだった。

 映画のあらすじを言うと以下のようだ。
   1954年フランスからの独立運動が高まるアルジェリア。元軍人の教師・ダリュのもとに、殺人の容疑をかけら
  れたアラブ人のモハメドが連行されてくる。裁判にかけるため、山を越えた町にモハメドを送り届けるよう憲兵
  に命じられ、ダリュはやむを得ずモハメドを連れて町へ向かう。復讐のためモハメドの命を狙う者たちの襲撃、
  反乱軍の争いに巻き込まれ、共に危険を乗り越える内に、二人の間には友情が芽生え始めるが……。
                         (「公式サイト」より引用)


 モハメドを町まで送るにあたって、また道中、さまざまの事件が起こるのだが、劇中の次の言葉が印象的だ

  容疑者を連れてきた憲兵がダリュに町まで連行するよう命令したのに対し、ダリュがそれを断ると
  「お前は、上の者に睨まれているから注意するように・・・」と咎められる場面が1つ。


                                        


  2つ目は、ダリュらと共に移動していた独立派のゲリラが政府軍に包囲された時のこと。殲滅の危機にあった2人のゲリラが両手を挙げ投降したにもかかわらず、政府軍兵士が捕虜としないでその場で射殺してしまう。
 「やつらは、テロリストだ。我々は捕虜を取らない。テロリストを皆殺しにする」と言い放った将校に、ダリュは
 「捕虜を殺すことは国際法違反だ。殺すべきではなかった。」と自分の身の危険もかえりみずに、何度も繰り返し主張する場面。


                   


 もう一つは、モハメッドが再三、自分が殺されてその復讐を弟がとると言って、自分の命を粗末にすることに対し、
 「それでは復讐の連鎖は断ち切れない。生きろ!」と何度も怒鳴りつけるシーンである。 


                                                         


 後の2つはわかるにしても、1つ目の《ことば》の背景が-どういう意味があるのが最初は分からなかったが、「アルジェリア戦争」の《構図》を見るとその意味が分かった。(公式サイトの「アルジェリア戦争」の項を参照)

 当時「アルジェリア」と同様にフランスの植民地であった「カンボジア」や「ラオス」「ベトナム」が次々と独立したのに影響を受け「アルジェリア独立」の機運が高まり、その戦争が長引くにつれてフランス本国ではド・ゴールを中心に「独立容認」の機運が高まるが、それを良しとしない極右活動家や軍人が秘密密軍事組織(OAS)作り、アルジェリアに入植したフランス人らの組織=コロンと一緒に中央政府と対立することになる。1961年9月にド・ゴールの暗殺を計画したが失敗する。そんな背景のもとで、カミユ同様、アルジェリアで生まれ育ったダリュその人に、故郷の平和と独立を名がう立場から、《上のような言葉》を言わしめたと理解した。


 この公式サイトの記事を読んで、もう一つ大きな《収穫》があった。

 フレデリック・フォーサイス原作の映画『ジャッカルの日』はその見事な脚本とフレッド・ジンネマン監督の巧みな采配で、はらはらドキドキしながら何度も見た大好きな作品なのだが、いままで【どうしてドゴールが狙われる羽目になったか】などという事は、深く考えなかった。とりあえずストーリ展開の緊迫感に追われ必死で見ていたのだが、この解説をみて、【だれがどういう目的で暗殺しようと思ったか】-その謎が期せずして氷解した。



 話は変わり、私らの若いころに紹介された《カミユ像》は『不条理』というキーワードを中心に実存主義の系譜の中で位置づけられていた。『異邦人』や『シーシュポスの神話』(当時は「シジフォスの神話」と表記されていた)などは読んだが、アルジェリア出身であることも、どんな思想の持ち主とかも深くは知らなかった。だから『ノーベル文学賞』を受けていたと知ったときは、「えっ、そうなの」という感じだった。

 「カミユ」を改めてとらえ直すきっかけとなったのは映画『最初の人間』を見てからだ。それが今回の映画でさらに「カミユ」という人間の理解が深まった。


 たまたま見た映画にしては、収穫の多い映画だった。



         ○             ○               ○


 前日、パリでの衝撃的なニュースが入った。

 「テロ」は絶対に許されることではない。何の罪のない人を暴力で抹殺するということは、いかなる理由を持っても正当化することはできない。【テロを許さない世界を作るために全世界が一致団結する】まではいいにしても、武力で【ISを殲滅するために空爆する】のでは、何の問題も解決しない。新しいISを拡大再生産するだけだ

 この事件を知っていた上で、この映画を見たから、『【報復の連鎖】を止めなければいけない』という「ダリュ」=「カミユ」の言葉は重く響く。





   『涙するまで、生きる』-公式サイト


   『最初の人間』-公式サイト


   『最初の人間』にかんするマイブログ記事にジャンプ





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ドローン・オブ・ウォー』... | トップ | 2015年11月『苗場山か... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

最近見た映画」カテゴリの最新記事