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「戦争のほんとうの恐ろしさを知る財界人の直言」ー品川正治著(新日本出版刊)を読む

2007-06-10 11:40:55 | お薦めの本
                   『戦争のほんとうの恐ろしさを知る財界人の直言』
                     品川正治著  2007年 新日本出版刊


 本によると、品川さんは敗戦の直前、あの満州で戦争の悲惨さと背筋の凍るような恐怖感を体験したそうである。右足には今でも迫撃砲弾の破片が残っているという。

 日本側から見れば明らかに侵略戦争であったあの大戦が、何となく終わったという意味で「終戦」という言葉が使われるのに対し、民主主義陣営に帝国主義者が打ち負かされたという事実から「敗戦」という言葉を対置するが、品川さんは、あの戦争限りで戦争を終わらせるという意味をこめて「終戦」という言葉を、敢えて使う。


 日本と世界の関係、なかでもアメリカとの関係を分析する品川さんの基本的視点は、日本が現在平和憲法を持っていて、まがりなりにも平時を保っているのに対し、アメリカは基本的に戦争状態にある国であるという認識である。戦争を遂行している国と平和を国是としている国とが同じ価値観を持ち得ないにもかかわらず、あたかも同じ価値観をもって一心同体のように行動すること自体がおかしいのでは、と。「グローバリズム」は経済用語でもなければ、世界共通の価値を追求するスローガンでもなく、それはアメリカの「戦略」用語であると断言する。つまり、アメリカが世界を支配するとための方針なのだと。その通りだと思う。

 今、憲法第九条を一番変えたがっているのは、他ならぬアメリカである。戦場でアメリカの肩代わりを日本にさせるのに一番の障害になるのが第九条である。
 憲法改正手続きに関する国民投票法が成立し、改正に向けての一歩が踏み出された様な状況もあるが、

憲法第九条を変えるのに関して、失敗した時の恐さというを、アメリカの方がよく知っているのです。

という部分にはっとさせられた。確かに小選挙区制のトリックで得た数に任せて強引に進める最近の内閣の姿勢に不安を覚えたのかもしれない。

 『失敗すれば、世界第二位の日本が、アメリカと全くイデオロギーが対立する国であることを世界に示したことになります。』(P95)

 『世界第二位の経済大国が、自分の国の国益のために、あるいは国家主権の発動によって、一人の外国人も殺していないという歴史は、世界史にはありません。私はこれ一つ見ただけでも、いまの「改正」の動きはいかに戦後史に対する大きな冒涜であるかと思います。』(P104)


 これ以外の発言でも経済人らしく、

世界的に資本活動の意味が変わってきつつある(中略)。生産のための資本でなく~利潤だけを追求する資本が独立して動き出している。』(P172)

と、グローバリズムのうねりの中で暗躍する金融資本のあり方を批判し、経済は国民のためにないと意味がないと強調する。

 『高齢化・少子化は困ったことだ』という角度から論議するのは、『「国家経済の立場に立って経済効率だけを考えている。』(中略)『国民経済という視点に立てば、平均寿命がどんどん伸びていく事を、マイナスと見て論議することはあり得ない。
 なるほどそうだと思う。

 品川さんの様な考え方をするのは経済界では特異なものかと思ったらそうでもないらしい。

 『日本の産業の一部にすぎない「勝ち組」の経営者がトップに上がったので、経団連や経済同友会があんな発言をするようになった。他の経営者は賛成しているのではありません。反対できない立場にあるのです。』(P90)
 
 反対できない立場におかれているのはマスコミも最たるものだ。発言しようものなら即刻仕事がなくなってしまう。教師を始め公務員にもじわじわ圧力が強められている。

 ナチの台頭を許したドイツ経済界の失敗の経験をふまえ、日本の経済界も国民のための経済を真剣に考えないといけない。

 勇気ある発言に拍手!


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