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『橋下「維新の会」の手口を読み解く』-また大阪で、公務員の人権と自由を奪う【憲法違反の条例案】を提出

2012-07-15 11:07:02 | 最近読んだ本・感想
                          小森陽一著 新日本出版社 2012年5月刊



  【2012年7月7日~10日 記】

 大阪の橋下市長がまた、《とんでもない条例案》を出してきた。『(大阪市)職員の政治的行為の制限に関する条例案』である。

 骨子は以下の様になっている。

         

 見ればわかるように、表現の自由も、思想信条の自由も、政治活動の自由もない、そしてまた、違反した場合は《懲戒免職》という、まさに憲法違反の《でたらめな》な条例案だ。

 今年の2月、橋下市長は就任早々、業務命令という形で職員の思想調査を行なった。各方面から『思想信条・政治活動の自由を奪う憲法違反のアンケート調査だ』との批判が上がり、それを引っ込めざるを得なかった。

 職権や立場を利用して自分の考えや思想を他人に押し付ける事と、自らの主張や考えを明らかにする事とは全く別の次元の話だ。市職員も自ら働いて賃金を得る労働者であり、生身の人間だ。ましてや勤務時間外の行動まで規制されたのではたまったものではない。

 上記の本に
 『「ルールを無視する公務員がいるなら、それを正すのが政治家の仕事です」(「体制維新」-大阪都)などといいますが、自分自身が憲法の定めるルールを無視していることを自覚し自戒すべきでしょう。』(P-68)とあるが、まさにその通りである。


 最近の橋下市長の言動は以前にも増して場当たり的で無責任極まりなく右へ右へとなびいている。
 大飯原発の再稼働にあたっては、それまで脱原発の立場で再稼働を許さないと息巻いていたのに、《期限付き》というトリックを使って、結局再稼働を様にする側に回っている。
 また、消費税をめぐっては、当初民主党の『4年間は増税をしない』という公約に違反していると、声を大にして「《手続き上からも》断じて許されるものではない」と激しく非難していたのが、昨晩のテレビでは、「野田首相はすごい。税を上げて、社会保障の議論もしていく。確実に(消費税値上げやTPP加盟などを)『決める政治』をしている」と手のひらをかえして、最上級の持ち上げ方をしている。さらに「首相の考えに近い自民党の中堅、若手がいっぱいいる。このまま進めば新しいグループができて、ものすごい支持率が上がると思う」と政界・財界向けにエールを送る。一方、小沢陣営に対しては沈黙する。

 先日、『NHK』かの世論調査の結果が報じられていた。【次の衆議院選挙で橋下『維新の会』が候補者をたてて戦った場合、その候補らに期待するか】との問いに、過半数を超える人が【期待】もしくは【どちらかといえば期待する】と回答していた。同様の質問を立ち上げが予想される『小沢新党』に期待するかという設問に対しては、【(どちらかといえば)期待する】と答えたのはごくわずかだった。


 もちろん私も、《所属政党名》をカメレオンの様に次から次へと器用に着替える小沢一郎に期待するわけではないが、少なくとも野田首相や、それにシッポを振る橋下市長に比べたら、この間の消費税をめぐる主張は筋が通っている。筋が通っているとはいっても、所詮金権体質の政治家だ。
 自身の金脈をめぐる疑惑を追及されたり、迫る衆議院選挙を意識した言動と言われたりして揚げ足をとられる。
 しかし、小沢一郎のマスコミ嫌いにも表れているが、国民の反小沢世論は、一定マスコミや更に《裏の権力》によって作られた感じがしないでもない。



 橋下市長は、危険きわまりない条例案を次々出し、住民の口を封じ、庶民の文化・芸術をないがしろにし、福祉予算を削り更に貧困層を追い込む政策に出ているのに、上の世論調査の結果を見ても、橋下市長の本性と『維新の会』の化けの皮が剥がされていないと感じた。
 何の革新性もなく、独裁的な手法で『小泉改革』の二番煎じをして、自民党・民主党の大企業、財界よりの政策を嗜好しているだけなのに。



 本の内容に触れよう。

 第Ⅰ章 有権者を扇動する手法

 「教育基本条例」と「職員基本条例」は府・市議会に提出された段階から、その管理統制的な内容から府民や教育関係者から批判が出されたが、自民や公明の《協力》もあって、一部が成立してしまった。どうしてこんな悪法が成立してしまったか。
 著者は、背後にある橋下市長(前知事)と『維新の会』の巧妙な『扇動の5つの手口』を指摘する。

 『第1の手法は、悪役・悪玉・適役を意図的に捏造して、そこに攻撃を集中する手口です。』(P-15~)
 公務員や府・市職員が対象で、『有権者の支払う税金で安定した給与を得ているという構図を誇張し・・・不当な「既得権益者」であるように描く』としている。その手法が“小泉劇場”の焼き直しだと指摘する。
  
 『扇動手法の特徴の2番目は、多くの有権者の抑えに抑えているうらみや怒りに働きかけ、それをはらすような幻想を与えることです。』(P-20~)
 「既成政党ではダメだ」と煽り、それに乗じて総選挙に出ようとする人たちが「橋下塾」に集まってくる、と。

 『3番目の特徴・・』は『・・論理的に矛盾したことを、別々のところで、しかもほぼ同時に言っておく』ということです。(P-24~)
 矛盾することを軽々しくいっておいて、世論の方向を見定め、どちらでも選べるようにしておくやり方は、大飯原発や消費税への対応で見たとおりである。
 『4つ目の手口』は『思考停止』の手で、さらに『紋切り型連鎖』(第5の手口)へと連鎖していくとする。(P-25)
 つまり、悪玉の『教職員組合』が教え込んだ「憲法第9条」も《悪》として葬り去る列に加えられてしまう、ということだ。
 

 第2章 「条例案」が示した橋下氏の人間観、政治観

 まずは、『子どもを主権者でなく「人材」と考える思想』である。
 その背後には、グローバル資本主義があり、規制緩和の中での競争と自己責任の『新自由主義的発想』がある。

 『グローバル化が進む中、常に世界の動向を注視しつつ、激化する国際競争に迅速に対応できる、世界標準で競争力の高い人材を育てること。』(教育基本法第6条)を挙げて、著者はカジノ資本主義のようなもっとも堕落した資本主義に通じる『そのようなあり方に通じる教育理念のようなものを見るのは初めてだ。』といい、これでは『真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじる』(1947年制定の教育基本法)人間を育てることはできない、と断じる。

 世界で『勝つため』には大阪でまず勝たなければならないが、その前にクラスで競わねばならない。相対評価の元では、「5」をとるものと「1」をとるものが必ずいるから、相手を追い落とさなければ上に上がれない。こんな状況では「切磋琢磨」する関係はできないという。

 また、ふるさとでは「神童」だった子が、東大に入ったら「ただの人」になって精神問題を抱えてしまうケースを、著者はよく見るという。

 生徒ばかりではない。教師も「5段階評価」によって人事評価をして分断化し、『学校を上意下達の管理統制組織にしてしまう』(P-46)と指摘する。(堺市が議会で『職員の人事評価』で「維新の会」の相対評価を受け入れず『絶対評価』を採用したことに注目!

 第3章 「橋下氏の騙し」に対抗するために

 今、橋下市長が進めようとしていることは憲法違反の《むちゃくちゃなこと》であることははっきりしているのだが、以下の文が、《「ことば」を生業としている》この本の著者の真骨頂である。

 『2.「維新の会」を支持する人々の気持ちに向き合う』の章(P-73~)の文章を2,3引用する。

 『橋下氏はしきりに教師と公務員を攻撃します。・・・それをしていれば多くの人に自分が支持されるという思惑があるからです。』(P-74)

 『・・競争の中で自分が上に行こうと思えば、身近にいる人・・自分より少しだけ「上に」いる連中を蹴落とすべき相手として敵視する・・。』(P-74)

 『民間で働いている人、・・・(中略)・・生活不安を抱えている人々は、教師や公務員への非難で「憂さ晴らし」をすることができるし。・・橋下氏のような人の主張にある種の「共感」を得るのです・・。』(P-74)

 『・・本当に強い支配者とたたかうのではなく、身近な・・強すぎない人々を貶めることで憂さ晴らしをする方向に向けさせられる・・。

 その一方、次のように補う。

 『・・「独裁」という政治形態は、支配される側としての大衆の政治参加と積極的な支持によって可能になります。マスメディアを使った大衆的な意識や感情操作によって実現する訳です。』(P-79)

 ナチスドイツの場合もそうだが、はじめはナチスへの淡い期待から議席を与え、勢力を拡大させてしまった経緯がある。議会制民主主義をとる日本でも当然、有権者が投票しないと政権は成立しないはずである。しかし、日本の場合、マスメディアが大資本に握られ正しい情報が伝えられないことも考慮しないといけない。

 『・・理由を挙げずに「独裁者」と非難していると、その批判者が「悪玉」にさせられてしまう場合さえあります。

 橋下徹のやり方を非難する場合、その政策や言動を根拠にもとずいて批判するのでなく、「やれ橋下の家族が暴力団と繋がっている」とか「犯罪を犯している」とかの《裏情報的ネタ》で非難することを週間誌等でよく見受けるが、そういうやり方はかえって、読者や一般市民に反感を持たれるし、週間誌自体の「メディアとしての存在意義」を貶めるものだと、わたしは思う。週間誌は新聞と違い、編集者や上部の《検閲》が届きにくく、より自由度が高いのだから、もっと格調ある記事を載せてもらいたいと思う。


 『・・「橋下さんなら何か変えてくれそうだ」と思って・・』いる人に『・・「あなたは愚かだ」と受けとめられるような言い方をしてしまったのでは、連帯できません。』(P-80)

 『今年22歳になる人・・』は『・・ものごころついてからは、日本は不況、思春期がイラク戦争、自衛隊への戦場派遣、そして選挙権を得る前の政権交代で何も変わらなかったという人生で、そのあとが「3・11」です。・・・・明日の暮らしをめぐって不安でたまらない人が少なくないはずです。・・・それだけに、「白か黒か」はっきりしたものの言い方をする--この社会で生き残るには競争を勝ち抜くしかないのだ、役に立たない教師や公務員はクビにして当然だというような--橋下氏を「なんとなくいいかな」と思う面があると思います。

 そう、今の若い世代は、正職員の口もなく、給料は生活保護費以下だし、年金はアテにならないし、大変なことだらけ。

 『憎しみを煽るような言葉に気持ちをまかせるのではなく、本当に生活をよくするためにどうしたらいいか、一緒に考えることが大事になってきます。

 だからといって、生活保護の支給を狭めたり引き下げたり、公務員の給与を下げれば問題が解決すると考えるのは、お互いのクビを絞めあうだけだ。一晩で何兆円も儲けたり、たった数ヶ月の在職で億単位の退職金をもらったり、儲かっているのに税金を免除してもらったり、そういう連中から税金を取ることを考えないといけない。老齢者だって世間が言うほど、皆がみな多額の年金をもらっているわけではないのだ。


 『教育基本法に現れた競争主義管理統制主義教育への政治介入、また選挙で当選したら「白紙委任」とする政治観、そして破綻しても正しかったと固執する「思想調査」など、いずれも市民の利益になるものではないのですから。』(P-83)


                                   以上





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