安部公房は好きな作家で、10代から20代にかけていろいろ読みました。
(「密会」は単行本もあったはずですがすぐに探せませんでした)
「箱男」を最初に読んだのは20歳ぐらいの時だったと思います。
登場人物は多くないですが、その関係が複雑で、一体この部分は誰が一人称で書いてるのか、この部分は誰かの妄想なのかリアルなのか、などストーリーもテーマもほとんど理解できず、私には歯がたたない小説だと思いました。
映画「箱男」が封切られるというので、45年ぶりに再読しました。
少し内容を理解できたものの、頭の中は混乱し、曇りガラスで世界を見るようなぼんやり感があり、ぶつかっていったら思い切り跳ね返された気分です。
この小説は何度も読み返さないと理解するのは難しそうです。そもそも理解不能の不条理小説だから、理解しようとしないのがよいのかもしれません。
映画を観たらちょっとはスッキリするかなと思いましたが、まだまだ不明瞭な部分が多すぎてコメントが難しいです。
4日前に観たのですが、平日の昼間とはいえ観客は4人。私と同世代と思われる男性だけでした。
映画のサイトから引用します。
完全な孤立、完全な孤独を得て、社会の螺旋から外れた「本物」の存在。ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る『箱男』。
カメラマンである“わたし”(永瀬正敏)は、偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、遂に箱男としての一歩を踏み出すことに。
しかし、本物の『箱男』になる道は険しく、数々の試練と危険が襲いかかる。
存在を乗っ取ろうとするニセ箱男(浅野忠信)、完全犯罪に利用しようと企む軍医(佐藤浩市)、 “わたし”を誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)......。
果たして“わたし”は本物の『箱男』になれるのか。そして、犯罪を目論むニセモノたちとの戦いの行方はー!?
箱男はインターネット社会にたくさん存在する、匿名で、自分は見られることを拒み、他者を一方的に見る(そして批判する)者たちに近いと思いました。
原作にこんな文章があります。
一度でも、匿名の市民だけのための、匿名の都市 ーーー 扉という扉が、誰のためにもへだてなく開かれていて、他人どうしだろうと、特に身構える必要はなく、逆立ちして歩こうと、道端で眠り込もうと、咎められず、人々を呼び止めるのに、特別な許可はいらず、歌自慢なら、いくら勝手に歌いかけようと自由だし、それが済めば、いつでも好きな時に、無名の人混みに紛れ込むことが出来る、そんな街 ーーー のことを、一度でもいいから思い描き、夢見たことのあるものだったら、他人事ではない、つねにA(おやじ注:Aは箱男になってしまった者)と同じ危機にさられせているはずなのだ。
これを50年以上前に書いた安部公房はやはりすごいと思います。
5年半かけて300枚の完成作に対し、書き潰した量は3,000枚を超えたそうですから、作者にとってみれば「そんなに簡単に分かってたまるか」ということなのかもしれません。
今夜は「映画を語る会」で「箱男」をテーマに語り合います。どんな感想が出るか楽しみではあります。