慾はなく決して瞋(いか)らず
宮沢賢治
かずら筆
●
これほど難しいことはありません。
「慾(欲)」と「瞋(怒)」がセットになっていることを
よく考えてみると面白い。
「仏教語大辞典」によれば
「瞋」とは、
「三毒の一つ。また十悪の一つ。自分の心と違うものに対して怒りにくむこと。」とのこと。
煩悩の一つでもあるそうです。
自分が自分であることに満足せずに
常に他人と比較して、「自分と違うもの」すなわち
「自分より優れている」(と勝手に判断した)ものに対して
「怒り」「憎む」気持ち、それが「瞋」ということのようです。
「他人より優れている」ことを切実に願う心、それが「欲」なのだとしたら
「欲」と「瞋」がセットになっている意味もよく分かります。
「自分とは違うもの」に対して、むやみに批判せず
むしろ、柔軟に受け入れ、寄り添っていくこと
そのことを賢治は求めたのかもしれません。