「火口のふたり」「彼女の人生は間違いじゃない」などの瀧内公美さん主演の
現代社会を描いた秀作です。なんでも明確にしようとする風潮やネット社会のことを
扱っている映画です。
[あらすじ]
ドキュメンタリー監督の木下由宇子は女子高校生自殺事件のための取材をしながら、
父親が一人で切り盛りする学習塾も手伝っています。
取材対象の亡くなった女子高校生が通っていた高校も、何か隠蔽しているようなので、
その女子高校生の家族や、その女子高校生と交際しているとされていた
高校教師の家族を取材しているのでした。
[感想]
由宇子は父子家庭で育ち、学校の勉強も頑張ってドキュメンタリー監督になったのでしょうから、
それなりに苦労してきていて、正義感などはそれを支えていた要素だったのでしょう。
そのため、自分の作るドキュメンタリーも公正なものを目指すのですが、
父親が塾の生徒との間で犯した問題から、自分にも関係のある事柄として、
学校どころではない家庭に関わることになるという、二段構えの展開です。
何かと苦労して来ていて、努力して活躍している人には、その努力自体をする
基盤がない人のことは、見えないことが多いようです。
由宇子は自分が当事者になることにより、物事を明確にすることが、
いかにいろいろな人に回復不能なダメージを与えるのかを知る辺りは、
何かと物事をはっきり明確にしようとする近年の社会のあり方を問うているところです。
2時間半と長い目の映画ですが、この内容を描くには、それくらいは必要だったのでしょう。
ザラついた映像や、背景のノイズの多い音声などが、物語の内容を上手く補強していると
思いました。
映画『由宇子の天秤』予告編
露出せよ、と現代文明は言う:「心の闇」の喪失と精神分析 立木康介
という本を思い出す内容でした。