徒然なか話

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稀代のスーパースター ~ 出雲のお国 ~

2012-09-11 18:36:10 | 歴史
 今日も「江戸時代創始期」(西村真次著、大正11年出版)の中から一つ。
 江戸時代が始まった慶長8年(1603)、京の北野天満宮における歌舞伎踊りの興行をきっかけに、一躍稀代の人気芸能者となり、今日の歌舞伎の創始者といわれる「出雲阿国」に関するくだりをご紹介したい。

 連続した戦乱のために荒んで、ひどく殺伐になっていた江戸時代初期の人心を美化し、浄化し、醇化して、社会を軍国的気分から平和的気分に導いたのは、女天才お国であった。彼女の舞踊と唱歌とは、家康の学問奨励にも優って民衆に甦生の歓喜を与えた文化運動であった。舞台のお国の姿と、それに見られる群衆――その中には異国人さえも混じっている――の有様とは徳川侯爵家に蔵せられる「歌舞伎草紙絵巻」に名残なく現されている。磁石の鉄を吸収するように、異性の魂を吸収し、同性の心を攪乱した歌舞の女天才が、玉を転がすような美声で「夢の浮世にただ狂え、とどろとどろと鳴るいかづちも、君と我との仲をば裂けじ」と歌って、強烈な恋の煽動を具体化した、曲線美に富んだ、しなやかな舞姿が、この絵巻を通して私達にありありと見られるとは、何という幸福、何という歓悦であろう。

 いやはや、これ以上ないほどの賛辞であるが、お国の絶頂期は短かった。お国歌舞伎を真似た遊女歌舞伎にとって代わられ、慶長12年(1607)に江戸城で勧進歌舞伎を上演した後は消息がとだえたという。その後、セクシャルなものに傾倒した女歌舞伎は幕府によって禁止されることになる。

▼阿国歌舞伎夢華(Click to Movie)