徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

キツネの嫁入り

2022-08-18 20:12:39 | 日本文化
 先日、外出する時、車のドアを開けようとすると空は晴れているのに雨がパラパラっと落ちてきた。思わず「あ、キツネの嫁入り」と口走ったのだが、車を運転しながら「どうして晴れた日の雨のことをキツネの嫁入りと言うんだろう」と今さらながら疑問が湧いてきた。
 帰ってからネット検索で「キツネの嫁入り」を調べてみた。この言葉には二通りの意味があり、
  • 夜、山野で狐火が連なっているのを、狐の嫁入りする行列の提灯と見ていったもの。
  • 日が照っているのに、小雨の降ること。日照り雨のこと。
とあった。

 熊本では後者の意味で使い、虹が出たときに言うのが熊本の特徴であるという。そこで、そもそもの由来を調べてみると、キツネは稲荷神の神使として崇められる一方、人を化かすという民間伝承もあり、日照りの日に雨を降らすという超常現象を起こせるのはおキツネ様の仕業に違いないと信じられてきたようだ。しかし、それがなぜ嫁入りになるのか腑に落ちる説明は見出せなかった。


通り雨が過ぎた後、立田山の上に虹が


 そこで思い出したのが1990年に公開された黒澤明監督の映画「夢」の第1話「日照り雨」に描かれたキツネの嫁入りの話。これは黒澤監督の創作だと思われるが、昔の人々のキツネに対する畏敬の念を表現したのだろう。
 また、少年の母が、キツネの家は虹の下と少年に教えるが、熊本の伝承と符合するのも面白い。


映画「夢」第1話「日照り雨」のキツネの嫁入り行列シーン

[あらすじ]
 日照り雨が降る日、少年は母から「こんな日はキツネの嫁入りがあるからけっして外に出てはいけません。もし、それを見たら怖い目に遭いますよ」ときつく言われたにもかかわらず、怖いもの見たさでつい見に行ってしまう。森の中の木陰で様子をうかがっていると、やがて立ち込めた靄の中にキツネの嫁入り行列が現れる。身を隠しながらおそるおそる覗いているとキツネの一行は少年に気付いたようだった。少年は怖くなって慌てて家へ逃げ帰る。すると門の前に母が立っていて「お前は見てはいけないものを見た。さっきキツネが来て怒っていた。そしてこれを置いて行った。」と短刀を手渡される。「それを持ってキツネのところへ行って謝っておいで。それを返して両手をついて一生懸命謝るのよ」そう言いながら母は「キツネが許してくれない限りお前を家に入れることは出来ない」と門戸を締めようとする。少年が「でもキツネの家がどこかわからない」と言うと母は「こんな天気の日には必ず虹が出る。キツネの家はその虹の下よ」と言って門戸を締めてしまう。少年は虹を目当てに歩いて行く。